ゲーマー日日新聞

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DFMが僕に教えてくれたこと

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@team_detonation

 

2年前、僕はグランドプリンスホテル新高輪に向かっていた。

当時『LoL』というゲームを一緒に遊んでいた地元の友人に、日本のプロリーグである「LJL」の決勝戦が新高輪であるから、それを見るのだと誘われたのだ。

 

正直、僕は友人と飯を食べたいだけで、試合はどうでも良かった。LJL、という存在は認知していたのだが、そこで戦う彼らを本当にプロの選手として心から尊敬していたプレイヤーは、自分を含めてあまり多くなかったと思う。

その当時、日本サーバーは開設されて間もなく、大抵の日本の『LoL』プレイヤーは北米サーバーでの経験や価値観がまだ根強く残っており、自分たちにとってのプロとは、北米のプロたち、即ちNALCSの猛者たちだった。

無論、LJLに挑戦するのは何れも猛者ばかりで、自分より遥かに強いのだが、実際BjergsenやSneakyの戦う試合を見ていた僕らにとって、LJLはカスタムマッチの延長線上のようなものと、下手くそながら勝手に侮っていた。

 

そんな偏見に囚われていた僕に、合流した友人は「どっちを応援する?」と聞いてくる。

正直どっちでも良かった上に、cerosやyutaponはマナーの悪い青年だと聞いていた。だが何故か、「DetonatioN ForcusMe」が勝てばいいんじゃないか、と答えた。彼は「Rampage」が勝つだろうと言う。

いや、そんなはずはない。だってDFMはあのyutaponがいるし、韓国から来たプレイヤーも強い。それにレジェンド級の逸材である「Hikari」が加入したと言うじゃないか。負ける道理はない、賭けてもいいと思った。

 

 

 

 

 

 

……

………………

 

負けた。

めちゃくちゃ拮抗してたけど、最終的にドラフトと連携部分を突かれた形だった、と思う。

 

 「あー、負けたなぁ」 

そう口では言ったものの、不意に途方もない悔しさがこみ上げてくる。

口内は乾き、妙な動悸がする。友人と夕食をとって、ベッドに潜っても、あまりの悔しさでまるで眠れなかった。

動悸は止まず、彼らの悔しそうな表情ばかりが目に浮かぶ。

その時、これは一体何なのだ、一体どうしてしまったのだと、不思議でならなかった。

確かに自分の勝負で負ければ、悔しいと感じることもあるだろう。

受験、恋愛、運動、趣味、僕はいつもどこかで勝って、どこかで負けた。負けは確かに悔しい。でも仮に負けたとしても、自分の弱さが、自分の不利益として帰ってくることは、それなりに筋が通っているし、納得できる。

 

しかし、DFMの青年たちは他人である。家族や友人ではない。というか、数時間前までファンですらなかった。

そんな彼らが負ける事は、自分にはどうしようもない。何故なら、彼らの勝負であって、自分の勝負ではない。どうしようもないのだから、悔しいはずもない。だが悔しい。何故負けたのか、何故勝ってくれなかったのかと責め立てたくなる。

自分から10メートルも前にいる選手は途方もなく遠い。彼らは自分と会話したこともなく、自分と全く違う人生を歩んできた。全く赤の他人。尊敬などしない、同情もしない、憐憫は注がない。そのはずだったのに。

白熱した5試合を目の前で見ていて、多分その間に、彼らは特別な存在となっていたのだろう。僕と彼らはせいぜい、『LoL』というゲームが好きである事以外、全くの赤の他人のままなのに、彼らの悔しさをとても他人事と割り切れない自分がいた。

僕はこの時、初めて誰かの悔しさに本気で共感したのだ。そして、他人の力になれない自分の無力さも、この時初めて知ったのだ。

 

 

 

 

それから半年して、新たなLJLシーズンが始まった。そこから、自分はLJL大半の試合を観戦するようになり、決勝を見るために東京ビッグサイト、幕張メッセに訪れた。「今度こそ勝つ」と信じて。

しかし、DFMは何度も負けた。いかにシーズンでは好成績でも、いかに優秀な選手を迎えても、いかに選手たちが血の滲むような努力をしようとも、決勝戦ではいつもRampageに負けた。2年の間に計4回、自分は失意に沈む彼らの表情を見て、その都度やり場のない悲しみを覚えた。

だが何度覚えても、「赤の他人」の敗北が何故ここまで悲しいのかわからなかった。

それでも去年の夏、幕張メッセでの決勝戦で敗退した時、負けて最も苦しいであろう選手がファンを握手で迎えてくれた時、図々しくも列に並んだ自分に「応援ありがとうございます」と目を見て話してくれたceros選手を見て、自分の目が見えなくなるか、彼らが優勝するまで、必ず彼らの全ての試合を見届けようと思った事だけは確かだ。

何故自分は彼らの試合にここまで心を動かされたのか、必ず確かめようと。

 

 

 

そして、2018年9月15日。5度目の決勝戦が始まった。

対戦相手はUnsold Stuff Gaming。DFMを何度も追い詰めた旧Rampageさえ、3-0でKOした、文句なしの強豪チーム。

連携面に不安があったgariaru選手やtussle選手は文句なくチームの大黒柱となり、そして何より、gango選手とenty選手のLJL最強botレーナーの実力は、更に磨かれていた。

とりわけ、緑スマイトとサイトストーンの廃止により視界管理が難しくなり、キャッチアップが重要となったメタにおいて、enty選手のhook系サポートは脅威の一言だった。現に、準決勝では2試合スレッシュを起用し、かのLJL最高峰サポートのgaeng選手から有利をもぎ取るプレーを見せた。

 

1試合目、USGがファーストピックで「God Tier」のアーゴットを取ると、すかさずDFMはevi選手の得意とするカミールとタムケンチをピック。enty選手の得意とするスレッシュに対して、先んじて出した対抗策がこの半魚人、タムケンチだった。

負けじとUSGもザック、ガリオを揃えて確実に「ピックアップ」を狙っていく。だがDFMが取ったのはカミールとノクターンによる、ピックアップ構成。あのUSGから先に敵を捕まえて潰し、更に敵の捕縛はタムケンチで回避し、まず一勝を掴む。

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2試合目、USGは戦法を変えてマオカイ、セジュアニ、アリスターの3枚のタンクを揃えたラインで長期戦に備えるが、対するDFMは俄然evi選手によるカミールを軸に、トランドル、シェンを重ねたピックアップ構成。

やはりこのevi選手を止める事が叶わず、タンクラインを揃う前にDFMが勝負を決める事に成功する。これで王手だ。

 

だが場面が動くのは3試合目、USGはアーゴットに加えカミールをBANすることで、evi選手の封じ込めを行う。更にEnty選手のスレッシュに加え、Gango選手がシリーズ戦で何度も活躍したカリスタを取り、絶対にbotから作る意欲を見せる。やはりUSGの切り札はGangoだった。

これに対し、DFMはあと一歩の所という場面の集団戦で、あえなく敗北する。

 

一瞬不安がよぎった後の4試合目、このbotレーンで勝利しようとするUSGに対し、DFMはザックをBANした上でレーンに定評のあるヴァルスを選択。つまり、あくまで正面からUSGと戦う選択をする。

そして、ceros選手のアカリのプレッシャー、steal選手のグラガスのキャッチ、evi選手のwombo-combo、何よりbotレーンのyutapon選手とviviD選手の有利によって、この試合を勝利し、DFMは優勝した。

思うに、この試合のMVPはUSG側のgariaru選手である。実力者揃いのUSGでプールの狭さが指摘された彼が、一体どれほど練習をしたのだろう。この試合における羅刹と見紛うエイトロックスの動きは、彼の勝利への執念そのものだったと思う。

 

 

 

DFMが優勝した。彼らは遂に自分たちの実力を証明してみせた。

2年、5回の決勝戦を見届けて、自分は万感の思いであった。

昨年の決勝戦、幕張。敗北した彼らは、意気消沈していたものの、誰一人として項垂れてはいなかった。そしてファン一人一人と握手を交わし、相手の目を見て感謝の意を示していた。

その掌は、まるでロッククライマーのように鍛え抜かれた、ゴツゴツとした岩肌のような掌だった。そして、私の目を見据えた瞳には、必ず次こそは勝利するという闘志が宿っていた。

その時、私は確信したのだ。いつか、必ず彼らはまた優勝する。自分たちファンの眼の前で、満面の笑みでトロフィーを掲げてくれるのだと。

 

だがDFMにも危機はあった。DFMはジャングラーが安定せず、何度かメンバーが変わった。新たに加入したsteal選手は文句なしの実力者だったが、だからこそ1シーズンでも優勝を逃せば別のチームは引く手数多であり、現に一度は離れた。

だが、steal選手は帰ってきた。一体どんな心境だったのかは知れないが、2度も優勝を逃したにも関わらず、もう一度日本でやるというのは、底知れぬ覚悟が必要だったはずである。

そしてviviD選手。2016年1月から加入した彼は、長い間同じ韓国人かつサポートとして活躍するDara選手としのぎを削りながら、DFMのbotレーンを支え続けてきた。日本語も覚え、ファンとも配信で交流し、愛嬌ある表情で和ませた。

ceros選手、yutapon選手も一時は素行が非難された。だが今や彼らほど誠実なプレイヤーはいない。2014年から4年間、ずっとこのゲームに向き合い、ずっとファンに向き合ってきた。彼らこそLJLを代表する本物のプロだ。

そしてevi選手は……………

……

…………

きっと故郷カンボジアの郷土料理をゲーミングハウスの仲間に振る舞い、笑顔にしてきたはずだ。*1

 

 

 

どうあれDFMは優勝した。2016年の夏から2年。何度決勝で敗退する姿を見ても、必ず次こそは勝ってくれると信じた末に、彼らは本当に勝利を掴んだ。

彼らが敗北する度に、言い様のない悔しさに襲われた日々。きっと彼らが勝利したときには、得も言われぬ喜びと感動が待っているのだと、そう信じて観戦を続けてきた。

……だが実際、彼らが勝利した所で私はそこまで「感動」したわけでなかった。それは無論、一緒に観戦していた友人と手を叩いて喜んだし、こみ上げてくるものは本当に大きかった。

しかし、やはり彼らは赤の他人だ。これは彼らの勝利なのだ。どれだけ彼らのことを尊敬した所で、やっぱり自分のようなファン如きが喜んで良いのだろうか、彼らの勝利にそこまで肩入れすることは、おこがましいのではないだろうかと頭をよぎった。

 

すると、勝利インタビューの時、創設時からずっとDFMを支えたMIDレーナーのceros選手がこのようにコメントするのを目にした。

 

「正直、負けた4戦に関してはいいんです、いや良くはないんですけど。だから泣いてるってわけじゃなくて。viviDが、マジでその、最後になるかも知れないって……」

https://clips.twitch.tv/SnappyEnjoyableMelonPanicBasket

 

viviD、2016年1月に韓国から来日してずっとDFMのbotレーンを支え、日本語を覚えてファンへの応対も欠かさなかった彼は、かつて幾度となくインタビュー等で辞めようかと考えたと話す。祖国から離れた上での挑戦者が、あと一歩の所で優勝を逃し続けた、その無念は想像に難い。

だが同時に、今年3月のLJLreviewでは最も尊敬する選手としてceros選手を指し、誰より努力している所が凄いのだと話した。そしてceros選手はviviD選手を指し、「言語の壁を越えて尚、チームの意見をまとめてくれる」と評価していた。この2人の2年間培った結束は、途方もないのだろうと当時は思ったものだ。

そしてviviD選手は、かのUSGにおける最終兵器とも言うべきenty選手の仕掛けを、全てタムケンチによるピールで凌ぎ、優勝において極めて大きな役割を果たした。何が何でも勝つ、勝たねばならないという、勝利への執念で仲間を救い続けた姿は、かのevi選手のカミールよりも勇ましく見えた。

 

 

 

そしてceros選手の言葉を聞いた時、自分はこのチームを応援してきて、本当に良かったのだなぁと思った。

ただ『LoL』というゲームだけに打ち込み続けた青年たちを、2年間「どうにか、勝って欲しい」と祈るような気持ちで見届けた日々は、このためにあったのだと。

正直、やはり今年もダメなのではないかと不安になり、また時に、DFMとは無関係の理由とは言え、LJLそのものを二度と見たくないと失望することさえあった。

私の尊敬する赤の他人たち。彼らは、本当に凄い。この2年で彼らはどれだけ成長したのか、2年間、彼らはゲームだけでなく、仲間に、ファンに、全てに真摯に向き合い続けてきた。

ただゲームを続けただけの人間が、こんなにも見上げるような存在になるのかと感嘆する。だが今はもう、ただ感謝しよう。プレイヤーに、スタッフに。ゲーマーでよかった。LoLを遊んでよかった。LJLを観続けてよかった。DFMのファンでよかった。

この2年間は、真に実りあるものだった。ゲームだけに打ち込んできた人間が、仲間を思いやり努力を結果に繋げられる事を、証明してみせた。誰かの悔しさに共感できなかった僕が、彼らの喜びに共感できるまで成長できた。僕はやっとスポーツ観戦に心から熱中できる人の気持ちが理解できた。

lolプレイヤーらしく言うなら、「worth it」というわけだ。

 

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昨年購入したDFMのレプリカTシャツ

*1:真面目な話、DFMが勝利できたのは本当にevi選手の貢献が大きい。レーンでのドミネートから集団戦の活躍まで、最早彼と並ぶtopレーナーは日本に存在しないのだから。因みにevi選手がカンボジア人というのは本当である。