オーバーロード シャルティアになったモモティア様建国記 作:ヒロ・ヤマノ
<< 前の話
少し飛ぶけど戦闘シーンはもうみなさんわかる内容なので敗走シーンから
「ハァッ!ハァッ!」
大勢のクアゴア達がドワーフの都市に攻め込むために通った崩れた坑道。大勢のクアゴアの足跡が残る道を残ったクアゴアが必死に逆走していた。
クアゴアの名はヨオズ。
クアゴアの王『統合氏族王ペ・リユロ』に認められ、配下の中でも一,二を争う評価を得ている選りすぐりのレッド・クアゴアである。
――それがたった一匹。少なくとも周囲に同族のクアゴアは見当たらず、一匹だけで暗い地下道を走っていた。
「なんだ!なんなんだ!あれは!?」
周囲に誰もいないことはわかっている。だが声に出さずにはいられなかった。
ドワーフの都市方向へ地下通路が繋がっていないかの調査はヨオズの指揮の元、頻繁に行われていた。無数に広がる地下通路の世界、クアゴアは勿論ドワーフ達ですら把握できていない道が一つはあるだろうと高を括っていたが、どれだけの部下を動員しても通路は見つからなかった。
それがどうだ、山の神の御恵みか巨大な揺れが山全体を襲い地下のあちこちで岩盤が崩れ、目星をつけつつも通れなかった複数の通路が開通した、そしてそれはドワーフの都市に繋がっている可能性がある。無論それは希望的観測であり、全てが期待外れになる可能性も高い。
だがヨオズは躊躇しなかった。
もし期待した通り一つでも大裂け目と砦を迂回してドワーフの都市近くに出る道があれば――ドワーフ共を滅ぼすことさえもできる。
考えついたヨオズはすぐに王であるリユロに願い出て、その場で動けるクアゴア達だけを搔き集め調査とその結果次第では都市攻撃へ移行する事とした。
この作戦にはヨオズ自身言われるまでもなく穴がある。最たるものは軍の数が少なすぎる事。
クアゴアの全兵力はおよそ――一万六千、だがこの作戦では多く見積もってもたった二千だった。屈強なクアゴア達を集めることができたが、本来であれば今まで滅ぼしたドワーフの都市を鑑みて一万は欲しかった。
だが、地震により繋がった可能性のある通路をドワーフ共に塞がれる前に、その通路を見つけなければならない。
そのため今動ける者達のみを引き連れ、後続の軍も王に願い出ることにした。
そしてヨオズの期待した通路が見つかり後続への伝令も出した後、――侵略が始まった。
当初は思ったより優勢だった。どうやら戦える主なドワーフ達は大裂け目の方へ集中していたようで、クアゴア達はほぼ抵抗らしい抵抗を受けずにドワーフ達を殺しまわっていた。少数の向かってきたドワーフ達は数で押しつぶし、都市の中心部で暴れまわっていた時――それは起きた。
突然頭上に響き渡る雷鳴と蒼い光、それが電撃攻撃だと気づいたとき既に視界は真っ白だった。
視界が晴れた周りにいた部下達が消えており、そしてその足元には灰がうず高く積まれていた。先ほどの電撃と合わせれば何が起きたか、まだ色のついていない子供でも理解できる事だった。
「ドワーフのマジックアイテムか!?」
幸い上位種には効果が薄かったのかそれとも外れたのか、ダメージを受けていなかったヨオズは慌てて引き返し近くの別動隊と合流することにした。――だが。
「ぎゃあああああ!」「あがっ!」「し、指令官!」
自分の行く先々の部隊が全滅していった。自分以外の者達が全員――。
ほとんどは先ほどと同じように頭上から電撃の攻撃を受け、時には建物の影から気配もなく表れた黒い獣に喉を食いちぎられた部下もいた。
屈強な同胞を一瞬で殺し、何事もなく此方を見据えたその獣の恐ろしさに全身の毛が逆立つような恐怖を感じたが、獣は一瞬目が合っただけですぐに別方向に去って行った。
そしてヨオズは獣と雷により独り生かされ、進入路からそのまま逃げ帰る事となった。
「くそっ。ドワーフ達は何か恐ろしい力を手に入れたのか!?」
確かに自分たちの数は少なかったが当初は圧倒しており、後続の舞台と合流できればそのままドワーフ達に壊滅的な被害を出すことができるはずだった。そのまま都市を奪うこともできたかもしれない――。
(それにしても、なぜ俺は生きている?)
いや、生かされた。あの獣も雷もいつでも自分を殺すことができたはずだった。
(見逃された?一体何のために…)走りながら考えるが、今自分がしなければならないのは後続の部隊と上層部にドワーフの新たな力について報告しないと不味い。あの力が都市内部限定でないのなら、もし後続部隊に降り注げばクアゴアの軍は壊滅する。
頭の中で報告すべきことを整理し始め、全力で走っていた足をやや緩めた。――その時
「ここまでご苦労様」
ドワーフともクアゴアとも違う澄んだ声が辺りに響いた。
モモンガは透明化を解除し赤いクアゴアの前に現れる。
突然目の前に現れた漆黒の少女に反応し、慌てて足を止めるクアゴア。あの中で一番の上位種らしいがその一連の動きに恐ろしさは全く感じられない。こちらを驚愕の瞳(らしき二つの黒い点)で見つめ、固まっている。
「ドワーフの人達とは別に、あなた達からも一応情報を聞かせて貰おうかと思ってね」
「な!?……貴様はいったい」
「赤色のあなたはレアなんでしょ?ドワーフの人達から聞いたの。目立つから上からもすぐに見つけられたし」
「ドワーフ……そうか、おまえはドワーフではないのだな?先ほどの攻撃もおまえが」
「あぁ無駄話する気はないから。<
「…はい」
先ほどまで此方を見つめていたと思われる瞳の力が失われ、言葉もやや生気が感じられなくなる。
わざわざ一匹だけ逃がしたのは、ドワーフ達の前でのんびり質問するわけにもいかないためであった。さらにゴンド達から聞いた気になる情報の確認もあった。
「それじゃあまず、フロストドラゴンについて教えて」
(ふ~む、後発の部隊か……)
クアゴアやドラゴンの強さや元ドワーフ王国首都の位置、ドワーフとクアゴアそれぞれの兵力や今回攻め込んだ経緯など聞きたいことはほぼ聞き終えた。ドワーフ達から得た情報とのすり合わせは問題なく、中でもクアゴアとドラゴンの関係が友好的な関係ではない事は朗報だった。
(各個撃破出来るに越したことはないし、こいつらが反骨精神持てる程度の強さしかないかもしれないなぁ)
聞けばクアゴアの上層部は全て『いつの日かフロストドラゴン達を倒す』事が総意であるらしい。そのために領土を広げ、より多くの鉱石を集め自分たちの強化を図っているのが現状らしかった。
(クアゴアの強さはどうでもいいか、ドラゴンは一度強さを確認してみたいなぁ)
上位種であるこのレッド・クアゴアは何匹いても負ける気がしなかったが、フロストドラゴンも思ったより弱そうな印象を受けた。勿論実力を隠していることは大いにありえるので油断するつもりはないが、逃走を意識しつつ一度対面するのも悪くないかもしれない。ドワーフの元王都を占拠しているドラゴンを倒せばそれこそドワーフ王国の復活となり、それを成したモモンガに対するドワーフ達の対応は想像に難くない。
三つの勢力に対するそれぞれへの対応を確認した後、改めて目の前のクアゴアを見る。
(さてこいつをどうするか…)種族の中では上位種(つまりレア)らしいが、それほど手元に置いておきたい者ではなかった。毛むくじゃらの見た目もそうだが、これからモモンガはドワーフ達の元に戻らなければならない。そんな中支配したとはいえクアゴアを連れて行くのは面倒な事になる。
勿論ドワーフ達に捕虜として引き渡してもいいが、よく考えれば<
(殺すのも勿体ないし、となるとクアゴアの王へのメッセンジャーに使うか……)
「お前はこの後どうするつもりだったの?クアゴアの王に負けた報告か?」
「はい、我らをあっさり敗走させたドワーフ達の新しい力と黒い獣。その危険性も併せてペ・リユロに報告するつもりでした」
「ふ~ん、それなら王にメッセージを届けなさい。その力の使い手であり獣の主である私からとしてね」
「はい」
「内容は『私がお前の元にたどり着くまでが期限だ。それまでにお前の部族の一匹が私を奴隷にするとい言った戯言の罪を謝罪するなら良し。慈悲を願わないのであれば、これがお前の運命だ』。それが終わったのならば、自らの首をその爪で切り落とせ。出来るな?」
「はい」
「よし、では行け。クアゴアの後続部隊はこのままドワーフ達を襲わせたい、そいつらには出会あうなよ」
「はい」
走り去るレッドクアゴアを見届けた後、モモンガ自身も逆方向へ足を向ける。
「さて、次はドワーフを使った復活魔法の実験と。クアゴアの別動隊が来たらまた恩を売るか」
クアゴアコレクション『クアこれ』いいこと?アゼルリシア山脈に勝利を刻みなさい!
『―』を使い始めました、読みにくかったら言ってください。ドワーフ国編は早足で行こうかと思ったのに、なんだかんだで時間掛かってる…