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さらにある。品質だ。この品質信仰は、トヨタ自動車が作ったかどうか、正直そこまでは分からない。しかしながら、日本にある品質信仰は凄まじいものがある。トヨタ自動車に代表される、本当に壊れない車。鉄道の1分と狂わない定時運行。宅配便の配送サービス。百貨店での顧客対応。牛丼屋やファストフードでの猛スピード。あまり知られていないと思うが、銀行の振り込みやATMが止まらないこともすごい快適なサービスだ。そして、この上ない書き味のボールペン。日本で生活することは、ものすごい高品質に裏打ちされた製品やサービスで、われわれの生活は猛烈なほど快適だ。
ここに、「お客さまは神様です」という、日本の風潮が加わる。ここだけは「トヨタシンドローム」というよりは、三波春夫シンドロームと言ってもいいかもしれない。とにかく、顧客が猛烈に強いのが、日本だ。この猛烈に強い顧客に対し、満足を提供できる企業こそが、日本においてナンバーワンとなり、強くなっていく。品質というのは、達成して当たり前となっており、残りの普通の企業にも同様のことを強いる。
こうしたことは、ITに対しても当然の要求として課されることとなる。ITは間違いを起こしてはいけないし、止まってはいけない。止まるということは大問題であるし、交通機関や金融機関の場合には社会問題にさえなる。ひどい場合には、業務改善命令が出される。
ITとは、土建的・建設的にさまざまな部品を組み上げられるもので、何百・何千万の部品を組み上げる行為とほぼ同じ作業だ。部品が、プログラムという形をしているだけである。そうした、部品一つ一つを組み上げていくのである。スペースシャトルでも、20万個の部品からできていると聞いたことがある。スペースシャトル以上の部品を組み上げていく中、「間違うな」「止めるな」と言われるのだ。この難易度の高さたるや、実は筆舌には尽くしがたい。
この間違わない、止めないということは、結果的にテストという工程で吸収されることとなる。想定通りに動くかどうかを試験するのだ。この想定というのは、何百・何千万というバラエティになっていくのであるから、どれだけコストが掛かることなのか想像に難くはない。
一方、ITが進んでいると思われる海外はどうだろうか。海外では、IT導入はユーザーのためではないように感じる。むしろ、経営者のためにある。新しい統合基幹業務システム(ERP)を使えと単にメール一本で知らせが来る。それは、経営がコストの状況や経費の状況を把握しやすいからだろう。
また、新たな営業支援システム(SFA)を使えと通知が来れば、それ以外のやり方や議論する余地はない。無条件で使わされる。それは、営業トップがパイプラインの状況や今後の売上予測をより効率的かつ効果的にやるべきだからだろう。要は、経営が必要と判断したら、現場の意思など無関係に導入されるのだ。
また、知恵を絞れというのは、あまり言われていないように感じる。そもそも、知恵を絞るのは経営の方だ。現場は言うことを聞けと言われることの方が多い。もう一つ。大切にされるのは速度だ。最近のITは昔に比べて完成度が高い製品になりつつある。そのため、素早く導入して、ひとまずそのまま使えという指示で、現場の混乱などはあまり気にされない。
また最近でこそ、「Quality(品質)」や「Hospitality(もてなし)」が問われるようになってきているが、海外企業はミスが起こることを前提としたプロセスを組んでいる。問題をなくすためのコストよりも、問題が起こることを受け入れて、起きた場合の対応を決めておく方が合理的と考えている。日本企業でも当たり前となった事業継続計画(BCP)などは、その最たる例だろう。いずれにしても、費用対効果で適切に決めようとしているということだろう。
最も例外はある。セキュリティだ。セキュリティだけは、日本の方が甘く感じる。セキュリティの本来的な意味は「安全保障」なのだが、ここは日本人の今の感覚では、甘くなっているのであろう。
まとめると、日本企業の良さである、強い現場と最高の品質という考え方が、ITの導入と成功を阻むのだ。日本社会にある風潮がIT導入を難しくしているのである。ただでさえ苦戦を強いられるIT部門、その上に仕事の難易度は非常に高いということである。
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