漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】 作:疑似ほにょぺにょこ
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「無様ですね、バルブロお兄様」
あれからどれほどの時間がたったのだろうか。妹の声に視線を上げると、既に周囲には殆ど人が居ない。
妹は私の事を無様という。いつもの私ならば一瞬で憤慨しただろう。しかし今となってはそんな気も起きない。起きるはずもない。
あれは一体何なのか。アンデッドなどというものではない。姿こそアンデッドではあったが、存在が根本的に違う。
「ラナー──あれ──あの方がアインズ・ウール・ゴウン──殿、なのか」
「えぇ、そうですわ、バルブロお兄様」
一瞬にして数多の貴族たちの頚を刎ねたあのスケルトン──死の騎士<デス・ナイト>だったか?──ですら理解を超えていたというのに。
あれ──などとは言えない。見た瞬間に腰が抜けた。底が見えない。まるでアゼルリシア山脈にある巨大な崖を見て居るかのような気分だった。
ガゼフは分かる。あれが強い事を。どれだけ強いのか。どうやれば戦いになるのか。
死の騎士は見た瞬間に死を直感した。あれは人が勝てる強さにはない。ガゼフとて無理だろう。奴の持つ装備を全て身に着ければ、何とかいい勝負ができるかもしれない程度だ。
だが、奴は違う。根本的に違う。戦うとか、逆らうとか。そんな気持ちすら起きない。奴が神の化身であったとしても、俺は納得してしまうだろう。そう思わせるほどのものだった。
「流石はバルブロお兄様。アインズ様の強さに、お気付きになられたのですね」
気付く。気付く、か。そう愚痴る。信徒は神の偉大さの前に平伏し、祈るとは言う。では神を直視したものはどうなるのか。ただただ巨大な存在に恐怖するしかないのではないか。
「ゴウン殿は──神、なのか──?」
「アインズ様によれば、死の支配者<オーバーロード>なのだそうです」
ゆっくりと立ち上がる。何とか抜けた腰にも力が入るようになっているか。そういえば、周囲を見回すもザナックが居ない。
「ザナックお兄様は気絶なされていましたので、部屋の方へと連れて行かせましたわ」
「そうか──なぁ、ラナー。お前は、ゴウン殿が怖くないのか」
戦う力のない弟では仕方ない、か。にしても、何故ラナーはここまで気丈に居られるのか。そう思って質問を投げ掛けたが、思いも拠らなかったのだろうか。大きく目を見開き、すぐに『くすくす』と笑い始めた。そんなことを聞かれるなんて思わなかった、と。
「バルブロお兄様。お兄様は、向けられていない剣が怖いのですか?」
「む──うぅ──」
ゆっくりと意識が戻ってくる。ふわりとした浮遊感が無くなり、感覚が鋭化していく。
そっと目を開くと、見知った顔──王国戦士長であるガゼフの顔があった。
視線を巡らせる。死んだのではないのか、と思いながら。しかし視界に映るのは我が寝室。眠った時と違うのは、日が既に傾き夜の帳が広がり始めていることくらいだ。
「私は、死ねなかったのか──」
死に損なってしまった。それはいけない。もうラナーは王として──
「随分ゆっくりと眠られたようですな、陛下。陛下、姫様より伝言です。『死にたかったら、ご自分で毒を用意してください』だそうですよ」
「む──それは──」
どういうことだ。ラナーは私を殺そうとしたのではないのか。古き考えでは奴を受け入れることはできない。だから私を廃して王となったのではなかったのか。
ゆっくりと起き上がる。身体に違和感はない。むしろ、ゆっくり眠れたことで頭がすっきりしているくらいだ。
「姫様はここ数日、陛下が一切お眠りにならないことに御心を砕いておりました。だからこそ、良き眠りをと──ゴウン殿のところで頂いたワインを飲ませたようですな」
「あのワインか──美味かったな──」
あの魅惑の味に思わず唾が出て来る。それほどに素晴らしい味だったのだから。
「それでラナーは──娘は、なんと?」
「はい。姫様は王となることを望んでおられるようです。しかし、それは陛下をただ廃するのではなく──」
「正当後継者として、か──」
子のために、良き国を残して降りたいと思って居た。しかし奴の事を除いたとしても、問題事はまだまだ山積している。
「しかし、バルブロたちが首を縦に振らぬのではないか。あれほど玉座に執心しておったのだからな」
「それですが、お二方とも──辞退なされました。姫様以外、次の王は務まらぬと。その代わり、影日向に姫様をサポートするとおっしゃっておりましたよ」
『なんと』と、思わず呻いてしまった。あれほどに──身を引き裂かれる思いで見て居た後継者争いが、こうもあっさり解決されてしまうとは。
「やはり、時代はラナーを選んだのか──」
天を仰ぎ、呟く。ラナーが王となれば、大きな変革の時代が始まるだろう。あのアインズ・ウール・ゴウンと共に。
「陛下、もうよろしいのですか?」
「うむ、もう寝てはおられんからな」
ラナーはまだ若い。少しでも面倒事を治めてから勇退せねば、あの子に苦心させてしまう。
せめて、あの子には奴の事だけに目を向けられるように。
「ガゼフ、これから忙しくなるぞ。新たなる王を迎えるため、大掃除をせねばならんからな」
「はっ!──陛下の御心のままに」
「フー──」
読んでいた文書を机に放り、突っ伏しながら大きくため息を付く。ここまで頭を使ったのはいつ以来だろうか。
誰も入らぬようにと言明したこの書斎には今私しかいない。だからこそ、こうやって無様に頭をかかえてられるのだが。
文書──ラナー姫から送られた文書にはとんでもないことが書いてあったのだ。
──アインズ・ウール・ゴウンの下に、我が家の先祖が居る。
何なのだそれは。そう言いたい。読んだところによれば、千年以上も昔の祖先だとのことらしい。この国が出来てまだ数百年だというのに、そんな昔の家系図など残っている筈もない。しかしその先祖──たしかアルベド、いやアルベディアだったか?──は確かにうちの家名を──レエブンを名乗っていたらしい。
「よりにもよって、始原の魔法が扱えたかの確認だと?そんな記録に残っていないようなこと、出来るはずもないだろう──」
今の家族に始原の魔法が扱えるものなど一人も居ない。精々他家より少しばかり運が良いと思う程度だ。少しばかり頭が回り、他人より少しだけ上手く事が運べるというだけだ。
しかもそれらは何ら始原の魔法とは関係がない。あるはずがない。身も蓋もない言い方をするならば、大したことのない只の人である。勇者の家系でもなく、大魔法を扱う家系でもない。特殊なタレントがあるわけでもない。
「あぁぁぁぁぁ──」
しかし、その祖先とやらは相当アインズ・ウール・ゴウンに重用されており、あの漆黒のモモンと親しい間柄とのこと。
「ただの女ではない。だから何だというのだ──」
『ギィ』と椅子が鳴る。ゆっくりと背もたれに体重をかける。出るのはため息だけ。一体どうすればいいというのだ。
ふと聞こえる足音に視線を上げる。聞き覚えのある足音。決して忘れられぬ足音が書斎の扉の前で止まった。
「ぱぱー、ご本読んでほしいのー」
「おー、リーたんではないでちゅかー」
大きな扉が少しだけ開かれ、その隙間から我が子──我が天使が現れる。ただそれだけ。ただそれだけだ。だというのに、一瞬にして不安や苛立ちが霧散してしまう。我が子というのはここまで素晴らしいものなのだろうか。
まだ五つだというのに、淀みない綺麗な足取りで私の下へ走り寄ってくる我が子を抱き上げ、膝に乗せる。
「んー、どんなご本かなー。随分古い本でちゅねー──どこにあったんだこんな本」
物語なのだろうか。かなり古い文字で書かれていてところどころ掠れている。『ぺらり』とページをめくっていくも、文字が複雑すぎて読み辛い。唯一読めた文字が──
「超位──魔法──星に願いを<ウィッシュ・アポン・ア・スター>──?」
超位魔法とはなんなのだろうか。聞いたことがない。位階魔法は数位ではないのか。超とはなんだ。そもそもなんでこんなものが我が家にあるのだ。魔法自体も聞いたことがない。
「ぱぱ、どうしたの?」
「んんー、なんでもないでちゅよー、リーたん。ちゅっちゅ」
何より今大事なのは我が子のこと。どうせ今すぐ分かる話ではない。
柔らかい頬にキスすると、我が子は擽ったそうに笑みを浮かべる。なんと癒される笑顔だろうか。
「リーたん、今日の晩御飯は何かなー。パパンにおしえてくれまちゅかー?」
「えへへー。えっとねー──」
「準備は出来たかね」
「はい、もちろんですわ」
夜の帳も落ちたころ。月明かりに照らされる部屋に居るのは二人の男女。
「それは重畳、では始めるとしようか」
男はゆっくりと月に向かい両腕を広げる。かつて交わした主との約束のために。
「──戦争を、ね──クハッ───クハハハハハハ!!!」
嬉しそうに、楽しそうに嗤う己が主に傅く女も笑みを浮かべた。この先の未来を思って。喘ぐ民を思って。
「はい、我が主──ヤルダバオト様──」
王家惨殺って思って居た読者様いらっしゃいますか?ウフフ。
聡い読者様であれば気付いているとは思いますが、うちではネームドは誰も死んでおりません。
基本、言明して居ない場合は疑ってかかりましょう。
私の話はそういうものですよ?
そうそう、お題募集はこのお話をもって終了となります。
お題を応募していただきました皆様、このお話をもってお礼とさせていただきます。
投稿していただきまして、ありがとですよ!
この後の活動報告ページにて、最後の当選者を発表いたしますのでお楽しみに!