欧州議会で可決

欧州議会は、9月12日、いわゆるLink Tax(11条)とUpload Filters(13条)を含む著作権指令案(Copyright in the Digital Single Market)を可決しました。今後、trilogues(欧州議会、欧州委員会、欧州理事会のメンバーによる非公開協議)で最終案が決まり、これが2019年の春頃までに欧州議会で再投票にかけられる予定です。この再投票で可決されると指令として成立し、加盟国は、指令に応じた国内法を整備することになります。

新旧対照表

可決された指令案は、7月に欧州議会で否決された指令案が修正されたものです。新旧対照表がここにあります

いい加減な情報

この指令案については、ネットでいい加減な記事やそれにまつわるコメントをいくつか目にしました。いい加減な情報を鵜呑みにして騒ぎ立てるのは恥ずかしいので気を付けたいと思います。この記事も、もし間違っていたら、こっそり教えてください。

報道記事の保護

今回は、修正された11条(Protection of press publications concerning digital uses)を概観します。そのうち13条(Use of protected content by online content sharing service providers storing and giving access to large amounts of works and other subject-matter uploaded by their users)についても書いてみたいです。

以下の11条1項が、いわゆるLink Taxの根拠です。

1. Member States shall provide publishers of press publications with the rights provided for in Article 2 and Article 3(2) of Directive 2001/29/EC so that they may obtain fair and proportionate remuneration for the digital use of their press publications by information society service providers.

リンク行為に課税するとは書いてありません。どういう内容かというと、press publicationsのpublishersに、Article 2 and Article 3(2) of Directive 2001/29/ECで認められる権利(reproduction rightとright of making available to the public)を付与する、という内容です。reproduction rightとright of making available to the publicは、日本の著作権法でいうと複製権と公衆送信権に相当する権利です。以下では、便宜上、「報道記事の権利」と呼ぶことにします。

権利の客体は何か

報道記事の権利の客体は”press publications”です。以下が、”press publications”の定義(2条1項(4))です。

‘press publication’ means a fixation by publishers or news agencies of a collection of literary works of a journalistic nature, which may also comprise other works or subject-matter and constitutes an individual item within a periodical or regularly-updated publication under a single title, such as a newspaper or a general or special interest magazine, having the purpose of providing information related to news or other topics and published in any media under the initiative, editorial responsibility and control of a service provider. Periodicals which are published for scientific or academic purposes, such as scientific journals, shall not be covered by this definition;

条文上、”literary works of a journalistic nature”であることが要求されており、また、前文33で対象は”journalistic publications”に限定されなければならないと説明されていることから、報道に関連するものを対象としていることが伺われます。条文では、具体例として新聞・雑誌が明示されており、前文33ではニュースサイトも例示されています。しかし、何が”press publications”に該当するのか、はっきりしない印象です。ブログの記事とか、どうなんだろ。なお、今回の修正で、”publishers or news agencies”による”fixation”に対象が限定(?)され、また、科学的又は学術的な目的による定期刊行物も対象外と明記されました(前文33では以前から除外されると説明されていました)。

規制されるのは誰か

今回の修正で、”for the digital use of their press publications”のあとに”by information society service providers”が追加されました。そうすると、information society serviceの提供者だけが規制されるということなのでしょうか。以下が、”information society service providers”の定義(2条1項(4c))です。

‘information society service’ means a service within the meaning of point (b) of Article 1(1) of Directive (EU) 2015/1535 of the European Parliament and of the Council;

引用されているDirective (EU) 2015/1535の1条1項(b)は以下です。

‘service’ means any Information Society service, that is to say, any service normally provided for remuneration, at a distance, by electronic means and at the individual request of a recipient of services. For the purposes of this definition: (i) ‘at a distance’ means that the service is provided without the parties being simultaneously present; (ii) ‘by electronic means’ means that the service is sent initially and received at its destination by means of electronic equipment for the processing (including digital compression) and storage of data, and entirely transmitted, conveyed and received by wire, by radio, by optical means or by other electromagnetic means; (iii) ‘at the individual request of a recipient of services’ means that the service is provided through the transmission of data on individual request.

抽象的な定義ですが、検索エンジンやSNSだけでなく(あるいはGoogleやFacebookだけでなく)、多くのウェブサービスが含まれます。なお、Annex IでInformation Society serviceに該当しないサービスが例示されていて、たとえば、テレビ放送、ラジオ放送、そして、電話又はテレファックスによる弁護士の助言(!)等は該当しないとされています。

報酬請求権ではない

今回の修正で”so that they may obtain fair and proportionate remuneration”と追記されましたが、報道記事の権利の性質は、報酬請求権ではなく、独占権(禁止権)です。権利許諾の対価として利用料が発生する場合は多いかもしれませんが、利用料の支払いが義務付けられるという言説は不正確です。

なお、前文32に、

the listing in a search engine should not be considered as fair and proportionate remuneration.

と追記されたのは、検索結果に表示されることでニュースサイトにトラフィックが生じ、結果として収益につながっているという主張に対する牽制なのでしょうか。

リンクは禁止されない

リンク行為が禁止されるという言説も不正確です。修正前の前文33は、

This protection does not extend to acts of hyperlinking which do not constitute communication to the public.

となっていて最後の留保が気持ち悪かったのですが、修正後の前文33は、

This protection does not extend to acts of hyperlinking.

と言い切っています。また、条文上も以下の2a項が追加されました。

2a. The rights referred to in paragraph 1 shall not extend to mere hyperlinks which are accompanied by individual words.

これにより、“individual words”を伴う単なるリンクには報道記事の権利が及ばないことが明確になりました。

もっとも、“individual words”が何を指すのかは不明確です。EFFは、”Today, Europe Lost The Internet. Now, We Fight Back.”で、記事から2単語以上使ってリンクすることは禁止されると皮肉っています。

なお、今回の修正で前文33に以下が追記され、(当然ながら)事実には報道記事の権利が及ばないことが明らかにされました。

The protection shall also not extend to factual information which is reported in journalistic articles from a press publication and will therefore not prevent anyone from reporting such factual information.

そうすると、たとえば、「日経新聞によれば、欧州議会は9月12日にEUの新しい著作権指令案を可決した模様」というように事実の記載とリンクの組み合わせが、報道記事の権利を侵害することはないのだろうと思います。

なぜ、Link Taxと呼ばれるのか

報道記事の権利がリンク行為には及ばないにもかかわらず、なぜ、Link Taxと呼ばれるのでしょうか。

それは、報道記事へのリンクが、通常、記事のタイトルやディスクリプション/スニペットの表示とともに行われており、このリンクとの組み合わせで表示される記事タイトル、ディスクリプション/スニペット部分に報道記事の権利が及ぶ結果、事実上、リンクに許諾が必要な状況が生まれると考えられているからです。

条文は”the digital use of their press publications”としか記載されていませんし、前文にも(斜め読みしただけなので見落としはあるかもしれませんが)記事のタイトルやディスクリプション/スニペットを表示するだけでも”the digital use of their press publications”に該当するとはっきり記載した部分はなかったと思います。

しかし、今回、著作権に上乗せして新たに権利を創設する目的は、報道機関やジャーナリストが、YouTube、Facebookのようなシェアリングプラットフォーム、Googleニュースのようなニュースアグリゲーターから収益を得られるようにすること、と欧州議会も公言しているので、おそらくFacebookのOGPに表示される記事タイトルやディスクリプション、Googleニュースに表示される記事タイトルやスニペットにも許諾が必要になるよう解釈されるのだと思います。

ところで、OGPって、記事が効率的にシェアされることを期待するパブリッシャーがOGPタグの設定をしているから表示されるのですけれど、これは黙示的な許諾があると言えないのかな。あるいは、昨今、FacebookやTwitterへのシェアボタンを設置している報道記事も多く見かけますが、これも。

個人のシェアはOK?

今回の修正で、以下の1a項が追加されています。

1a. The rights referred to in paragraph 1 shall not prevent legitimate private and non-commercial use of press publications by individual users.

これにより、個人による合法的で私的な非営利の利用には報道記事の権利が及ばないことが明確になりました。

そうすると、個人がFacebookで記事をシェアする行為には、報道記事の権利は及ばないということなのでしょうか。それでも、ユーザによる記事のシェアは、プラットフォーマーであるFacebookにとって”the digital use of their press publications”になるということなのでしょうか。

保護期間

今回の修正で、20年が5年に短縮されました。5年前の報道記事をSNSでシェアしたり、ニュースアグリゲーターが掲載したりすることは稀でしょうから、期間としては十分な感じが致します。

4. The rights referred to in paragraph 1 shall expire 5 years after the publication of the press publication.

著者の権利

11条2項は、報道記事の権利によっても、報道記事に組み込まれた著作物に対する著者の権利は影響を受けないことが明記されています。さらに、報道記事の権利によって得られた収益を著者にも分配することを求める修正が、4a項として追加されました。

4a. Member States shall ensure that authors receive an appropriate share of the additional revenues press publishers receive for the use of a press publication by information society service providers.

これにより、フリーランスの記者に追加の報酬が支払われるようになるのでしょうか。また、フランスやドイツは職務著作制度(Work made for hire)がないようなので、インハウスの記者(auther)もこの恩恵にあずかるのでしょうか。

施行後の世界

報道記事の権利が導入されても、スペインやドイツが類似の立法で失敗したように上手くいかない(Googleニュースは、スペインから撤退し、ドイツでは無料で利用できる記事だけを掲載した結果、多くのメディアが無料で記事を提供せざるを得なかった)とも言われています。また、ライセンス料を賄う資金力があるTech giantsだけがニュースを扱えるというひどい世の中になるという声もあります。

ただ、ジャーナリズムが衰退しないように経済的に支える仕組みがとても大切であることは私も同意で、その一つの方法として報道記事の権利が模索されていることについて(反対ではあるものの)少しだけ敬意のようなものは感じます。