ハダカカメガイ科のクリオネは、翼足類の遊泳軟体動物だ。巻貝の仲間だが成長すると完全に貝殻を失う。
半透明でデリケートな体をしているが、強力な毒で海の捕食者たちを撃退する。
だが、クリオネの毒に対する耐性をつけ、背中に装着し、自分の身を守るための生物兵器として利用する大胆不敵なヤツがいる。
南極をかこむ南極海に生息する、甲殻網端脚類というエビに似た生き物たちだ。
共存共栄ではない。背中の背負ったクリオネは餌が食べられず、飢えて死ぬまでこき使われるという。
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南極クリオネを誘拐し、背中に背負って魚類を撃退する端脚類
端脚類のいくつかの種は南極クリオネを誘拐して、リュックのように背負い込んでは、2本の足でがっちり掴んで逃げられないようにする。
いつもは端脚類が大好物な魚たちだが、クリオネの毒には耐えられない。やがてこれを背負った端脚類を避けるべきだと学習するようになるそうだ。
Backpacking Amphipods
クリオネは使い捨て、飢えて死ぬまで働かされる
この行為、端脚類にとっては非常に都合のいいことだが、どうやらクリオネにとっては何のメリットもなさそうだ。
事実、誘拐されたクリオネに餌が与えられることはなく、飢えて死ぬまでこき使われることが観察されている。
30年前に発表された先行研究には、南極の沿岸地域で観察されたクリオネを誘拐する端脚類について、端脚類が大好物で視覚の発達したコオリウオに対してはとても有効だと記されている。
しかしこうした行動が南極海の生態系のどのくらいの範囲で見られるのか、それが端脚類と翼足類の双方にメリットがあることなのかどうかよく分かっていなかった。
今回の研究はそうした点を明らかにしている。
2種の端脚類が翼足類を背負うことを確認
南極寒帯前線から東部ウェッデル海にかけての氷がない海域4ヶ所でサンプルを採集した結果、2種の端脚類でクリオネなどの翼足類を背負い込む行動が観察された。
1種はHyperiella dilatataでClione antarcticaというクリオネのみを背負う。もう1種はHyperiella antarcticaで、こちらはSpongiobranchaea australisを好んで背負う。
Clione limacina antarcticaを背負うHyperiella dilatata
オス・メス双方がこうした行動をとる。また背負うクリオネの大きさは自分の5分の1くらいから半分くらいの大きさまで様々だ。
背負ったクリオネは触手のようなものでがっちりと固定し、自分が死んだ場合でもそのまま背負い続ける。
なお採集されたサンプルは342匹だったが、人質をその手にしていたのは4匹だけだった。
サンプル数が少なすぎるために、その端脚類が特定の翼足類を狙ったものか、それとも翼足類の毒ならどの種のものでもかまわないのかどうか確かなことは言えない。
こうした極小世界に住む生物のやりとりを研究することは非常に難しい。なにしろ、これらのサンプルを採集するネットですらその体を傷つけてしまうのだ、と論文著者のシャーロット・ハーヴァーマンズ氏はコメントを寄せる。
しかし開発中の高画質水中カメラなら、これまでできなかった小さな生物の暮らしぶりの観察を可能にしてくれることだろう。
この研究論文は『Marine Biodiversity』に掲載された。
References:sciencedaily / awi/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
キラークィーンみたいな
2. 匿名処理班
ザンキゼロをプレイ中の自分にはタイムリー過ぎた…
3. 匿名処理班
どっちに同情したらいいのかわかんない
自然は厳しいなあ
4. 匿名処理班
このエビの生活術もさることながら発見した人が凄いな…
5. 匿名処理班
上には上がいるって事ね((((;゚Д゚)))))))
クリオネが毒持っていたとは!((((;゚Д゚)))))))
しかしだな、翼足類もエゲツないなあΣ(-᷅_-᷄๑)
自分が死んだら、クリオネ離してやれっつうの!Σ(-᷅_-᷄๑)Σ(-᷅_-᷄๑) クリオネにも、ちゃんと食わしてやれっつうの!Σ(-᷅_-᷄๑)Σ(-᷅_-᷄๑)Σ(-᷅_-᷄๑)
クリオネはクリオネで、見かけが可愛いミジンウキマイマイを狙って食べるから、憎ったらしい小悪魔やなあ!と、ムカついていたら…
ここに来て、クリオネが気の毒になってしもうた!という、なんとも…
翼足類て、シュール可愛い姿して、やる事がダーク過ぎ!
可愛い見かけに騙されちゃアカン!て分かってはいるんだがな…?
6. 匿名処理班
「かわいいからこの生き物には天敵を作らないでおこう」とか、そんな配慮がない自然に畏怖の念を抱いてしまう。
7. 匿名処理班
こっわ