「教育・学習の会社」を作ろうとは思わない。schoo森氏が目指すのは「人間を変えるサービス」

さまざまなジャンルや業界から「先生」を招き、毎日新しい「授業」を生放送で配信するWebサービス「schoo WEB-campus」。日本国内の教育系動画配信サービス(MOOC)の先駆けである同サービスは、2015年2月に電通デジタル・ホールディングス、リンクアンドモチベーション等から3.4億円の資金調達を発表。中央大学、法政大学をはじめ10大学と連携するなど、2015年に入ってから積極的な動きや発表が相次いでおり、各分野から注目を集めている。

その株式会社スクーの事業戦略、そもそもの起業やサービス発案のきっかけ、そして今後の「schoo WEB-campus」が果たす役割やビジョンについて、代表の森健志郎さんに話を伺った。

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森健志郎氏。2009年大学卒業後、リクルートコミュニケーションズにおいて不動産関連の広告制作のディレクターを務める。2011年10月に株式会社スクーを設立し、2012年1月に学びの課題を解決する教育系動画配信Webサービス「schoo WEB-campus」をリリース。

創業のきっかけは、リクルート時代に使った社内教育「eラーニング」への不満

-森さんはもともとリクルートのご出身だったんですよね。そこから教育系動画配信サービスを立ち上げようと思われたのはいつ頃だったのでしょうか?

「schoo WEB-campus」の発案は、リクルートに就職して2年目のときに「eラーニング」を使ったことがきっかけでした。「eラーニング」の内容は、おじさんがカメラ目線でひたすらダサいパワポを見せながら、延々と語り続けるというもので、とにかく全然面白くないんです。分野としてはすごく学びたい内容だったのですが、これはキツい…と感じました。そのため10時間のプログラムを3時間だけ受けて、あとは早送りしてレポートを提出する…みたいなことをしてしまったんですね。

そのときに「これだけ高速なインターネット通信があって、高性能なデバイスがある時代に、これはない。インターネットのことをほとんど知らない自分だってもっと良いのを作れるぞ」と思ったんです。学びたいけど学べなかったという経験から、教育の課題を解決したいと思ったというわけです。

そうして前職のリクルートコミュニケーションズを2011年10月に退職して、退職金の30万円を元手に1人で起業しました。退職を決めたのが2011年3月だったのですが、それから半年間ほどは仕事をしながら準備をしていたので、2012年1月の「schoo WEB-campus」のサービスリリースまでは、構想と実装で1年ほどかかりました。

サービスインの時点で豪華講師陣をそろえられた理由は、「真っ向勝負」で相談を持ちかけたから

 

-サービスインのかなり早い段階で有名講師陣の授業を開講できたのにはどのような理由があるのでしょうか?

 

決してそういう人脈があったわけではないのですが、サービスインの時点で、nanapiの古川健介さんや、カヤックの柳澤大輔さん、家入一真さん、バーグハンバーグバーグのシモダテツヤさんといった豪華な講師陣をそろえることができた理由は大きく3つに絞れると思います。

1つ目は、今より環境が良くないなかで四苦八苦されていた先輩起業家の方々には「若い起業家を応援してやろう」という思いがあること。

2つ目が、僕が馬鹿みたいに会社のお問い合わせフォームから連絡してパワーポイントを10枚くらい送りつけたこと。たぶん他にそんな人なんていなかったんだと思います。

そして3つ目が、海外で「Udemy(ユーデミー)」や「Coursera(コーセラ)」といったネットでの学習支援サービスが話題になり始めた頃で、情報感度の高い方々が「日本でもああいうのをやろうとしている奴がいるんだ」と興味を示してくれたからなのではないかと思っています。ちなみに僕は海外で先行しているサービスを当初全然知りませんでした(笑)。もし知っていたら先行するサービスに引っ張られて、今みたいな生中継中心のサービスにはなっていなかったかもしれません。

 

-サービスを運営していくにあたって、心がけていることやベンチマークにしている先行事例や企業があれば教えてください。

 

プラットフォームに自前のコンテンツを乗せ続けるということですね。僕は自前コンテンツを作らないプラットフォームは長く続かないであろうと思っています。なぜなら、コンテンツを自分で作らなければ、そのプラットフォームやユーザーにとってどういうコンテンツが良いのかわからないから。

その辺りのバランス感覚についてはニコニコ動画を参考にしています。ニコニコ動画にはユーザーが作っている生放送がたくさんあるのですが、しっかりとニコニコ動画公式の放送もやっている。そのバランスを3~5年程度のスパンで分析すると、一時期は内製にシフトして、その後ユーザーの投稿にシフトして、やっぱり内製に回帰する。…というように、こまめにプラットフォームを作り変えているんです。

例えば「コンテンツがユーザーに飽きられ始めているな」というときには、投資して新しいコンテンツを投入する。それこそが長く使っていただけるプラットフォームを作るコツだと思っています。

だから僕らも自分たちでコンテンツを作っています。今の「schoo WEB-campus」の放送の6割は外部の人がやっている放送なのですが、4割はオリジナルのコンテンツであったり、うちのノウハウを使って公認団体と呼ばれる方々が行っている放送なのです。

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今年のテーマは「サービスから事業へ」

-現在の会員数と、ユーザー数が伸びたと感じる「ターニングポイント」を教えてください。

おかげさまで会員数の伸びは好調で、現在15万人ご登録いただいています。会員数が跳ねたと感じたターニングポイントは、デザイン学部やプログラミング学部といった「学部」を作ったことだと思っています。それまでいろんなコンテンツを並列に、実験的に試してきたなかで、ユーザーのデモグラフィックや人気コンテンツが見えてきたこともあり「ターゲットをより明確にして、その人がAの状態からBの状態になるために必要なコンテンツを設計しよう」ということになったんです。

学部の創設によってユーザーにとっても必要な知識を学べる授業はどこにあるのかが、わかりやすくなりましたね。ウイークリーアクティブユーザーも学部所属ユーザーは学部所属なしのユーザーに比べて高いというデータもあります。そこからバイラルも起こったし、プレミアム会員への加入も増えました。

たくさんのコンテンツを集めるというよりも、領域を絞ってちゃんとターゲットとその成長を想定してコンテンツを並べていくということが初めてできて、手応えがありました。

去年までは「収益を追わなくていい。必ず僕がファイナンスをする。だからその代わりしっかりとしたプロダクトを作ってくれ」ということを伝えていました。それは、必ず後から出てくるであろう競合サービスに対抗するためでしたが、無事に良いプロダクトを作り、ファイナンスをすることもできました。

それも踏まえ、今年は「サービスから事業へ」を全社へのメッセージとしています。課金のほうに初めて軸を移し、プレミアム会員数を最大指標として各「学部長」に課すようになりました。企業研修として「schoo WEB-campus」を導入するための企業向けビジネスプランも2015年3月から始めました。

現在のスクーは組織の体制を、ソーシャルゲームの会社に近い管理体制にしています。例えばGREEさんだったら、各ソーシャルゲームごとにプロデューサーがいて、数字を追って売上を上げているように、うちは学部ごとに「学部長」というプロデューサーがいて、彼らが何本コンテンツを作ってプレミアム会員をこれくらい増やして1年後こうしますという、予実管理をしているわけです。

課金の他には、記事広告ならぬ「授業広告」のようなものもあるとは思うのですが、まだそれには段階が早いと思っています。そのメディア、媒体、プラットフォームが、ユーザーにとって「なくてはならないもの」になったなら、広告というやり方はアリだと思うのですが、そういう関係性ができる前に広告モデルをやってしまうと、よりユーザーと直接向き合っている競合が出てきたときに、みんなそっちに流れていっちゃうんですよ。

売上のためだけに記事広告を入れると「これってユーザーにとって本当に良いものなのか?」と、作り手側もブレてしまうという問題もあります。だからうちは圧倒的なナンバーワンプラットフォームになるまで、そこはやらずに我慢しようと思っています。

人間を変えるサービスにしたい

-2月に3.4億円のファイナンスを実施。新規で10大学との連携を図るなど、今年に入ってから積極的な動きをしているように思います。これからサービスをどのように推進していきたいでしょうか。国内における競合との違いなどを踏まえて教えてもらえますでしょうか?

うちのサービスは競合と差別化できるポイントをたくさん持っているとは思うのですが、あまり競合のことは意識せずに、「僕らの目指す世界」をどれだけ最短最速で正確に作れるかにフォーカスしています。

実は、僕らは一度も自分たちを「教育の会社です」といったことないんです。

それは僕自身教育の会社を作りたいとは一切思っていなくて、どちらかというと「人類の限界」が気になっているから。僕たち人類には、自分が何の職業に一番向いているのかわからないまま死んでいく、という避けられない事実があります。しかし、僕らはそれを解決したいと思っています。

具体的に言い換えるならば「どんなことを学んで、どんなところで働けば、活躍できるのか」というのを予測できるようにしたい、と考えています。今よりももっと人類が成長できて、自分のやりたいことや本当に向いていることができるという、人間を変えるサービスを僕らは目指しているんです。それを実現させるために、まずは知見のある人材紹介企業などとつながっていく必要があるかなと思っています。

また今後は企業だけでなく、地方自治体や高校にもうちのコンテンツをまとめて使うことで解決できる課題があると考え、そうした活動も始めています。例えば首都圏に若い人材が流出して、経済が弱っているような地方にも「schoo WEB-campus」が果たせる役割はあると思います。現地でデザイナーやエンジニアを育成し、クラウドソーシングで仕事を請けられるようになったら、そこで暮らせる年収を得て、ネットによる地方活性化ができるんじゃないか、といったことですね。

自分たちの手に負えない位、優秀な人材を社内へ

基本的に「自分より優秀な人を獲る」というのが方針だったこともありスクーの社員の平均年齢は32歳くらいで、28歳の僕より年上の方が多いのですが、これからさらに優秀な方々を迎えられればと思っています。

2月に3.4億円の資金を預かったことによって、会社としての知名度もある程度出てきて、大企業やベンチャー企業で重要なポストについていた30代の優秀な方々を雇用できるようになりました。創業から一緒にやってきた20代のメンバーがいるチームに、優秀な30代がドンドンと入るようになってきています。

そうしたこともあって元からいるメンバーたちも「ここで振り落とされちゃいけない」とか、「会社として一段上がらないといけない」との意識が出てきているのを感じています。

今後はそうした優秀な人材の獲得をさらに推し進めて、「経営陣/ミドルマネジメントの強化」をしていきたいですね。今の自分たちでは到底抱えられないような人たちを、今後どう採っていくかについて、いつも考えるようにしています。

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(照沼健太)