経済的な余裕がない女子大生や20代の女性会社員の間で「パパ活」が広がっているという。身体の関係が前提ではないが、「愛人」となり、経済的な支援をしてくれる「パパ」を探す「活動」だ。ブランドものが欲しいわけでも、海外旅行に行きたいわけでもない。彼女たちが求めるのは、生活を少し豊かにするための数万円……。パパ活をする2人を追った。
結婚式のご祝儀が払えない
4月末のある日、1991年生まれの女子3人で飲んでいた時のことだ。3人とも東京出身。生まれ育った地元仲間だ。飲み会の途中、話題はひとり暮らしのことになった。たとえ実家から会社に通えても、それでは自立した女に見られない……。
「パパ、欲しいよねぇ」1人がそうつぶやくと、残る2人も「だねぇ」
ひとり暮らしとなると、家を借りるための初期費用や家具をそろえるための費用など、どんなに控えめに見積もっても25万円程度はかかる。互いの給料は知らないが、身に着けているもので察しはつく。そんな余裕はない。
3人のうちの1人、陽子さん(仮名・25)は自分が最も切実だと感じていた。ひとり暮らしどころではない。5月、友人の結婚式が2回もある。都内の有名大学を卒業後、大手保険会社で一般職として販売促進などの仕事をする陽子さんの給料は、手取りで約18万円。そこから奨学金を毎月2万円返している。ご祝儀代3万円を月に2回も準備できない。二次会の費用もかさむだろう。
しかも数日前、歯医者で虫歯を抜いたばかり。銀歯は嫌だ。セラミックは保険適用外で、1本10万円かかると言われた。仮の詰め物を取るまでに、どうするかを歯医者に返事しなければならない。
「食事してお部屋希望」
飲み会の最後に、陽子さんはこう宣言した。
「試しに私がやってみる、パパ活」
パパを見つけることを「パパ活」ということは、誰かのSNSで読んだ。飲み会の翌日、陽子さんはグーグルの検索窓に「パパ活」「サイト」と打ち込んだ。関連サイトが山のように出てきた。体験談や口コミサイトを中心にのぞき、評判がよさそうなあるサイトに登録した。会社の人にバレたら大変なことになる。プロフィールの写真には、顔の部分にスタンプを乗せ、プロフィール欄には体型や職業などに加え、「パパ活中のOLです。話を聞くのはうまいと言われます」と、絵文字を交えメッセージを書き込んだ。
登録から10日間で20人の男性からメッセージが来た。
「食事してお部屋希望です」
会う前からセックスを前提とした条件交渉をしてくる男性も少なくなかった。2人に会った。1人目は、会社経営をしている40代の男性だった。新宿で待ち合わせ、大衆的な焼鳥屋に入った。簡単な自己紹介を終えると、単刀直入に「愛人を探している。1カ月に4回会って、10万円でどうだろう」と提案された。言葉には出なかったが、会う目的がセックスだとは理解した。生理的に嫌な感じはなかったが、即答できず、その日は食事だけで終わった。
バッグは1000円、洋服は2000円
2人目も会社経営者だった。週末、東京駅で待ち合わせ、新丸ビルでランチをした。
「セックスをしたいわけじゃない。話を聞いてくれる相手が欲しい」
見た目もオシャレで、50代だが、若く見えた。陽子さんの音楽の趣味の話で会話も弾んだ。
食事代約8000円はもちろん男性が支払ったが、陽子さんはお金をもらえなかった。インターネットで調べた口コミや体験談では、食事だけでも「お車代」として5000~1万円もらえると書いてあった。次からは、会う前にお車代を確認してから会おうと決めた。
筆者が陽子さんに取材したのは、1人目の男性と再会する2日前のことだった。陽子さんはこれまで6人の男性とつき合い、そのほかに4人の男性と経験があるが、お金が介在するセックスはしたことがない。
「パパ活を始めて以降、高い化粧品を買っているOLを見たら、この人もパパ活しているのかなと思うようになった」と陽子さんは話した。
撮影:足立健二
「気持ち悪い感じじゃなかったし、セックスしてもいいと思っている。ネットではセックスは5万円が相場と書いてあったから、1カ月4回で10万円は少し安いかもしれない。でも、月収10万円増えるのは大きいですよ」
陽子さんが持ち上げて見せたバッグは、韓国に旅行に行ったとき約1万ウォン(約1000円)で買ったものだ。着ていた洋服も約2万ウォン(約2000円)で買った。
「学生時代は社会人になったら奨学金を返しながらでも、好きな服を買って、普通の生活ができると思っていた。だけど、服は基本GUで、贅沢もしていないけど、お金が残らない。美容室にも行きたいし、ネイルもしたい。生活に余裕が欲しい。女手一つで育ててくれたお母さんも、歌舞伎に連れて行ってあげたい」
奨学金を早く返したい
パパ活にいそしむのは、こうしたどこにでもいそうな会社に勤める女子たちだ。陽子さんが利用した愛人サイトで愛人を探す60代の男性にも話を聞くことができた。
「知り合いに面白い愛人サイトがあると紹介され、登録した。一般的な愛人サイトは数十万の入会金をとるところも珍しくないが、会費は1カ月1万円もしない。平日の夕方に『今夜食事しませんか?』と書き込んだら、数時間の間に8人からメッセ―ジが来た。これは面白いと、何人かに会ってみると、遊ぶお金に困ったOLや大学生が多く、自分の夢の実現をサポートしてほしいという人も結構いることに驚いた。我々の時代と違い、大半が奨学金を借りて進学していて、それが彼女たちの生活を貧乏くさくさせている原因になっていることにも驚いた」
百合子さん(仮名・27)も、陽子さんと同じサイトでパパ活をする。サイトを知ったキッカケを、こう話した。
「奨学金を早く返したい、なんて友達と話しているときに、その子から面白いサイトがあるよと教えられて始めたんです」
新卒で入社した運送関連会社で正社員として働いている。残業代により前後するが、手取りは月21万円程度。家賃に光熱費、携帯代に加え、奨学金の返済が毎月1万5000円。自由に使えるお金は月に10万円程度だ。
食費を削るため、朝食は食べない。昼はコンビニ弁当が中心で、夜は週末にまとめて料理したものを食べる。残り約300万円の奨学金の返済目的だけでなく、週に一度はおいしいものを食べたい —— それもパパ活を始めようと考えたキッカケだった。
手取り30万円あれば
1人目に会った男性は、美容関係の40代の経営者だった。夜8時に恵比寿駅で待ち合わせ、隠れ家っぽいイタリアンレストランに案内された。男性は慣れた感じでワインと数品を注文し、どれもおいしかった。見た目もオシャレで、デートをしているような感覚だった。自分の生活環境では絶対にこうした人とは出会えない —— ふとこのサイトを通じて、彼氏を見つけられるかもしれない、そうも思った。
食後、ホテルに誘われた。「いくら? 」と聞かれ、返事に困った。セックスまでとは思っていなかった。とっさに3万円と答えた。タクシーに乗って目黒のラブホテルに。隣にいる男性が、百合子さんにとって4人目の男性になる。もちろん、お金が介在するセックスは初めてだった。
男性はこう言った。
「月10万円でどう? 月に2、3回会って、ご飯だけでもいいから」
自分にはこれだけの価値があるんだ。10万円という金額にびっくりした。月収を10万円増やすには、何時間残業しなければならないのだろう。
筆者が取材するまでに、百合子さんはその男性も含め10人の男性と会った。そのうち3人とはセックスもした。相手がおじさんでも、おいしいものを食べられるのが何より嬉しかった。実際に会ってみて嫌でなければ、セックスにも応じた。一度大きなお金をつかむと、後戻りできない怖さもある。生活レベルを上げるのは簡単だが、下げるのは難しい。余計なお世話だが、筆者はそんな不安を覚えた。
「手取り30万円あれば、すぐに辞めますよ」
今の給料からプラス約10万円。それでオシャレをしたり、週に一度くらいはおいしいものを食べに行ける。百合子さんはそう答えた。
足立 健二:フリーライター。出版社勤務後、フリーに。主に労働問題や教育、医療、福祉分野を取材する。