教科書英語ではない、実用的な英会話が身に付く英語学習アプリを提供するOKpanda。2014年12月リリースの「OKpanda 英会話」は50万ユーザーを超え、ダウンロードから2カ月後の継続利用は50%を誇ります。これまでに総額300万ドル(単純計算で3億円)を資金調達しているOKpandaの拠点は、アメリカのニューヨーク。
同社でデザイナーを勤めるのが、福井道顕(ふくい・みちあき/記事TOP写真左)さんです。大学卒業後、3年半ほど勤めたオンラインゲームの会社を辞めて、兼ねてから行きたかった海外への語学留学を決めました。2012年10月に渡米し、OKpandaにジョインしたのは2013年7月終わりのこと。
ニューヨークという都市を構成する人々と同様に、OKpandaのチームもまた多様なメンバーで構成されています。3人の共同ファウンダーはイスラエル人で、他にもアメリカ人やベトナム人、ドイツ人など国籍もさまざま。そんなオフィスでは、毎日幾度となく、「What do you think? (君はどう思う?)」という言葉が飛び交うのだと言います。福井さんに、ニューヨークで急成長するスタートアップの現場についてお話を伺いました。
インターン面接で即採用、帰国するはずがそのまま正社員に
-初めての渡米となったニューヨークでの生活は、最初どんな感じでしたか。
昼間と夜間で2つの語学学校に通っていたので忙しくしていました。昼間は学費を払って学校に通って、夜はコロンビア大学が提供する、移民向けの無料の語学クラスを受講していました。貯金を取り崩しながらの生活だったので、家はルームシェアをして、昼ご飯は1ドルのスライスピザなんかを食べたりしてやり過ごしていました。
語学学校に通い出して8カ月ほど経って、一般会話はある程度習得できたんですが、ビジネス英語はまた別物だろうなと思ってインターンシップを探すことにしました。日系企業などで働き口を見つける日本人の方も多いんですが、あくまで現地にこだわりたかったので、インターンシップを探すための「Internships.com」というウェブサイトを使っていろいろな会社に応募しました。
-その中の1つが「OKpanda」だったんですね。
マンハッタンにあって、iPhoneアプリの開発を手掛ける会社を探していました。OKpandaという会社を見つけて面接に行ってみると、実は日本市場向けの英語学習アプリを作っていることがわかって。もともと、1年で語学学校を卒業したら、それを生かして日本のゲーム会社などで働こうかと考えていたんですが、「早速、明日から来て」と言われ、後に正社員として働くことになり、学生ビザから就労ビザに切り替えました。
-チームとしてのOKpandaについて教えてください。どんなチームでしょうか。
今は10人ほどのメンバーで「OKpanda」を作っています。入ってみて感じたことは、とにかくディスカッションが多いということでした。まだ小さいスタートアップなので、何でもみんなで話し合います。日々の仕事でもそうですし、新しいプロジェクトが始まる際も、毎度白熱した議論が交わされます。
オフィスでよく耳にするのが、「What do you think? (君はどう思う?)」というフレーズです。1日に10回以上聞かれますね。デザインのことに限らず、サービスの価格設定、運営方法、英語カリキュラムの内容、日本の文化や日本人の性格に至るまで質問の内容は多岐にわたります。それも、なぜ?どうして?と徹底的に聞かれるので、常に自分の考えを明確に持って、それをきちんと伝えるようにしています。
-多国籍のメンバーと仕事をしていて、文化の違いを感じるのはどんな時ですか。
仕事の姿勢に関しては、チームの全員が「OKpanda」を素晴らしいサービスにしたいと思っている熱心な人ばかりなので、同じ方向を向いて進んでいる感じです。24時間、365日、プロダクトについて考え抜く文化があります。
むしろ、文化の違いを感じるのは、生活に近い部分です。ランチタイムには、食べ物の好みの違いがわかりやすく出たりしますね(笑)。その他に多国籍なチームであることを感じるのは、祝日でしょうか。例えば、インデペンデンス・デー(独立記念日)はアメリカ人にとっては休みですが、イスラエル人や日本人の僕は通常通り出社します。日本人は僕1人なので、昨年は正月休みもなかったですね(笑)。
「スタンドアップミーティング」と「スプリントプラン」
-OKpandaの仕事や開発の進め方について教えてください。
仕事を進めるにあたって、OKpandaには特徴的な習慣が2つあります。まず1つは、チーム全員で毎朝行うスタンドアップミーティングです。日本で言う「朝会」でしょうか。全員の進捗状況を確認し合うことが目的で、それぞれが前日に達成したことと、その日にすることを報告します。また、困っているタスクなどがあればその場で共有して、皆の力を合わせて一番早くゴールに達成するための方法を見いだす場でもあります。まだ大きすぎない開発チームには、とても向いている方法だと思います。
-進捗はデイリー管理なのですね。もう少し長期の視点での進行管理はどうしていますか。
僕たちはアプリを作っているので、プロジェクトを2週間単位で回しています。次の2週間のゴールを明確にして、短いスパンで確実に成果を出すための「スプリントプラン」を各自が設けます。チーム全体のゴールをもとに、各々の細かいゴールや優先順位を話し合って、それにコミットするんです。
1つのスプリントプランに対して、主担当者と責任者がセットになって動きます。例えば、デザイナーとディレクターが組んで、設定された目標達成のためにお互いの進捗を確認しながら進めていく。共同責任であることで達成率が増し、どこかが極端に遅れることが避けられます。開発サイクルもスピーディーになりますし、いいプレッシャーにもなりますね。
-「OKpanda」を作る中で、特に印象的なプロジェクトや機能追加はありますか。具合例を聞かせてください。
シャドーイング(声に出して真似する)「OKpanda 毎日英語」アプリの音声認識機能を追加した時ですかね。当初、英会話フレーズ集としてリリースする予定で、すでに完成間近でした。ところが、ファウンダーのアイディアで、そこに「OKpanda 英会話」という姉妹アプリに搭載されていた音声認識を加えることになって。変更が決まってから2週間というタイトなスケジュールでしたが、結果的に「OKpanda 毎日英語」を、かなり実用的な発音練習アプリに仕上げることができました。
他にも、音声認識付きの語学学習アプリは存在しますが、Siriを使っていたり、画面切り替えがあったりして、手本の発音を聞いて、それをユーザーが発音練習するまでにタイムラグがあるものが目立ちます。OKpanda 毎日英語は、ワンタップで音声認識機能が起動するので、聞いた後、瞬時に発音練習できるスムーズな体験を提供しています。
「Appsee」や「inivision」などプロダクト作りに欠かせない最新ツール
-「OKpanda」をデザインする上で、どんなことを心がけていますか。
僕自身、自分の英語力をもっと磨きたいと思っているので、自分が使いたいかどうかというのも1つの指標としてあります。また、「OKpanda」は、目の前の相手と実際に会話をしているような感覚で使えることを目指しているので、イラストについてもあまりかわいくしすぎず、適度にリアルな感じを出すようにしています。
ニューヨークでも、語学学校の日本人の生徒さんにヒアリングしたりしますが、東京に一時帰国する際もユーザーイベントなどを開催しています。実際にユーザーさんにお会いすると、老若男女、本当に幅広いセグメントの方に使っていただいていることを実感するんです。だから、「誰にとっても使いやすい」アプリになるように心がけて作っています。
-直接ユーザーに会って行うインタビュー以外に、ユーザーのことを知るために行っていることがあれば教えてください。
OKpandaでは、「Appsee」というモバイル・アナリティクスというサービスを使っています。ユーザーがアプリを操作している様子を、録画動画で確認することができるんです。例えば、どの画面でユーザーが離脱したか、使用時間、閲覧したスクリーン数、またタップした箇所をサーモグラフィにして見せてくれる機能などもあります。ユーザーの言葉で聞くだけでなく、アプリの使われ方の実態を知るために役立てています。
-ITスタートアップの本場とも言えるアメリカでは、人材競争も激しいと想像します。常に選ばれる人材でいるために、心がけていることはありますか。
常に情報収集をして、新しいものを取り入れるようにしています。デザイナーは僕1人ですが、周囲には最先端の情報に敏感なエンジニアが集まっているため、彼らとの交流の中で得る情報も多いですね。アプリやプロダクトの開発者向けのツールも次々に出てくるので、直面している課題を解決してくれそうなものはいろいろ試してみています。
例えば、プロトタイピングのために使っているのは「invision」というツールです。プログラマーがいなくても実際に動くプロトタイプを開発でき、それをもとにユーザーさんにインタビューなどをすることで、仕事の効率が上がります。また、UIに迷ったり、リサーチが必要な時は、「pttrns.com」を見ています。iPhone、iPadなど、さまざまなデバイス向けのUIやデザインが集約されているパターン集です。Aboutのページ、カレンダー、通知など目的別に見ることもできるので参考にしています。
英語習得で、日本から世界へ飛び立つ人を応援したい
-福井さんは、OKpandaをこれからどんなサービスにしていきたいと考えていますか。
ファウンダーのAdam(アダム)は、よくこんなことを言います。
“The difference between us and other companies is that we actually care about helping people learn English. ”
(僕たちと他の会社との違いは、英語を本気で学びたい人をどうにかして助けたいと真剣に考えていることだ)
OKpandaのファウンダーには、5カ国語を操る人もいたりして、彼ら自身、語学を習得することの難しさを、身をもって体験しています。そこで得た教訓が生かされている「OKpanda」は、忙しい人でも、通勤時間などちょっとした時間に取り入れて継続して学習することができます。また、「OKpanda 英会話」は、LINEを使って英語講師と毎日チャットできるので、講師とやり取りを重ねて親しくなることで、「気がつけば、英語を使うことが習慣になっている」効果があります。
ぼんやり英語を学びたいと思っているユーザーというより、キャリアアップや新しいチャンスを掴むために英語を必要としている人たち、そのスキルがなくて踏みとどまっている人たちを支援したいという思いが、すごく強いです。
なるべくたくさんのユーザーさんに使ってもらって、英語を習得することでグローバルに活躍する日本人が増えることに貢献できればうれしいです。