誰にでも、嫉妬や恨みという感情はあるもの。
自分よりも勉強ができる人をねたむ。
「こんな簡単なこともできないのか」と罵ってきた人を恨む。
人格を否定されるほど、罵倒された経験を持っている人もいるはず。そんな時、沸々と心の中に復讐心が込み上げ、「今に見ていろ」とか「いつか見返してやる」と無言の叫びを上げたことでしょう。
しかし、本当に復讐すると、お巡りさんにつかまってしまいます。でも、復讐心を別の感情に転換し行動できれば、これまでとは違う良い結果を生み出せます。
張りぼての自身貯金を降ろす
お笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山里亮太さん(山ちゃん)は、周囲からバカにされた経験を数多く持っており、その復讐心をガソリンにお笑いに打ち込んできたことを著書の「天才はあきらめた」で語っています。
自分を馬鹿にした人の発言内容をノートに記録し、いつか復讐してやると心に誓いながら、ネタを考え続ける日々。
その努力が実り、ABC朝日放送主催の「ABCお笑い新人グランプリ」で良い漫才を披露することができました。
ここから風向きが変わると思った山ちゃん。しかし、テレビの仕事は入らず、これまで通りの日々を送っていました。その理由は、ある日、ABCのスタッフが「何回キャンディーズにオファーを出したら事務所にNG出されるんだ」という言葉でわかりました。
なぜ、オファーを断わるのか事務所の社員に聞いてみると、「お前らはオーディション組の素人だから仕事は引き受けない。当たり前だろ?」と一蹴されたそうです。
この時、山ちゃんの頭の中に「ヤバい腐る!」という思いがよぎりました。
こういう時は、これまで積み上げてきた小さな成功体験を思いだし、前に進む道を模索するのが山ちゃん流。張りぼての自身貯金を降ろし、路上でネタをやることで、事務所の社員への復讐心を成仏させたのでした。もちろん、この時の負の感情をノートに書き殴り、復讐というガソリンに変えたことは言うまでもありません。
- 「素人だから劇場出番は南海キャンディーズにはあげない」と言ってきたあのときの社員からの電話は1回では出ない。
(165ページ)
この時、復讐ノートに書いた言葉は、後にM-1グランプリ2014で効果を発揮し、南海キャンディーズは、決勝まで残ることができました。
努力してないふりをする
山ちゃんは、高校卒業後、浪人して大阪の大学に入学しました。
芸人になるためには、お笑いの本場大阪に行くことだと思ったからです。そして、吉本興業の芸人養成所「NSC」に入り、お笑いの勉強を始めました。
山ちゃんは、NSCで2回コンビを結成しましたが、いずれも相方の怒りを買って解散しています。
山ちゃんが芸人を目指した動機は「モテたい」というものでした。そういった動機もあり、女子のファンを獲得するための広告塔として、見た目のかっこいい相方とコンビを組むことにしました。しかし、いずれも、山ちゃんの一方的な要求を押し付けるだけのコンビだったため、長くは続きませんでした。2回目の解散の時には、相方に自転車を投げつけられたそうです。
でも、誰もが、これは仕方ないなと思うことでしょう。山ちゃんの暴君ぶりとゲスさを知れば。
しかし、そのような山ちゃんの振る舞いは、自分を天才へと変えていくための努力でした。一心不乱に笑いを取るためのネタを考え続けていたため、相方の気持ちがわからなくなっていたのでしょう。
天才と凡才の差。その違いはどこにあるのか。
山ちゃんによれば、「意識の有無」の違いだそうです。凡才は、意識的に奇抜なことをします。でも、天才は、したことが奇抜ととらえられます。
両者の奇抜な行動までの気持ちの過程は異なっていますが、他人から見れば、どちらも奇抜です。そこで、凡人山ちゃんは、「凡人が奇抜なことをしようとしている」と見せないように努力をしました。
僕は見せない努力をすることと同時に、偽りの天才としての士気の上げ方を覚えた。例えば頑張って何か奇抜なことをしたときに、自分があたかもそれを無意識にやったかのように自分で自分を褒めるのだ。「いやぁ、よくこんなことやったね!普通はこんなことやらないよ!すごいね俺」といった感じで、自分が特殊だと思い込ませた。
人からその奇抜さを言われたときは「え?」みたいな顔をして、僕は当然だと思うけどみんなは違うの?って感じを出した。本当は全然当然だと思っていないし、頑張っただけなのに。
(80ページ)
天才に見える人は、実は、山ちゃん流の凡人に見えない演技をしているのかもしれませんね。でも、それが、自身となって次の行動に向かわせるのなら、自分で作った天才像は、復讐心と同じようにガソリンとなるはずです。
相方が売れていることへの嫉妬
山ちゃんの相方のしずちゃんは、マイペースに仕事をしたいと思っていました。
2度のコンビ解散を経験している山ちゃんは、しずちゃんの感情に配慮しながら、ネタを考えていきます。
ネタ作りのために日々努力する山ちゃん。
一方のしずちゃんは、人気が出て、山ちゃんよりも露出が増えるようになっていきます。映画出演、ボクシング挑戦と何かと話題の多いしずちゃんを見て、山ちゃんは嫉妬し始めます。その嫉妬心は、いつしか、どうやって、しずちゃんを捨てるかということを考えさせるようになりました。
「いつでも捨てられる準備を」
「相方が遊んでる間にエピソードを作り、1人で発表する場を作る」
「もう助けない。一言もしゃべらなかった日を作って自分で反省させる」
「相方を見て知った、力のない人間が芸能人ぶることの愚かさを」
(212ページ)
山ちゃんの地獄のノートには、しずちゃんへの復讐心が書きこまれることに。
でも、しずちゃんに対する負の感情は、しずちゃんが出演した映画のエンドロールで、しずちゃんの名前の横に「南海キャンディーズ」と入っていたことで消えていきます。エンドロールに「南海キャンディーズ」と入ったのは、しずちゃんの要望でした。これを知った時、山ちゃんは、これまでの自分の行動が、相方に対してひどいものだったことに気づかされたのです。
山ちゃんは、復讐心を上手に正の行動に変換する技術を持っているように思います。
「嫌いな奴を燃料にして、脳内で圧倒的な勝利を掴め!」
嫌なことがあっても、その場で相手に復讐するのではなく、その気持ちを忘れないようにノートに書き努力を継続する。その場で復讐するよりも、時間を置いた方が、多くの利子がついて成功が返ってくるのだと思えば、有意義な行動をとれるのではないでしょうか。
本書では、山ちゃんが自分のクズっぷりを赤裸々に綴っています。でも、自分でクズと認める山ちゃんを多くの人が支えてくれたことも述べられています。
山ちゃんの努力を知った人は、山ちゃんの手助けをしたいと思うのでしょうね。
天才を演じる山ちゃんには、努力を知られたことは複雑かもしれませんが。
- 作者: 山里亮太
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2018/07/06
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (6件) を見る