ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やワシントン・ポスト(The Washington Post)が大勢のデジタル有料購読者を誇る一方、地方紙はますます厳しい状況に置かれている。そんななか、勢いを見せているのがシアトル・タイムズ(The Seattle Times)だ。2013年にメーター制課金を導入して以来、同紙はすでに3万6000人のデジタル有料購読者を獲得している。
「5年前は、ニュースにお金を支払うという考え方が、まだ目新しいものだった。だがそれ以来、消費者の求めるものは変化している」と、シアトル・タイムズでイノベーションおよび製品担当バイスプレジデントを務めるシャロン・チャン氏はいう。
ニュースレターが入り口
シアトル・タイムズにとって、有料購読者の獲得にもっとも貢献しているのはペイウォールだ。だがチャン氏は、ニュースレター(メールマガジン)、コンテストツール、選挙アプリなどのデジタル製品を新たに導入し、購読者の維持と新規購読者の獲得に努めている。この2年間に開始されたニュースレターは、ニュース、レシピ、飲食店情報など複数の分野にわたっており、同紙が提供している製品の案内役を果たしている。
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「ニュースレターは、シアトル・タイムズのマーケティングファネルへの入り口だ」と、チャン氏はいう。「当初は、多くのことを手がけていた。記者たちに、創造性を発揮してさまざまなことに挑戦してもらいたかったからだ。だが、いまはその手法を洗練させ、購読者の拡大と維持に努めている」。
現時点で、ニュースレターは18万3000人の購読者数を抱えている。その狙いは、魅力的な記事を読者に紹介し、彼らが何度もペイウォールにぶつかるようにすることだ。そうすれば、ユーザー登録をして記事を購読する気にさせることができる。また、ニュースレターに加えて、製品チームはマーケティングチームと緊密に連携しながら、さまざまな調査を実施し、うまくいっている取り組みとそうでない取り組みを見極めている。
「デジタル有料購読プログラムが提供する価値を高めるための議論では、たいてい調査が活用されている」とチャン氏は話す。「我々はユニークビジターに注目し、どれくらいの数の人が、(ペイウォールのために)先に進めない地点に到達したあと、購読してさらに記事を読み進めるのかを調べている」。
コメント機能で成長を促す
購読者に提供する価値のなかで、購読者との関係維持に重要な役割を果たすようになったのは、コメント機能だ。シアトル・タイムズのサイトでは、ユーザー登録をしなければコメントを残せない。この仕組みが、ファネルの中間地点にまで読者を誘導するのに役立っている。
「コメント機能は、我々の成長を促す重要な要素だ。マーケットデータを調べた結果、我々の読者が(記事に)コメントを残せる機能を評価していることがわかった」と、チャン氏はいう。コメントによるエンゲージメントは、シアトル・タイムズと読者の双方にメリットをもたらしているため、同紙はこの機能の強化を検討している。「我々は現在、ほかの製品を調べて、質の高いコメントシステムがないかどうか探している。重要な要素のひとつは、荒らし投稿やヘイトスピーチを排除できる仕組みだ」。
また、シアトル・タイムズはこの数年間、社内システムのリニューアルに取り組んでいる。チャン氏によると、さらに効率的なオーディエンス管理システムを購入し、社内で構築しなければならないという。
「この規模では上出来の人数」
一方、「この規模の都市にしては上出来の人数だ」と語るは、メディアアナリストのケン・ドクター氏だ。同氏によれば、シアトル・タイムズと市場規模がほぼ同じミネアポリスのスター・トリビューン(Star Tribune)は、有料購読者が5万5000人だ。だが、印刷版の購読者が広告収入に占める割合は、以前の70~75%から50~55%に落ちているという。「広告収益が同じ割合で下がり続けると仮定するなら、いまから2~3年以内に有料購読者を5万人以上に増やして、デジタル収益を確保する必要がある」と、ドクター氏は指摘した。
Aditi Sangal(原文 / 訳:ガリレオ)