海外進出めざましいホテルチェーンの「東横イン」。2008年以降、韓国にて着々と店舗数を増やすとともに(現在9店舗)、2015年からはカンボジア、フィリピン、ドイツ、フランスと世界5カ国に店舗を展開している。
日本とまったく同じインテリアやサービスは感動すべきレベルであり、海外各地の東横インを訪れては、なじみある室内で我が家のようにくつろぎ、でも窓を開ければ海外というパラレルワールド体験を常々楽しんでいる東横ファンの私。
コネタでもプノンペンやセブの東横インを取材してきたが、このたび東横インのないはずの中国で、規格外の東横インに出会ってしまった。
かつて東横インだった居抜き物件が、中国のホテル業者によって運営されているのだ。
写真だけなら東横インだが……
海外進出1号店として、中国東北地方の瀋陽に東横イン(開業時の中国表記は「東陽閣IT飯店」)が誕生したのは、同社の海外進出ラッシュが始まる前の2002年のことだ。
しかしこの店舗「瀋陽北駅前」は、再開発のあおりを受けて2007年に消滅。2010年には位置を変え、「瀋陽駅西口」として再オープンするも、翌年には閉店してしまう。その後、中国に東横インが存在したことは一度もなかった。
しかし現在、瀋陽駅西口のあった住所を検索すると、別の名のホテルがいくつか登場。しかも予約サイトに掲載された室内写真は、まさかの東横インではないか。
ベッドやテーブルのみならず、カーテンや布団カバーまで同じなのは、東横イン時代の備品をそのまま使っているのか、あるいは写真だけ東横インの流用なのか?
しかもお値段は、シングルでたったの1478円(2018年6月時点のレート)。こんなゲストハウス価格で東横イン(らしきもの)に泊まれるとは、一体どういうこと? そして東横イン精神なき東横イン(らしきもの)とは、一体どんなところなのか? 興奮した私は即座に予約し、今年6月に瀋陽へと旅立った。
見覚えありすぎるロビー
満州国時代に「奉天駅」として建築され、東京駅のような外観を見せる瀋陽駅に降り立つ。ただし気になるホテルがあるのは、その裏口。大規模な工事が進んでおり、フェンスに視界を阻まれ少し迷ったが、大通りまで出るとそのホテルはすぐに見つかった。さすがかつての「駅前旅館の鉄筋版」だ。
まずは文化遺産を拝見するような気持ちで外観をじっくり眺める。当時の看板は撤去され、代わりに複数のホテル名が掲げられているが、外壁のカラーリングや建具などは東横インのそれだ。駐車場の壁には、繁体字で書かれた「東横INN専用停車場」の文字が消えかかりながらも残っており、ありがとう中国の人!という気持ちになる。
看板に私の予約したホテル名のないことが少々ひっかかりつつも、建物の中に入る。
目の前に広がる風景は、まさに東横インのロビーだった。壁や床など、落ち着きある内装デザインは、ほぼそのまま。違うのは、いつもの場所にパソコンやソファがなく、がらんとしていること、奥の一角で個人商店が営業していること、そして薄暗いということだ。こう書き並べると全然違う気がするが、私の中ではじゅうぶん東横インだった。そう、今のところは……。
日本人からしたら、東横インだって"B級グルメ"的な楽しみではあると思うが、中国人の手にかかるとこうなっちゃうのか。お国柄かねぇ。