「おい!置いていくぞ。」
「ウルベル?」
「一緒に水浴びを見に行こう。」
「チーノ?」
「弟知らない?あいつ今度ばかりは崖から突き落とす。」
「チャガ?」
「朝が弱くて・・」
「アケミラ?」
「「「「モモン、早く来いよ」」」」
そう言ってみんなが俺に手を差し伸べてくれる。
「あぁ!今行くよ。」
モモンは手を伸ばし・・・
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「!っ・・」
気が付けばモモンは空に向けて手を伸ばしていた。
「・・・・夢か」
モモンの全身鎧の隙間から僅かな風が流れ込んでくる。目の前には青空が広がっていた。
「おはようございます。モモンさん。」
「・・おはよう。ナーベ。」
「大丈夫ですか?うなされていましたが。」
「大丈夫だ。」
全身から冷や汗をかいており不快な気持ちになる。
モモンは深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「それより彼らは?」
「『漆黒の剣』の者たちなら既に起きていますよ。」
「分かった。すぐに向かおう。」
(ニニャさんには悪いことを言ってしまった。謝らないとな・・)
そう思うとモモンは『漆黒の剣』の元へと歩いて行った。
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モモンとナーベは『漆黒の剣』とンフィーレアたちに朝の挨拶をする。
一同がカルネ村へと向かう。
だが結局モモンはニニャと挨拶以上は話すことはなかった。モモンもニニャも昨日のことを謝ろうとしていたのだが言葉に出すことが出来なかった。
こういう時に何て言えばいいか分からなかったからだ。ギルメン村の時には全員が仲が良く喧嘩というものは基本的にしてきなかったからである。
(・・・・どうすればいいか・・)
モモンがそんなことを考えているとンフィーレアが口を開いた。
「もうすぐでカルネ村です。」
このメンバーの中で唯一カルネ村に来たことがあるンフィーレアが言う。
「・・・」
昨日の一件以来やはり気まずい雰囲気が流れる。
(・・・・大人になったと思ったんだが、俺にとって『五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>』はやっぱり特別なんだな。)
「・・・・」
「あー!ドラゴンっ!!」
そう言ってルクルットが空に向けて指さす。
「あ!本当なのであーる。」
ダインがそれを見て驚愕の表情を見せる。ルクルットと同じように指さす。
「えっ・・・」
素で声を出したのはナーベであった。ナーベの目線の先にはアゼリシア山脈しかなくどう見てもドラゴンらしき生物は見当たらなかった。
「・・どう見てもいないでしょう。何を言って・・」
「いやいやナーベさん。警戒は大事ですよ。ねっ!」
そう言ってぺテルがナーベに声を掛ける。
この時のことを後にナーベはこう語る。あの表情は「察してくれ」と全力で訴えかけていた・・と。
「そうですね。警戒は大事ですね。ドラゴンだっていつ出るかは分かりませんしね。」
「そうですよ。遠方から飛んできたドラゴンが突然襲撃して来るかもしれませんしね。」
ニニャは渡りに船とばかりにナーベの話に乗っかった。
「常識的に考えてそんなことありえるのか?ニニャ。」
ニニャの発言にルクルットが食いつく。
「ありえませんね。エ・ランテル近郊にドラゴンがいたとされるのは、かなり大昔に天変地異を自在に操るドラゴンがいたという眉唾な伝承があるばかりで、最近はドラゴンを見たという話は聞きません。アゼリシア山脈には霜の竜<フロストドラゴン>が生息しているという話を聞いたことはありますね。かなり北方寄りらしいですけど。」
(天変地異を操るドラゴン?・・・もしかして『神竜』のことか?)
十三英雄の物語で最後に彼らが戦った相手が神竜。その戦いを終えた彼らは散り散りになって旅を終えた。
「あー、その天変地異を操るドラゴンの名前は知っていますか?」
喧嘩をしている相手に平然と声を掛けられるほど面の皮が厚くないモモンは小さい声で喋る。それをニニャが聞き取った様で勢いよく顔を向けた。
「すいません!!エ・ランテルに帰ったら調べます。」
「えぇ。ニニャさん。時間があったらで結構なので調べてくれませんか?」
「分かりました!モモンさん。」
そんな二人のやり取りを見て仲直りをしたのを見届けた他の五人は満足げに笑った。
それを見てモモンも微笑む。
(本当に良いチームだ。感謝する。)
「あっ!カルネ村が見えましたよ。」
ンフィーレアのその言葉によって一同は気持ちを引き締めた。
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「あれ・・前はあんな頑丈そうな柵なんて無かったのに。」
「モンスター対策とかではないですか?私のいた村ではありましたよ。」
ぺテルが言うがンフィーレアの疑念は晴れない。
「いや・・この村は『森の賢王』の縄張りに近いのでモンスター対策はしていなかったはずなんですが・・・」
「そんなに気になるなら私が見てきましょうか?」
意外にも一同に提案をしたのはナーベであった。
「頼めるか?ナーベ。」
「はい。では見てきます。不可視化<インヴィジビリティ>」
ナーベの姿が周囲に溶け込んだ後に透明となる。
「飛行<フライ>」
ナーベが飛んでいきカルネ村の状況を眺めに行く。
「それではナーベを待ちましょう。」
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
「ただいま帰りました。」
「どうだった?」
「はい。村人はいました。特に違和感はなく皆が働いていました。」
「ありがとうございます。ナーベさん。」
「・・いえ。」
あまり礼を言われることに慣れていないせいかナーベが困惑する。
「それでは行きましょうか。」
珍しく指示を出したのはンフィーレアであった。
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
モモンたちがカルネ村の門の前に立つ。
真っ先にぺテルが先頭に立つ。
(一応警戒をしての行動か・・)
「すみません!誰かいませんか?」
ぺテルのその言葉に反応したのか中から走り回る音が聞こえる。
扉の上にある櫓から何者かが弓を構えていることに気付く。
「!っ・・弓兵だ!」
モモンのその言葉に反応して一同が即座に戦闘態勢に入る。
「!っ・・後ろを取られてしまった。」
気が付けば門の前でモモンたちは武装した何者かに囲まれてしまった。
(倒せるだろうが・・・この場にいる全員が無事でいれるかは分からないな。それにしても・・)
櫓から弓を構えるのはゴブリン。モモンたちを囲うのもゴブリンであった。
目の前にいるゴブリンたちは武装されておりその動きは訓練された戦士のそれであった。その中から一人のゴブリンが歩き出た。
やがてモモンたちの間合いに僅かに入らない程度まで歩くと立ち止まる。そして口を開いた。
「降参して下さい。おたくらに恨みは無いんですよ・・」
ゴブリンの口から出たのは流暢な言語であった。
(先程のゴブリンとは比べ物にならない程だな・・)
モモンは背中の大剣に手を掛ける。
「そこの漆黒の鎧を着た兄さん!動かないで下さい。」
「・・私がお前たちの指示に従わねばならない理由があるのか?」
そう言ってモモンは『闘気』を出す。
「!!!!っ」
その場にいる者・・ナーベを除く者の息が止まる。
『闘気』・・それは戦士が発することが出来るオーラである。
普段生物は必要最低限しか警戒していない。しかし緊急時に関してでいえば警戒心を最大にすることで物事を短時間で解決できるようになる。そしてその際に発するのが『闘気』である。そしてその『闘気』の範囲や存在感が強い程、生物として優れていることを意味する。そのため『闘気』の発動時間の速さや長さ、そして圧の強さなどで戦士という生き物は本能的に競い合う性質を持つ。
それは圧倒的な実力差を感じさせるには十分であった。
「・・アンタが強いには分かっていますよ。ただこちらも退けない理由があるんでね。」
そう言ってゴブリンの一体が震えた腕で剣を抜く。
「そうか・・・仕方ないな。ならば・・・」
モモンは背中の大剣を・・・
「止めて下さい!!!!!!!!」
聞こえたのは少女の声。
その場にいる全ての者が彼女を見た。彼女はカルネ村の門から出た所にいた。その少女は村娘という恰好をしている。金色の髪は結ばれており、その目は少女としての儚さと覚悟を決めた大人の力強さを感じさせた。
その少女を知る者は誰一人いなかった。
ただ一人を除いて。
「エンリ!!!!!!!!!」
ンフィーレアが彼女の名前を叫んだ。
それに対して彼女が言葉を返す。
「ンフィーレア!!!!!!!」