鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず
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7話 八本指襲撃

 ナザリック地下大墳墓 九階層アインズ執務室

 

 漆黒の重厚な執務机の椅子にアインズが座り、向かい合うようにアルベドとデミウルゴスが立っている。

 

 王都で助けた女性達は六階層に立てたログハウスで休養を摂っている。

 このログハウスだが、元々は別の種族とも友好的に共存出来るよう、ナザリックに招いた者を住まわせるためにアウラに命じて建てさせたものだ。

 

 アルベドから改めて詳しく報告を聞き、ツアレや娼館達がどういう状態だったかを知る。王都の館では低位の治癒では癒せないぐらいの怪我と認識していた。

「これが同じ人間がすることか」

 全ての女性が理不尽な理由で娼館に連れられていた。

 いつもの支配者ロールの時よりさらに低い声を発した絶対支配者。

 

 アルベド、デミウルゴスは、表情こそ変わらないが怒りを露にする主人の周りに絶望のオーラではない、何か別のオーラと、普段優しげな瞳に、オーバーロードの時に灯っていた赤黒い光を見て思わず身を震わせる。 

 

 震えている二人に気付いたアインズは。

「・・・すまない。つい気が高ぶってしまった。」

 無理やり沈静化されることが無くなったが、部下を怯えさせてしまった事実に申し訳なく思う。「ふぅ」と長めの息を吐く、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。

 娼館で捕らえた者達。特に王国で巡回使の役人で八本指と繋がっていたスタッファンという太った男には、特別待遇とし、デミウルゴスに厳命しておく。

 

 ペストーニャの治癒魔法のおかげで麻薬依存も脱し、肉体的には完治しているが精神面がまだ病んでいる者もおり、ペストーニャがそのままケアに就いている。

 そして、ここナザリックがどういう場所でその絶対支配者がどのような存在かを教育をしている(拷問といった手段は当然なし)。これはデミウルゴスだけでなく、カルマ値の高いペストーニャとユリからも必要だと薦められた。自分達を助けた存在がどれほど素晴らしい御方かをしっかりと理解させる必要があるとのこと。

 アインズとしてはツアレや娼婦達が受けてきた仕打ちを知り、リアルのことを思い出してしまった憤りから助けると決めたが。鈴木悟が元居た世界でも、権力を持つ上流階級の者達は自分の利益や嗜好を満たすことしか考えておらず、鈴木悟含む貧困層はただの消耗品で替えの利く存在程度にしか思っていなかった。中には良心的な者も居たとは思うが、少なくとも企業のトップ連中が自分本位なのは事実だった。

 だからアインズは彼女達がナザリックの外で暮らしたいと希望すればここでの記憶を消して開放するぐらいなんの問題もないと思っているし、その旨をペストーニャには伝えてある。

 彼女達がどう選ぼうがそれは本人の自由意志に任せよう。

 

 ツアレは彼女達より先に保護されたおかげか、すでにナザリックでメイド見習いとして働いている。

 メイドとしての作法はユリが指導に当たり、掃除はイワトビペンギンの姿をした執事助手。エクレア・エクレール・エイクレアーが指導している。

 

 

 アルベドとデミウルゴスを部屋に呼んだのは、王国の情報がセバス達のおかげで十分に集まり今後どうするかを話し合うためだった。

 デミウルゴスの進言により館を撤収した後も彼主導でシャドーデーモンを放ち、情報収集を継続させた結果の報告書を読み終わったアインズは深い溜息を履く。

 

 ナザリックの知恵者二人が提出する内容は、転移した当初小卒のアインズには難解な言葉が多く理解できなかったため、知恵者の三人の判子があるからとあまり読まずに判を押していたが。パンドラの教育を秘かに受け、それとなく遠まわしにアルベド、デミウルゴスにもう少し分かりやすく書いて欲しいと伝わるようパンドラに頼んだ成果により今ではほぼ理解出来るようになった。

 情け無い頼み事をしてしまったが成果を上げたパンドラに褒美を与えようと提案したら。『父上』と呼ばせて欲しいときたもんだ。

 確かにパンドラはアインズが創造した領域守護者。息子と言えなくもない、少々葛藤することになったが二人きりの時だけ許すことにしてその褒美とした。

 

 溜息の原因はパンドラではなく、報告書の内容だった。

「ある程度は分かってはいたが、王国はここまで腐っていたのか」

「全くです。愚かの極みとは正にこのこと」

「同感です。もはやあの国は自力で立ち直るのは不可能でしょう」

 

 昨日、王国に引き渡した八本指の幹部二人。警備部門六腕の一人サキュロントと奴隷部門長コッコドールがもう釈放されたと報告書にあるのだ。

 裏組織と繋がりのある貴族連中が手を廻したのが原因のようだが。(昨日の今日だぞ)

 

「アインズ様。私から一つ提案があるのですがよろしいでしょうか?」

「ん?ああ構わんぞ」

「ではこの書類を。まだ完成しておらず草案ですが」

 デミウルゴスが甲斐甲斐しく差し出す何枚もの書類を当番のメイドに渡し、それをアインズが受け取る。

 

 書類に目を通し内容を一通り把握したところで。

「その案はセバスからの報告を聞いた初期の頃に作成したものです。アルベドとも相談しましたが、アインズ様が人間になられた時に『相応しくない』と、破棄したものですが、今回はそれを修正して行うのがよろしいかと」

 

 作戦名『ゲヘナ』

 王国に悪魔を召還し人、物資を強奪。

 裏組織八本指を洗脳、教育(・・)しナザリックが支配。王国を裏から牛耳る。

 デミウルゴスがヤルバダオトと名乗り魔王として王国に恐怖を与え、それを冒険者モモンが撃退して名声を稼ぐ。

 大まかにだがこんな感じだった。必要な人員と規模などが書いてあったが完成しておらず空白の部分もある。

 

 確かにこれを行えばナザリックにとっては利益が大きく最高の作戦と言えるかもしれない。・・・以前であれば。

 デミウルゴスもアルベドもこれを行えば一般市民にも数千~万単位で被害が出るため破棄したのだろう。ならば修正すれば良い。

 

「よろしい。では私から注文がいくつかある。三人で吟味していこうか」

「「はっ!」」

 

 そうしてリアルタイムで王国からの情報を取りつつ会議は進む。

 

 

 

*** 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第六階層 円形闘技場(コロッセウム)

 

 闘技場の中心辺りで、今二人の剣士が模擬戦を行っていた。

 白銀の鎧を着た剣士が相手の攻撃を盾で弾き、もう片方の手に握られた武器で漆黒の鎧を着た剣士に切りかかる。それを弾かれた勢いそのままに、バックステップで距離を取る漆黒の剣士。二人の間に幾ばくかの間が出来た時、ふいに白銀の剣士が口を開く。

「父上。よろしかったのですか?あの内容で」

「ん?────ああ。私が希望したのだからな。お前も必要性は理解しているだろう」

「理解はできますが・・・守護者の方がよく納得しましたね。特に守護者統括殿が」

「いや、かなり苦労したんだぞ。しかし、今後を考えると絶対(・・)必要だと強く言ったからな。それにちゃんと保険も掛けたしな」

 

 「ふぅ」と息を吐き、精神的に疲れた漆黒の鎧姿のアインズ。

 「御疲れ様でした」とこちらの苦労を理解しているように一礼する白銀の鎧姿のパンドラ。

 

 パンドラが「父上」と呼ぶように、今ここには二人しかいない。

 ゲヘナ作戦が決まり作戦指揮を取るデミウルゴスが準備に入ろうとして、アインズも手伝うつもりだったが「こちらは我々僕にお任せ下さい」とハブられてしまった。

 今回の作戦は転移以降。最も大きな作戦になるので即座にナザリック全体に通達された。

 準備に結構時間がかかるので、その間ゲヘナに参加しないパンドラとこうして日課の戦闘訓練をしていたのだ。今日はたっち・み~の姿で。

 装備は相手に1ダメージしか入らないネタ武器『竹刀』を使って。

 

 エ・ランテルでのクレマンティーヌ戦以降。剣士としての基本を学んだアインズは時間があるたびにこうして訓練している。ある時は弐式炎雷。ある時は武人建御雷の姿をさせて。コキュートスとも本人が望む褒美(ガチじゃないけど)として行っていた。

 もちろん勉強もだ。訓練は良いけどパンドラに勉強を教えてもらっているのはナザリックでのトップシークレット。支配者の情け無い姿はパンドラ以外には晒したくない。

 

 鈴木悟は別に頭が悪い訳ではなかった。リアルの富裕層は変に知恵を持つ貧民層からの下克上を恐れて教育機関を絞ったのだ。小卒でも上等と言える環境でまともな教育を受けられなかっただけ。

 パンドラの教え方もあるだろうがアインズは教えられたことを水を吸うスポンジのように吸収していった。

 

 近接戦闘にしても、アインズが思い浮かべるユグドラシルでもトップ3に入る腕前のたっち・み~。

 その戦っていた姿に自らを重ねるように動いていく。少しずつ良くなっているのは実感出来ているが、まだまだ自分の理想には遠かった。

 

「まだ時間がある。もう少し続けるぞ。パンドラ」

「畏まりました。では、参ります」

 

 駆け出す白銀に、迎え撃つ漆黒。

 身に纏う見事な鎧から鳴り響く剣戟は「ビシ」「バシ」と、誰か見ている者がいれば首を捻りそうな音が広い空間に鳴り響いていく。

 

 

 

***

 

 

 

 王国の第三王女。『ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ』はアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』が八本指の麻薬畑を焼き払った時に得た組織の所在地が判明したのと、クライムがブレインとセバスなる執事と、八本指の奴隷部門長と六腕の一人を捕縛した成果を受けたのを機に一気に打撃を与えようと今夜一斉襲撃を決行した。先日から根回しをしていたのもあり、急な集合にも十分ではないが揃えることが出来た。

 

 班ごとに分かれての襲撃により、クライムとブレイン。更に六大貴族の筆頭『エリアス・ブラント・デイル・レエブン』子飼いの元オリハルコン級冒険者の盗賊が襲撃予定の屋敷へと向かっていた。

 

 盗賊が屋敷を窺うが様子がおかしい。

 人の気配が全くないのだ。六腕の実力はアダマンタイト級であるという。しかし、部下などもいるはずであり、その程度の下っ端の気配ぐらいオリハンコン級の盗賊が気付かない訳がない。

 実力的に上の六腕だけが潜んでいるのも考えづらい。

 意を決して中に入る。予想通り人がいないのを確認してからクライムとブレインを招きいれ辺りを調べる。

「やっぱりだ。誰もいねえ」

「そんな!ラナー様がせっかく突き止めたのに」

「争いがあった形跡もねえな」

「ああ。盗賊の俺から見てもこりゃ慌てて引き払った感じだな」

「襲撃に気付かれたと?」

「多分な。今回集まった面子で裏切りがあるとは考えにくい。相手は王国を裏から牛耳ってる犯罪組織だ。どっかから聞きつけたとしても不思議じゃねえな」

 

 クライムも裏切り者はありえないと思っている。『蒼の薔薇』は当然だし、目の前にいる盗賊も、自身が絶対の忠誠を誓ったラナーがレエブン候は信頼出来ると言われていた。やはり、気付かれたのか。

 ここに居てもしょうがないとして、別の襲撃ポイントへ応援に向かうこととなった。

 

 

***

 

 

 

「あ、悪魔だぁ~」

「み、皆逃げろ~」

 

 日が沈み月明かりと星の輝きが辺りを照らし、日中働く者が休み入る頃。

 リ・エスティーゼ王国の王都にそんな叫び声がある一区画に響き渡る。  

 そんな声に扇動されるように逃げ出す人々の中の一人の子供が母親に手を引かれながらふいに空を見上げた先。

 月の輪郭の中に浮かぶ人型のシルエット。

 月の光で姿はよく分からないがその影は、頭に二本のくの字の角らしきモノ。手に鎌のような獲物を持ち、背中から生えた羽で浮かぶ御伽噺で聞いた悪魔のようなモノがあった。

 

 

 

 別の場所で一体の悪魔が目的の屋敷の前に姿を現す。

 悪魔の名は<強欲の悪魔/イビル・グリード>

 デミウルゴス配下。三魔将の一体<強欲の魔将/イビルロード・グリード>の下位悪魔でLV50後半である。

 その姿は強欲の魔将に似ているが、二本角の魔将と比べ一本。背は少し低く、羽も小さい。手に持つのは血に塗れたような幅広のブロードソード。人型の体だがその顔は獣のようで、欲望を満たすような赤く光る目をしていた。

 

 悪魔がどこからか合図を受け、屋敷へと火の玉を飛ばす。着弾した瞬間、激しい音と共に油でも撒いてあったのか、あっという間に屋敷全体に広がっていき、もはや中の物は全て燃え尽きるであろう勢いだった。

 

 悪魔が自分に与えられた任務の一つを終わらせて笑みを浮かべていると。

「よお、良い焚き火じゃねえか」

「なぜこんな所に悪魔がいる」

 

 悪魔が振り向いた先には二人の人間が居た。

 最初に発言したハスキーな声をした戦士。

 巨石を思わせるような大柄な体躯をしている。短く刈り上げられた金髪の髪に、肉食獣のような瞳、女性の左右の太腿を合わせた位のサイズの首、腕は丸太のように太い。胸部も盛り上がっているが、それは女のような膨らみではなく、鍛錬に鍛錬を重ねた大胸筋である。

  

 もう一人の忍者。

 髪はオレンジに近い金色。スラリとした肢体をしており、全身にぴったり密着するような服装に赤いバンダナをしている。

 

 二人は王国所属のアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』。

 戦士ガガーラン。忍者ティア。

 

「冒険者カ、邪魔をスルナラ容赦センゾ」

 獣の顔をしていても悪魔。喋ることはできるようだがその声はだみ声で聞き取りづらい。

「へっ!いきなり王都に現れて屋敷を燃やすような輩をほっとけるかよ。やるぞティア!」

「了解!」

 

 忍者のティアが先制攻撃にクナイを二本投げる、難なく弾いた悪魔だが、ティアの攻撃に合わせ、戦士ガガーランが一気に間合いを詰める。

「おらあ!剛撃!」

 

 「ガギイィィン」ガガーランの持つハンマー<鉄砕き>に武技を発動した一撃を悪魔は剣で受け止め大きく弾く。

「なっ!」

 体勢の崩れたガガーランに悪魔が。鋭い爪の生えた足で切り裂こうとする。

「不動金剛盾の術! 」

 七色に輝く眩い六角形盾がガガーランの前に現れ蹴りをふさぎ、粉々に砕け散る隙に悪魔から距離を取る。

「こいつ!強えぞ。腕が痺れてやがる」

「一撃で砕かれるとは。なら爆炎陣!」

 ティアが放った忍術。爆発と炎が相手を包みこむ。

 直撃した炎を振り払い、二人に突進してきた悪魔が真一文字に横薙ぎで切りつけてくるのを辛うじて避ける。

「笑止。ソノ程度ノ炎、我ニハ効カヌワ」

 

 冷や汗を掻きつつどう戦うか決めかねているガガーランと、同じく相手の強さを瞬時に理解し困惑しているティア。

 (踏ん張るしかねえ)

 

 力量差を長い冒険者生活からの経験で埋めて耐え抜く。

 

 戦い始めて数分。まともに食らえば致命傷を免れない悪魔の猛攻を凌いでいたガガーランが疲労により足を滑らせる。

 その隙を悪魔が見逃さず、悪魔の手から火の玉が飛んでくる。

「やべ!」

「ガガーラン!」

 

 ガガーランが避けられないと悟り、なんとか耐えようと歯を食いしばる。

 どこからか飛んで来た符がガガーランの足元に張り付いた瞬間────巨大な蜘蛛が現れ火の玉の直撃を受け弾け飛んだ。

 爆発の衝撃を受け、そのまま悪魔から後退したガガーランが見た先────屋敷入り口近くの塀の上。南方に伝わる和服のようなメイド服を着た女が立っていた。

 

 

 

 エントマ・ヴァシリッタ・ゼータは他のプレアデス達。ユリ、ルプスレギナ、シズと同じ任務をそれぞれ別の場所で言い付かっていた。

 王国民を悪魔から守る事。

 ただし兵士や衛兵は死なせないようにと言われているが、負傷してしまうのは構わない。彼らは国のため、民を守るため戦い血を流すのも仕事の内だからだ。これはその地に住む冒険者も含まれている。

 

 それと同時に一体。プレアデスと同等クラスの悪魔がおり、見つけた場合は現地人と協力(・・)して倒すのが目的だった。

 そして、ソレを発見したあまり足の速くないエントマが悪魔に追いついた時には、すでに戦闘が始まっており、まさに一人の戦士がやられそうになっていたのを見て符を投げた。<第三位階怪物召喚>(サモン・モンスター・3rd)で召還したモンスターを盾にしたのだ。

(危なかったぁ。結構ギリギリだったみたいぃ。とりあえず)

「雷鳥符!」

 

 さらに放った符は空中で青白い放電を放つ鳥となり悪魔を襲い遠ざける。

 

「助けてくれてありがとよ。・・・それで、おめえさん何者だ?」

 

 悪魔が離れるのを確認してからガガーランがとりあえずのお礼と、王国で見た事もない乱入者に警戒しつつ問いかける。

 ティアも油断なく悪魔とエントマを視界に納めている。

 

「私はエントマ・ヴァシリッタ・ゼータァ。我が主の命によりぃ、王国民を守りにきましたぁ」

 

「そりゃあ────」「ガガーラ!」 

「ガギン」 

 

 どこの貴族か聞こうとしたガガーランへとエントマが蟲を飛ばし悪魔の攻撃を防ぐ。ティアの呼びかけは途中で遮られてしまった。

 エントマが右腕に絡ませた剣刀蟲で悪魔に切りかかり再度距離を離させる。

「危ないよぉ。はい、これぇ」

 

 自己強化の符を自らに張り、二人にも許可なく問答無用で貼り付ける。

「おお!なんだこれ?支援魔法みたいなもんか?」

「これは・・・うん。絶好調かも」

 

 自身の身体能力が向上するのを感じる。

「お~し!とりあえず味方ってことでいいんだな。よろしく頼むぜ」

「かわいい娘が加わるとやる気出る」

「じゃあぁ、行くよぉ」

 

 左手に新たに硬甲蟲を絡ませメインで戦うエントマ。援護に回るガガーラン。飛び道具とアイテムで支援するティア。

 即席の連携だが少しずつ有利に戦況を進めていく。

 

 

 

 戦闘に介入してからしばらく。エントマは芳しくないと感じていた。

 このままでは時間が掛かり過ぎると。

 元々精神系魔法詠唱者であるエントマは特殊役。支援役で真価を発揮し、直接戦闘は得意ではない。

 蟲使いとして振るおうといくつかある切り札を使うにも時間がかかり、今しているように前衛にいると使える隙がない。

 かといって今もエントマが作った隙に戦鎚で攻撃している戦士と前衛を替われば有利な状況がひっくり返りかねない。あの忍者も同様だ。

(というよりあの忍者の娘は何ぃ。詐欺かしらぁ。通常忍者はLv60以上じゃないとなれないのにぃ、技や動きの感触からしたら精々20後半ぐらいってぇ)

 余計なことを考えてしまい悪魔の攻撃を避けきれずメイド服に当たるが、御方から頂いた装備は一級品。アダマンタイトより硬く同格の悪魔といえど攻撃を易々とは通さない。硬質な音を発し符を使い牽制する。

(せめて高火力担当がもう一人いてくれたらなぁ)

 

 エントマが自分の姉妹達を思っていると、突進してきた悪魔の足元に水晶で出来た騎士槍(ランス)が石畳を穿つ。

 警戒して後退する悪魔を尻目に、騎士槍(ランス)の上にフワリと降り立つ者が居た。

「「イビルアイ!!」」

「ふん。なにがいるかと思えば、王国に悪魔が入り込むとはな」

 

 声が幼く、背格好も小さい、額に朱い宝石を付けた仮面で顔を隠してローブ姿の女。

 彼女はイビルアイ。ガガーラン、ティアと同じく王国のアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』の魔力系魔法詠唱者。知っている者は少ないが、かつて『国堕とし』と呼ばれ、250年生きた吸血鬼。

 

 悪魔がまたもや現れた新手に警戒しているのか動かないでいる内に、ガガーランとティアがことのあらましをザックリ説明している。

 

「ふむ・・・エントマと言ったか。私はイビルアイ。あの悪魔を討伐する。前衛を任せるが構わないな」

(このメイドかなり強いな。私より弱いとは思うが)

「もとよりそのつもりよぉ」

(こいつかなり強い。私達プレアデスと同じくらいかなぁ)

 

 魔法詠唱者は様々な魔法を状況に合わせ使っていくのが一流で、火力のゴリ押しは二流というのが持論だというイビルアイだが。今回はしょうがないと割り切る。

 

 エントマは時間を置いている内に切り札の二つ。左手に鋼弾蟲(ライフル弾そっくりな蟲150匹)。右手に千鞭蟲(十メートルを超えるムカデ)を呼び寄せていた。

 

 先程まで三人で有利に運んでいたところにイビルアイが火力担当で加わったことで悪魔を段々と押し込んでいく。

 

 

 

 

「爆散符!」

 

 すでに何度か見ている悪魔は威力はあれど投げてくる符を見てから避けるのは余裕だった。

 しかし、それは味方側も同じ事が言える。

 爆発の範囲外まで避けたところにティアの放ったクナイが一枚の符ごと悪魔の横腹に刺さる。

 

「ドゴオオーーン!」

「グフゥ」

 爆発をモロに食らい、よろめいた悪魔にガガーランが複数の武技を発動させる。

「喰らいやがれ!超級連続攻撃!」

 一撃一撃が武技『剛撃』の威力を持つ無呼吸15連撃。ガガーランが使える最強の攻撃を叩き込む。

 

 間髪入れずにイビルアイが悪魔の懐に入り。

魔法最強化(マキシマイズマジック)結晶散弾(シャード・バックショット)!」

 近距離で最大威力を発揮する拳より少し小さい無数の鋭利な水晶が散弾のように放たれる。 

 

「グガアアアアア」

 

 まともに喰らった悪魔が断末魔を上げ石畳の上に倒れる。

 

「はあ、はあ、・・・やったか?」

「ガガーラン。それ、ふらぐ」

 時々よく分からんこと言うティアに「なんだそれ?」と返すガガーラン。

 

 二人がやり取りしている内に悪魔の肉体が消滅していく。

 

「ちゃんと倒したみたいぃ」

「・・・ようやく倒せたか。こいつの強さは魔神級だったな。お前が居なければどうなっていたか。王国のアダマンタイト級冒険者として礼を言う」

 

 イビルアイがエントマに向かって礼の言葉を口にする。

 

「気にしなくていいわぁ。主からの命でやってることだしぃ」

「そういや、おめえさんの主って────」

「よくもやってくれたな」

「!!!」

 

 突如聞こえた声に緊張が一気に走る。

 それは空から地上に降り立ち悠々とこちらに歩いてくる。

 頭にくの字の二本の角を生やし黒く長い髪をなびかせ、背中からは蝙蝠の羽、浅黒い肌に戦士のような屈強な肉体を晒し、手甲と肩当ては炎のような赤に金の縁取り。奇妙な仮面をした男性の悪魔。

 

 その姿を見た瞬間、イビルアイは自分が震えているのに気付いた。現れた悪魔が放つ強者の気配はあまりにも強烈。かつて十三英雄と魔神退治の旅をしていた中で戦ってきた魔神を遥かに凌ぐのも理解した。

(ば、馬鹿な。まさか竜王クラスだとでも言うのか)

 今までどんな苦難な時でも軽口を叩くガガーランとティアも相手の異常さが分かったのか滝のような汗を流して佇んでいる。エントマも動揺しているようだ。

  

 

「お、お前ら・・・逃げろ」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 




イビルグリード(強欲の悪魔)は勝手な想像で出来てます。ロードがいるなら下位の悪魔がいても良いでしょ。

強欲の魔将は変装しております。

あとデミウルゴスはラナーと接触してません。セバスからの情報で面白そうとだけ思ってます。






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