台湾「慰安婦像キック問題」の背後に「右派カルト」。大手メディアは沈黙
鈍感な日本のメディア
9月6日、産経新聞(web版)は「台湾・慰安婦像で日本の民間団体が撤去要求」との見出しで、謝市議に像の即時撤去を要求した藤井氏の活動を報じた。同じく産経新聞社の夕刊フジ(zakzak)は9月10日に、その件について藤井氏の寄稿を掲載している。
9月10日には産経新聞が藤井氏に対する台湾での抗議デモについても報じているが、ここでは、抗議の対象となっている人物が藤井氏であることを記載していない。(参照:日台交流協会前で抗議活動 日本団体の「慰安婦像」撤去要請に/産経新聞)
朝日新聞や時事通信は、日本台湾交流協会台北事務所にペンキが撒かれた事件等を報じているが、藤井氏の名も「慰安婦の真実」国民運動の名も伏せている。
そして、藤井氏と幸福の科学の関係を報じたメディアはない。
台湾で騒ぎが起こっていることを伝えるだけで、そこにある問題がどういうものであるのかを読者に伝える役割を日本メディアは全く果たせていない。
騒ぎが続けば、新聞やテレビなど、もっと多くのメディアが報道するだろう。そこでも「幸福の科学」というキーワードが登場しない可能性が高いが、本来はそのキーワードこそ報じなければならないはずだ。藤井氏は単なる野良の一匹狼右翼ではなく、幸福の科学の信者でありフロント活動家なのだから。
幸福の科学への抗議デモ
9月11日、筆者が主宰するやや日刊カルト新聞社と菅野完事務所が共同企画として、東京・五反田の幸福の科学総合本部前で「エル・カンターレ像の前でストレッチをするデモ」を行った。慰安婦像を蹴って「ストレッチ」と主張した藤井氏にならって、15人(主催者発表)の参加者が、幸福の科学教祖・大川隆法総裁をかたどったエル・カンターレ像に対して「ストレッチ」を行った。エル・カンターレ像は、筆者が所有しているもので、もともとは教団が信者に300万円で売ったものだ。
事前にデモの予定を公表していたこともあって、幸福の科学側は10数人の職員が待ち構え、デモが始まるとエル・カンターレ像を取り囲んで「ストレッチ」の妨害を始めた。すぐに制服警官が現れて間に入るなど、騒然となった。
この場で幸福の科学幹部は、「慰安婦の真実」国民運動は幸福の科学と一切無関係だと主張した。一方で藤井氏が信者かどうかについては「答えない」(教団職員)とした。今回のデモは直接には、台湾の人々や元従軍慰安婦たちが味わった屈辱と同じ感覚を藤井氏や幸福の科学に味わってもらい、問題性を認識してもらうことが目的だった。また菅野氏には、前述のような「慰安婦問題」が一握りの宗教団体による歪んだ思想によって煽られていることへの批判表明、筆者には「カルト」への批判表明という、それぞれ違った目的があった。さらに、台湾でのこの一件について日本のメジャー・メディアにしっかり報じさせたいという共通の目的もあった。この最後の一点こそが、共同企画としてデモを行った最大の理由だ。
今回のような問題の根源である宗教団体の存在を軽視したり見て見ぬふりをしたりするなら、それは一握りの宗教団体だけではなく、そういった宗教団体を野放しにする日本社会の問題だろう。
<文/藤倉善郎(やや日刊カルト新聞総裁)・Twitter ID:@daily_cult>
ふじくらよしろう●1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)