GET WIRED Episode 2:いまの経済は独占へと向かうのか?
ヴィデオシリーズ「WIRED VIDEOS」の第1弾「GET WIRED -Future is already here.-」。マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長の伊藤穰一をゲストに迎えた全7回のEpisode 2では、いまの大きな課題であるプラットフォーム企業の寡占問題について、編集長の松島倫明が訊いた。
TEXT BY WIRED STAFF
松島倫明 今年も「THE NEW CONTEXT CONFERENCE」に参加させていただいたのですが、80年代のデリヴァティヴ(金融派生商品)のときのあの熱狂と才能とお金みたいなものが、いま実は仮想通貨にまた入り込んでいるんだというお話がありました。Joiさんも1990年ぐらいに仮想通貨の本を書かれたというお話をされていました。
『WIRED』US版の創刊編集長だったケヴィン・ケリーという人も、99年に『New Rules for the New Economy』(邦題:ニューエコノミー 勝者の条件)というタイトルで本を書いていて、デジタルによって経済というものが大きく変わることを提示しているんですね。けれども、それが2000年にドットコム・バブルが起こって一度ご破算になったので、何となくあれがなかったことというか、「ニューエコノミー」って言ってたよね、という話になったと思うんです。
ケヴィンが最近、「あそこで書いたことは全部いま起こっている」とツイートしていて。そういった意味で浮き沈みはあったと思うんですけれど、90年代、あるいは『WIRED』が創刊した93年からの大きな経済の流れ、ニューエコノミーをどのようにJoiさんは捉えられていますか?
伊藤穣一 必ずトレンドが起きるんですよね。そしてマーケットそのものも、9年単位で見ると、ちょうどそろそろ下がってもおかしくない。マクロで見るとそうなんです。
それが1回なのか2回なのか3回なのか、何回の波が来るのかは分からないんですけれど、いろんな面がある。いまはFacebookも含めたプラットフォームや仮想通貨が、ちょっと過剰に強くなりすぎちゃっているところがあって。
それがリセットしちゃうという落ち方もあるし、いろんなパターンがあると思うんです。でも、やっぱりひたすら楽観的な目で見るのはとても危険な時期だと思います。
松島 ニューエコノミーのなかにも、ひとつのプラットフォーマーみたいなものが生まれるのはいいことだとケヴィンは書いていて。たくさん小さいネットワークがあるよりも、それが集まったほうがネットワークの利益を全員が享受できると言っている。でも、そのぶんのデメリットもあるので、それをみんなで考えなければいけないと。
いま、やはりFacebookなり大きなプラットフォームに対して、ぼくらはどういうふうに対処すればいいのかというのが、すごく議論になっていると思うんです。たとえば、やっぱり公共化すべしという議論もあると思うんですけれども。いま、その巨大テック企業が寡占してしまっている状況というのを乗り越えるパス(道筋)はあるとお考えですか?
伊藤 それがいま、われわれのいちばん大きな課題だと思うんですよね。本人たちは結構、善意でやっていると思うんです。昔の鉄道とか貿易といったアメリカの30年代のモノポリーというのは、本当に社員を鉄棒で殴ったりしている残酷な環境のなかでモノポリーになりました。でもシリコンヴァレーは、あんまり人を苦しませないでモノポリーになっているというのはある。
そういう意味で言うと、遺伝子は違うと思うんです。ただ、イノヴェイションとか環境に対する彼らのコントロールというのもやっぱり強くて。だから、例えば(フェイスブックCEOの)ザッカーバーグも悪意をもってやっているわけではなくて、自分のポリシーのなかでやっているうちにいろんな被害が起きてしまったというのがあると思うんです。
今後、ヨーロッパみたいに規制が入ってくるか、違う競合が出てきて戦うのか。プラットフォームがズレるというのもあって、Facebookはモバイルに切り替えるタイミングがすごく上手だった。普通だったらそこでやられちゃうというのがあると思うんですよね。中国だと「WeChat」というチャットクライアントがあって、それもちゃんと見てFacebookとかも動いているので、器用に動いてはいると思うんですよね。だから、いままでのように自然に消えていくという事例から学びはできている。
松島 逆に言うと、もう消えていかないという可能性があるということですか?
伊藤 そうですね、簡単には。ただ、あくまで年齢なんですよね。会社全体の平均年齢が上がると、だんだん動きが鈍くなってくるんです。やっぱりザッカーバーグ本人をはじめ、平均年齢が低いんですよ。シリコンヴァレーってやっぱり優秀な人材が行っている会社が強かったりするので。アップルは結構、平均年齢が高くなっているのに、あれはあれで強いですけれども。
ただ、プラットフォームというと、プロトコルとかTCP/IPとかHTMLとかっていうプラットフォームの上にエコシステムが生まれるわけで。だから標準化というプラットフォームはすごく健全だと思うんだけれど、独占的なモノポリーは必ずしもいいことではないと思う。
会社がある程度謙虚になって、いまのマイクロソフトみたいになる場合もあって、みんな波があるんだよね。マイクロソフトも嫌な時代があって、いまちょっと謙虚な時代になっていたりするので。ある程度インフラに向かってエコシステムをつくる姿勢をもったプラットフォーム企業というのはそんなに害はないんだけれど、競争力が強いところはエコシステムにとってマイナスになっていると思います。
※次回「レギュテックと国家の役割とは? | REGULATION and NATION」に続く(9月21日公開予定)
Episode 1: 伊藤穰一、ワイアードを語る
Episode 2: 今の経済は独占へと向かうのか?
Episode 3: レギュテックと国家の役割とは?(9月21日公開予定)
Episode 4: ミレニアル世代が起こすムーヴメント(9月28日公開予定)
Episode 5: メディアの信用性はどうなる?(10月5日公開予定)
Episode 6: 民主主義に代わる“本物さ”とは?(10月12日公開予定)
Episode 7: 次の注目の技術は人間の拡張(10月19日公開予定)
SHARE