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法華狼の日記

2018-09-08

[]村山富市氏に対する木村幹氏の魔女狩り論理Add StarBUNTENmorimori_68seven_cz

発端は、村山政権時よりも派遣体制が整備されながら安倍政権は対応が悪化しているというbooskanoriri氏のツイートだった。

おそらく「自衛隊の初動が遅かったのは村山首相のせいだとかいうデマ」という部分に対して、木村氏が異議をとなえた。

booskanoriri氏は「連絡網や法制度などが不十分だった」ことが原因だと応じた。

ずっと後に木村氏は政治家と制度の問題を混同したツイートをしているが、そもそも最初のツイートでbooskanoriri氏が村山「首相」と安倍「政権」を対置していることに、注意をはらうべきだったのではなかろうか。

もちろん、当時に首相だった村山氏は個人としても負うべき責任があったことは事実だ。同時に、だから直接の原因と考えるべきかは、また違う議論になる。


そこで第三者による「都道県知事しか災害派遣を要請できなかったから」という指摘に対して、木村氏は「それは基礎の基礎」と評しつつ、連続ツイートで応じている。

ここで木村氏は、緊急時に自衛隊をしばるべきでないことと、緊急時でも自衛隊はしばらなければならないことを*1、そのまま村山氏を批判できる根拠として同時にもちだしている。

もちろん文民統制緊急避難もそれぞれ重要ではある。しかし同時に要求しては、魔女裁判の「拷問が用いられ、自白が強要された。拷問によっても自白しないときには、自白しないという事実が悪魔の保護下にある証拠だとして断罪された」*2論法におちいってしまう。

もっとも、一個人でない権力者は矛盾する要求に応えるべき局面もあるだろう。そこで村山氏は、全体を動かすにあたっては慎重で、口実をもって動いた部隊は自身が責任を負って処分しないという妥協をとったが、それは木村氏にとって「ずるい」らしい。


また、現地からまったく情報があがってきていない状態で自衛隊を派遣して想定したように機能するかも、別個に議論されるべきだろう。

木村氏はツイートで「人が死にかけているのに、赤信号だったので渡りません」を「見殺し」と比喩しているが、無理に渡って二次災害を起こす危険性もあるだろう。

たとえば木村氏はプレジデント記事の紹介に対して「よく知ってます」と答えて、現地の要請が不要とだけツイートしているが*3、それ以上の情報量が元記事にはある。

阪神大震災。なぜ自衛隊出動が遅れたか (塩田 潮) | プレジデントオンライン

たとえば自衛隊が派遣されたのは午前10時だが、渋滞により到着が遅れて、午後1時からようやく救助活動をおこなえたという逸話がある。

私も気になって防衛庁の村田直昭防衛局長に電話で言ったら、『やっています。道路が大渋滞で、主力部隊が入っていないだけで』と言っていた。それが実態です

記事には他に、午後8時の段階で電話が自衛隊に一瞬だけ通じて、そこで準備を求めていたという貝原元知事の逸話もある。

姫路の連隊からこちらの係員にやっと通じた。『大災害だから、準備を。すぐ要請するから』と言ったところで切れて、それ以降、連絡が取れなかった。いまだから言ってもいいと思うけど、出動要請が遅かったというのは、自衛隊の責任逃れですよ

つまり「要請を待つ必要はなかった」どころか、事実上の要請を自衛隊が無視し、その責任が村山氏に転嫁された疑いがあるわけだ。

もちろん、それぞれの逸話は当時にそれなりの権限と責任をもつ立場からの釈明もこめられた証言であり、その背景は読者がくみとって読むべきだろう*4


また、木村氏は下記の意見をリツイートしているが、内閣府によると震災死の9割以上は即死であり、死亡原因の大半は圧迫死とされている*5

念のため、死者が2人以上いれば「少なからず」と表現する考えはあっていい。ただ同時に、その表現は他の大きな問題から目をそらすためであってはなるまい。

死者を出した原因を国家や社会に求めるならば、耐震の不備などがより大きいと考えられる。自衛隊派遣の数時間遅延を問題視したいならば、むしろ死者以外の論点で責めるべきだろう。


発端にもどるが、過去と現在を比較したbooskanoriri氏のツイートから木村氏は「左右対立」を見いだし、被災地の救援よりも政権批判を重視しているかのように位置づけた。

そんな木村氏自身は村山氏に対して、政権としても指導者としても批判するツイートをつづけている。現場へ権限を与えつつ自身が責任を負った村山氏はリーダーシップがなかったという評価のようだ。

現場から権限を奪いつつ生じた問題の責任をとらないことをリーダーシップと定義するならば、たしかに村山氏にリーダーシップはなかったのかもしれない。そういう首相だった記憶は私にもある。

*1:そもそも、統制下で慎重に動かすべき組織であるため災害派遣で動かしにくいという問題は、災害における自衛隊の存在意義を懐疑させる。

*2魔女狩り(まじょがり)とは - コトバンク

*3

*4:プレジデント記事自体が、自社さ連立政権と比較して東日本大震災の民主党政権を批判する構成になっており、書かれた当時よりも味わいを増している。

*5阪神・淡路大震災教訓情報資料集【02】人的被害 : 防災情報のページ - 内閣府

hokke-ookamihokke-ookami 2018/09/08 21:03 念のため、村山氏の妥協点を批判してはいけないという話ではありません。どちらかといえば問題の要点は法制度と運用にあり、それは災害以前にとりくむべき問題だったという話です。
そしてそれは緊急事態に見える報道がおこなわれた時に原則をかなぐり捨て去るのではなく、シビリアンコントロールという原則の必要のない組織にするべきではないか、というのが私個人の本題ですね。

Ⅼ 2018/09/09 10:41  村山は、おたついた高級官僚の影響も受けたし、対応が遅れて自民系大臣にせっつかれたということもなかったと思う(部下に権限を降ろしたのだから当然)。むしろ、上手く対応できなかった自民系の大臣を更迭し、自民系の能力のある人間に全権を与え、全ての責任は俺が被るからと宣言した上で交替させた。自分が仕切っているわけではない関空の再開や北電の給電再開やら死者他の発表やらローソンの物流にまで勝手に我がこととして語り「やってる感」を出せばよいという「現代の”リーダーシップ”」からは別次元の対応である。
 結果、東日本以降の大災害と違って随分と短期に仮設建設→復興住宅を完了させたわけで、当時は「反社」にグチャグチャ虐められ続けたけど、この件に関しては、民主政権以降、就中、安倍政権の災害対応に比してトータルで優れた見識とリーダーシップを発揮したと言える。

hokke-ookamihokke-ookami 2018/09/09 15:39 「左右対立」のツイートをリンクミスしていたので修正しました。

Ⅼさんへ
>対応が遅れて自民系大臣にせっつかれたということもなかった

そうですね。もちろん当時の野党や市民からの批判はありましたが、自民党内からの批判は強くなかった(少なくとも一般市民の印象に残るようなかたちでは表出していなかった)。

>自分が仕切っているわけではない関空の再開や北電の給電再開やら死者他の発表やらローソンの物流にまで勝手に我がこととして語り「やってる感」を出せばよいという「現代の”リーダーシップ”」からは別次元の対応である。

当時はインターネットは普及していませんでしたが、現在のNHK記事のように新聞などの見出しに一々「村山首相」と表記していれば、村山氏や社会党の印象も変わっていたでしょうね。良し悪しはさておき。

サトぽんサトぽん 2018/09/12 11:18 木村さん、ちょっと前にテレビに出てましたが、ロードバイクに凝っているせいか、面影ないくらい顔マックロでしたね。

私は村山さんは個人的に好きなのですが、「慰安婦」問題について、微妙に変なことを木村さんに書かれて、憶説が広まるよりはいいかなと思ってます。もう少し考えて書いた方がいいとは思いますが、人様のことですしね。

と思ってたら、また木村さん、微妙な論文書いてました。

慰安婦言説の転換点:千田夏光『従軍慰安婦』を中心に/木村幹
http://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-publication/jics/25-2/kimura_25-2.pdf

まあ、面白くないことはないのですが、木村さんにとって、「慰安婦」問題ってのは、そもそもなんなのかと思います。研究者としての立ち位置と言う問題でもないような感じですね。

っと、そういえば、千田夏光原作の映画、「従軍慰安婦」が東京で昨年、公開されたそうで、ネット研作すれば、見た人のブログが多数引っかかります。法華狼さんはご存知でしたでしょうか。

多分、私が知らなかっただけなのかとも思うのですが、予想よりもずっとマジメな仕上がりだったようです。

隼カトー隼カトー 2018/09/13 10:42 法華狼さま、ご無沙汰しております。

阪神淡路大震災の際の村山総理の判断の件についてですが、2014年に神戸新聞のインタビューに村山総理が応じた記事がありましたのでここに紹介しておきます。
https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/sinsai/20/rensai/201412/sp/0007601174.shtml

村山本人も「当時は官邸も国土庁も危機管理体制が十分でなく、初動が遅れた。どれほど責められても弁明の余地はない」とコメントしつつ、兵庫県の自衛隊派遣要請の前から自衛隊がヘリコプターで被災状況を確認していたという話をしていたりと興味深い内容でした。

そういえば2007年に石原慎太郎都知事が「阪神大震災では当時の首長の判断が遅れたため、2000人が余計に死んだ」と発言し、これに対して井戸敏三兵庫県知事が犠牲者の多くが圧死だった事実などに触れて反論した経緯もありましたね。
井戸敏三知事はハッキリ言って失言の多い方なのですが、この件に関しては井戸知事の方が正しいだろうと個人的には思います。(その一年後に「関東で震災が起きれば東京は相当なダメージを受ける。これはチャンスですね」との失言をやらかしてしまいましたが...)

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