ポケットの中のエキサイティングなAI――林信行の新型「iPhone」発表イベント現地レポート (1/3)

» 2018年09月14日 16時19分 公開
[林信行ITmedia]

 Apple本社にてiPhoneとApple Watchの新製品を披露するイベントが開かれ、最新機種の「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」そして「Apple Watch series 4」が発表された。

 iPhoneの国内発売から10周年を迎えた2018年、iPhoneとApple Watchは大きな変化を遂げている。2017年に登場した「iPhone X」で予告されていた変化の方向性ではあるが、ここからまた新しいエキサイティングな未来の幕が開けそうな期待が持てた。

スティーブ・ジョブズ・シアターで新製品を発表するティム・クックCEO

AI活用が一気に進化する"X時代”が到来

 期待の1つ目は、iPhoneが高性能なAIデバイスに進化したことだ(ここでのAIは、主に機械学習のこと)。

 一時は毎日のように「AI」や「機械学習」という言葉がネットの記事を飾っていたけれど、最近は落ち着いたし、もう流行は終わったのでは? と思っている人もいるかもしれない。だが、新しい技術はインターネットニュースの見出しへの露出が落ち着いたころから本格的な普及期に入る。iPhone XSシリーズ、そしてiPhone XRによって数千万人の人のポケットの中に高度なAIデバイスが収まること、そしてそれによる私たちの暮らしぶりや仕事の変化を想像すると、ワクワクしてくる。

「A12 Bionic」を搭載する「iPhone XS」と「iPhone XS Max」

 今回の発表会ではアメリカ・プロバスケットボールリーグで殿堂入りを果たしたスティーブ・ナッシュ選手が登壇し、NEX Teamの「Home Court」というアプリの次期バージョンを紹介した。

 このアプリを起動するとカメラ画面が現れ、ナッシュ選手がバスケットボールのシュート練習をしている様子が映し出された。映像の上には文字が表示されており、シュートをすると、カウンターの数字が1つ上がる。シュートが決まると、シュート成功カウンターのカウントも1つ増える。実はこれ、全てこのアプリの映像認識によって行っている。アプリが、カメラで写した選手、ゴール、ボールなどを認識し、ボールを投げた速度から、飛んでいく角度といったデータまで自動的に取得、計算した上で表示してくれる。

ARアプリ「Home Court」のデモ。撮影中の映像をリアルタイムに分析し、シュートの成功率などを表示する

 今後はこうした"AI世代のアプリ”が次々と登場してスポーツの練習の仕方も変わるだろうし、業務の安全性も変わっていくかもしれない。

 こうしたAI世代のアプリの登場をこれから加速するのが、今回発表された全てのiPhoneに搭載される頭脳(CPU)「A12 Bionic」だ。映像認識などに用いられるCoreMLという機械学習用技術で効果を発揮する「Bionic」を冠したCPUは、2017年のiPhone Xから実は搭載されているが、iPhone XSシリーズで搭載されたものは、その処理能力が最大で9倍も高速になった(1秒当たり6000億回計算していた処理性能が、5兆回に増えた)。

 他社製アプリでなく、本体の標準機能でもA12 Bionicの恩恵を受けている部分がある。iPhoneが他のスマートフォンと大きく違うのは、OS(ソフトウェア)を作っているのも、本体(ハードウェア)を作っているのも、本体の中にある「A12 bionic」を含む部品(プロセッサ)も、全てAppleが自社で生産しているところだ。

 ものづくりの経験がある人なら、品質を左右するのは部品を寄せ集めて組み立てることではなく、組み立てた後の調整であることは痛いほどよく分かるだろう。

 Appleは、既製品の部材を寄せ集めて仕様書通りに組み立てるのではなく、部材の準備の段階から、この相互調整を重ねている。タッチ操作への滑らかで自然な反応を始め、iPhoneを使っているときに感じる心地よさのほとんどは、このハードとソフト両側からの「高度な調整」のたまものだが、いよいよその「高度な調整」がAI・機械学習にも役立てられる日が来た。

 これにより、今後はまるで魔法のように感じる新世代のアプリが増える準備が整ったわけで、この部分は本当に期待が大きい。

写真の撮り方を変えるカメラ機能

 A12 bionicのAI処理性能は他社製アプリだけでなく、本体の標準の機能にも生かされている。

 その恩恵を一番感じられるのがカメラ性能だ。詳しい説明は公式サイトに譲るが、これまでのようにレンズなどの光学部品の質向上やイメージセンサーの質向上、そして画像処理プロセッサの質向上も果たしていて、それだけでも十分に美しい写真が撮れるが、iPhone XSシリーズでは、それに加えて前述のA12 bionicの画像認識力を生かした補正が信じられない品質の写真を撮ることを可能にしている。

iPhone XSで撮影した写真作例。高性能なハードウェア(レンズやイメージセンサー)と、A12 bionicの補正によって、肌の質感や髪の毛の描写、背景のボケ感など、スマートフォンとは思えないクオリティーの写真を撮影できる

 Appleでは、この質を実現するためにマイクロプロセッサチームとCoreMLのチームが、カメラ機能を開発するチームと密接に連携して「高度な調整」を行ったという。他のデジタルカメラメーカーやスマートフォンメーカーでは見かけない開発姿勢ではないだろうか。

 どんなレベルの写真が撮れるかはApple公式サイトを見れば分かるが、できれば販売店の店頭で、さらに表示が美しくなったiPhone XSシリーズのSuper Retinaディスプレイを通して見てほしいし、試し撮りをしてみてほしい。

 ちなみにAppleは、機械学習の後処理でもともと美しい写真にさらに磨きをかけるこの技術を「Super HDR」と呼んでいるが、実はiPhone XSのカメラにはもう1つ魅力的な機能がある。それは背景のボケ感を後から調整できる機能だ。

 写真に写っている被写体と背景を区別して、背景部分だけをボカすことにより、まるで高級な一眼レフカメラで撮ったようなメリハリのある写真を撮影する――こうした機能は最近のスマートフォンには搭載されているし、iPhoneでも2年前のiPhone 7 Plusから実現していた。また、撮影した後に計算に基づいて照明効果を変え、例えば、背景を暗くする効果を加える機能、これはiPhone 8 PlusやiPhone Xから実現している。

 そして、iPhone XSでは、こうしたボカし効果がさらに進化する。本格的なカメラにあるF値による絞り設定、これをAI(機械学習)を使って緻密に再現しているのだ(ここも、やはり品質こそが肝なので、実際に試し撮りして実感してみて欲しい)。

 ポートレートモードで撮影した写真を表示した後、スライダーを左右に動かすとなんと撮影した後から絞りのF値を変えることができる。まさに日常での写真の撮り方や残し方、共有の仕方を変えてしまいそうなAI時代の新しいデジタル写真、これもiPhone XS世代が切り開く新しい時代を象徴しているような特徴ではないだろうか。

iPhone XSのデモ。撮影した写真の被写界深度を後から変更できる

 ちなみにこの技術、デュアルレンズ仕様のiPhone XSとXS Maxでは2つのレンズで遠近感を認識して被写体と背景を区別している(フロントカメラのFacetimeカメラでは距離センサーを活用する)。

 今回、驚いたのはレンズが1つしかないiPhone XRでも、同じ機能が使えると発表されたことだ。詳細が分かるのは実機が手に入ってからになりそうだが、こちらは純粋にAI・機械学習の力だけで被写体と背景を認識して効果をかけているようだ。デュアルレンズとAI・機械学習を組み合わせたXSシリーズと、AI・機械学習だけのXRシリーズで写真の品質にどの程度の差が生まれるのかは大いに気になるところだ。

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