第四話:大魔王様の魔物たち
眼の前でスライムがぐったりとしている。
【
これがなければ、シエルは問答無用に最強なのにもったいない。
だが、現状でも十分反則級の力と言える。
シエルがこの状態ということもあるし、別の魔物も【収納】から出しておくべきか……。
いや、やめておこう。
変に今の家主を怯えさせることもあるまい。
「デュークたちも、俺を探しているだろうな」
俺が作りあげた街を思い出す。
人間と魔物が共存する街、アヴァロン。
世界でもっとも栄えている街の一つ。魔物の力を使った空輸網によって、世界中から素晴らしいものを仕入れて魅力的な市場を作り出している。
素晴らしい市場は、優秀な人材を引き寄せ、さらなる発展につながり、発展すれば物と人がより集まると好循環が続いている。
……そして、地下では魔王のコアたる水晶を守るためにどんどん軍備が増強されていた。街に住む、数万人もの人間たちの感情を恒常的に喰らうことで得た力で。
それゆえに、アヴァロンの戦力は規格外だった。
「だからこそ、魔王たちは考える。アヴァロンを落とすなら俺が不在である今だと」
俺が不在時にはダンジョンの機能がかなり制限される。
こんなチャンスはそうそうないのだ。
それでも、半年は持つと考えている。
あそこには、俺の参謀たるデュークが残っている。
デュークであれば、残された魔物たちに適切な指示を出してアヴァロンを守ってくれるだろう。
おそらくだが、デュークであれば俺の偽物を作り、プロケル健在をアピールして他の魔王を牽制する。
二、三か月ぐらいは見破られることがない。
逆に言えば、三か月もすれば気付かれる。
そして、不利な状況であろうと俺の魔物たちなら三か月は持たせることができるだろう。
だからこその半年。
半年以内に帰還せねばならない。
「……チャンスは実質、二回ってところか」
現状、エヴォル・スライムのシエル以外に、【収納】の中に旧体の魔物がいるが、それらは帰還には役立たない。
であるなら、そういうことができる魔物を生み出す必要がある。
星か世界が違うのであれば、Sランクの力がなければ渡ることなどできない。
そう考えると、【創造】のメダルを使わなければならない。
「何と組み合わせるか」
通常、魔物を生み出すには二枚のメダルを使用する。
しかし、俺の固有メダルの【創造】は三枚のメダルで魔物が作れる。
一枚、メダルを多く消費する分、強力な魔物が生まれるのだ。
加えて、生まれてくる魔物はランダムだが、【創造】は使用したメダルによって生み出されうるすべての魔物から、望んだ可能性を引き寄せられる。
その力があれば、転移に特化した魔物を作れるだろう。
ただし、あくまで【創造】は可能性を選べるだけだ。そもそも、そういう魔物が生まれてくる可能性があるメダルを組み合わせなければ意味がない。
……組み合わせを間違えるわけにはいかない。
なにせ、オリジナルメダルは一月に一枚しか作れないのだから。
「ぴゅふぅぅぅー、回復なのです! ぴゅいっと復活」
力を使い果たして液状になっていたシエルが青髪の少女形態になる。
「シエル、一度、部屋に戻ろう。そっちのほうが考えがまとまりそうだ」
「了解です! 再変身が可能になる二週間後にはぴゅいっと決めて、帰還しますよ」
……まあ、無理だろうな。
それほどまでに今の状況はまずい。
◇
キツネ姉妹の家に戻る。
すると、姉のほうがお辞儀し、さきほどまでいなかった妹のほうがいた。
妹が姉に隠れながら、服をくいくいと引っ張る。
さきほどは気付かなかったが、人見知りらしく警戒心が強い子だ。どこか、ロロノに似ている。
「あの人は恩人、でも、なんかもう一人増えてる。うち、もう食べもの少ない……断ろ」
俺たちに聞けお内容に小声だが、残念ながら俺たちは耳がよくばっちり聞こえている。
シエルにこちらの言葉について情報転送してもらったおかげで、内容も理解できていた。
シエルが念話を送ってくる。
『この村だと、一度収穫物は全部村長が預かって、働きに応じて分配するです。この姉妹の場合、両親が死んじまってるのと、姉のほうが村長の息子を振ったことで嫌がらせみたいに食べ物減らされているです。しかも今年は不作で、さっき、尻尾の毛を摂取した感じ、栄養失調一歩手前。妹のために自分の分を減らしている感じです』
『そういうことは先に言え。なら、さっきもらった粥は食べなかった』
いったい、どんな気持ちで俺に粥を振舞ったのだろう。
自分たちが食べるぶんすらろくにないというのに。
一応、俺は妹の命を救った恩人だ。だけど、そういう状況なら、大半の物は見捨てるだろう。あの森で放っておかえば、面倒を見る必要はなかった。
……まったく、お人よしすぎる。だが、こういう奴は嫌いじゃない。
「安心してくれ。俺は君たちのご飯をとらない」
「すみません。妹が失礼なことを言って。気になさらないでください。あのとき私は、誰でもいいから、私のすべてをあげるし、なんでもするから助けてって叫びました。それは本気です。だから、全身全霊で尽くします」
ますますお人よしだ。
黙っていればいいのに。
言葉が通じてなかったことぐらいわかっているだろうに。
「いや、さすがに君の後ろで睨んでいるその子の前で、君が食べるはずのご飯をもらうのは気が引ける。それに、わけてもらう必要もない」
【収納】から魔物を取り出す。
金髪のエルフ。
エルフらしく、スラっとしており胸はないが美人で、肩には自らの身長ほどもある対戦車ライフルなんて物騒なものを担いでいる。
それもただの対戦車ライフルじゃない、世界最高の鍛冶師たるSランクの魔物、エルダー・ドワーフのロロノが作り上げた逸品であり、冷たい殺意が見るものを凍り付かせる。
いざというときのために、【収納】していた十体のうち一体、Bランクの魔物、ハイ・エルフ。
Sランクのエンシェント・エルフであるアウラには数段劣るとはいえ、天性のスナイパーであり、魔改造された対戦車ライフルを装備した状態であればAランクの魔物すら葬ることができる。
偵察も得意であり、なにかと便利なので連れて来ていた。
「プロケル様、指示を」
うやうやしく例をする。
Sランクの魔物連中は、わりと自由で、個性的なふるまいをするがBランク以下の魔物はだいたいこんな感じで従順な下僕として振舞うことが多い。
「そこの空き地を畑にして、適当に食べられそうなものを育ててやれ」
「はい、食料の確保ですね。今すぐに」
風が吹く。
地面が掘り起こされ、巻き上げられる。
そして、土だけが元あった位置に降り積もり、石がどけられる。一瞬にして土地を耕すことができた。
さらに風が吹いた。
家のほうから、風にのって数十粒の大麦が運ばれてきて、柔らかくになった地面に撒かれる。
歌うようにハイ・エルフが詠唱すると局地的な雨が降る。
ただの雨じゃない。高位エルフによる恵みの雨。
さらに、手を合わせて、ハイ・エルフが祈る。
すると、みるみる大麦が成長し、数分で収穫できるようになった。
「というわけだ。しばらく、住ませてもらう礼だ。この畑は作物ごとプレゼントしよう。エルフの祝福を受けた土地で作物を育てれば良く育つ」
きっと、この畑は来年以降も姉妹を助けるだろう。
現金なもので、妹のほうが目を輝かせて、大麦畑に見入っていた。
「お姉ちゃん、ごはんがたくさん! お腹いっぱい食べられる。それに、とっても粒が大きい、いろんなものと交換できる!」
キツネ尻尾を揺らしながら大麦畑に飛び込んで、穂先を摘み始める。
「信じられないです。一瞬で作物が実るなんて。まるで神様みたい」
「神様じゃないのです。魔王様なのです」
シエルが、自分のことのようにどや顔をしている。
「魔王、魔王って、あの魔王ですか!?」
「どの魔王かは知らないが俺は魔王だ」
「……私は、私には何をしてもいいです。ですから、妹だけは、アンリだけは見逃してください!」
まさかの土下座だ。キツネ耳が恐怖で震えている。
ふむ、こっちにも魔王がいるのか。
一体、どういう魔王だろう?
会ってみるのもいいかもしれない。
……いや、絶対に会うべきだ。会うことで帰還するヒントになるかもしれない。
「魔王にもいろいろいる。わけあって、あの森に飛ばされたが、もともと遠い場所で人間と魔物が共存する街を作っていたんだ。何万人もの人間が、どんな街よりも幸せそうに暮らす。そんな街だ」
そう言いつつ苦笑する。
魔王というものが、恐怖の代名詞だと思っている相手だ。荒唐無稽と思うか、あるいは騙そうとしていると疑うだろう。
「信じます」
しかし、意外にも帰ってきた答えは予想と正反対だった。
「だって、妹を救ってくれた人ですから。……それに、悪い魔王様だったら、どっちみち、終わりですし。なら、信じたほうがお得です」
それにしっかりもの。
そうでなければ、両親を失ってから妹を守り生きていくなんてできなかっただろう。
「俺は、君の妹を助けた。その代価を要求する。そうだな……長ければ半年間ほど、住ませてもらうこと。そして、情報の提供だ」
少なくとも、この少女は魔王を知っている。
まずは橋渡しをしてもらおう。会うにしても、可能な限り相手の情報を仕入れたい。怯えたということはある程度情報を知っているだろう。
シエルなら、彼女の知識を手に入れているだろうが、本人から直接話してもらったほうがいい。
それに、人間の感情を餌とする魔王にとって、彼女は貴重な食料だ。
さきほどから、この少女は俺にさまざまな感情を向けてくれている。
なかなかの味で、好みでもある。
……アヴァロン、俺のダンジョンであれば、その土地で生まれた感情をすべてを喰らえるが、ダンジョン外だと、自分に向けられた感情しか食べられない。こういう存在はありがたい。
「はい、その契約を結びます。もともと、私にできることは全部するつもりでしたから」
「いい子だ」
案外、すんなりと話しがまとまった。
さて、こちらと魔王と会う準備をしよう。
敵対しないように注意しなければ、【収納】には十体。しかも、シエルは電池切れ状態。
戦いになればどうにもならない。
「ごはん、ごはん、ごはんがたくさん♪」
ちょうしっぱずれな歌が聞こえる……妹キツネががいつの間にかもってきた背負い籠に麦をいっぱいにしていた。
「人間、調子に乗るなです。今回は魔王様の慈悲です。次もあると思うなです。自分で食べ物をとれるようにならないと、また飢えることになるです。とりあえず、シエルについてこいです。食べられるものは森にいくらでもあるから、教えてやるです」
「……ない、今年はすごい不作、村のみんな食べられるものは取りつくした」
「人間の眼は節穴ですか? それとも馬鹿で食べられるものもわからねーですか? しゃーないです。シエルにぴゅいっとお任せです。魔王様、行ってきていいですか? 食べられるものを教えてやってくるです」
「ああ、頼む」
苦笑する。
シエルは意外と面倒見がいいようだ。
そんなことをしている場合と怒るべきかもしれないが、根を詰めてもいいアイディアなんてでない。
さて、今日の夕食は変わったものが食べられそうだ。
夕食の準備をしながら、こちらの魔王のことを聞いて、情報を集めつつ、どうやって会うか考えよう。
こちらの魔王と話をするときには注意が必要だ。
俺の戦力は【収納】の十体だけ。
全面戦争になれば、ほぼほぼ潰される。……いや、あいつを連れて来ていたか、あの能力なら十体でも勝てるかもしれない。
「……何を考えている。俺がこっちの魔王と戦う理由なんてないじゃないか」
無駄な戦いは避けるべきだ。
平和的な手段を模索してみよう。
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