真夏から夏の終わりにかけ、薬局では「貧血」の相談が多くなります。
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貧血を訴える若い女性は多い
貧血には様々な分類がありますが、多くを占めるのは、鉄分が不足することで発症する「鉄欠乏性貧血」です。
鉄は赤血球の中のヘモグロビン(血色素)を構成し、酸素の運搬を担っていますので、鉄欠乏性貧血になると酸素を体に取り入れる効率が悪くなり、下記のような症状を引き起こします。
疲れやすさ、めまい、息切れ、動悸、立ちくらみ…...。
これらは酸素不足によって引き起こされる症状であり、体を動かす(労作)ことで自覚しやすいのが特徴です。
運動選手などが行う、高地トレーニングをイメージすると分かりやすいかもしれません。ちょっと動いただけで息切れする、動悸がする。現地の人は平気な顔をしているのに、自分としては何をするにもオーバーワーク気味に感じ、疲れてしまうといった様子です。
では、薬局で訴えられる症状は本当に貧血なのでしょうか?
立ちくらみに鉄剤は効果的?
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貧血と「立ちくらみ」は同じではない
薬局で患者さんの話を伺っていると、「貧血」として訴えられる症状が、典型的な「鉄欠乏性貧血」とは少し違うことに気付きます。
立ち上がる際の「めまい感」(立ちくらみ)のことを、「貧血」と言っている方が少なくないようです。
確かに、立ちくらみや、朝礼などで立っていられなくなり失神してしまうことを「脳貧血」あるいは「貧血」と言ったりしますものね。
薬剤師など医療者が「立ちくらみ」で最初にイメージするのは、「鉄欠乏性貧血」ではなく、一過性の「脳の血流低下」です。
患者さんへの質問を重ね、市販薬で対応できる症状か、生活面に関する助言が必要か、あるいは病院受診を勧めるべきかを考えます。
漫画で紹介した「起立性低血圧」とは
漫画で紹介した「起立性低血圧」は、立ちくらみを引き起こす要因の一つです。
気温が低い季節に「立ちくらみ」をあまり経験しておらず、元々痩せ型で最近は食欲がない(水分、塩分摂取にも問題がある)、年齢が若く持病がない、便の性状にも変化がない、薬も服用していない、といった方であれば、私の場合は薬局で対応できる症状と判断し、食事など生活上の助言を優先しています。
体重減少・カロリー不足の際には、肉や魚、卵、乳製品など効率よくカロリーを摂取できるメニューが勧められます。栄養バランスは大切ですが、あまり量が食べられない状況で(葉物)野菜を優先するのでは、ダイエットになってしまいます。
元気を出そうと、栄養ドリンクやエナジードリンク(カフェインや覚醒作用を期待する成分が含まれるもの)を希望される方も少なくありませんが、糖分で食欲が満たされてしまうこともあり、注意が必要です。
タンパク質・脂質・ビタミン類が配合され、効率よくカロリーを補給できるドリンクタイプの栄養補給剤が市販されていますので、ご相談ください。
ただ、立ちくらみの要因は多様であり懸念は残ります。その後の状況(どの程度症状が改善したか、あるいは改善しないのか)が気になるところです。
症状のベースに貧血があることも
女性の場合、こうした症状のベースに貧血(鉄欠乏性貧血)があることも少なくはありません。
貧血において、過去に血液検査を実施しているかどうか、婦人科での相談ができているかは重要なポイントです。鉄剤による吐き気・食欲不振の可能性もあり、この時期の立ちくらみに鉄剤を推奨するかどうかは、薬剤師・登録販売者によって意見が分かれるだろうと思います。
私は、鉄剤を服用するのであれば、貧血以外の健康上のトラブルがなく、体調や生活が安定している時期を勧めます。
こうした薬局での対応は、海外では「ファースト・ジャッジメント」と呼ばれ、「医療の入り口」と考えられています。一方、日本ではこうした文化はあまり重視されないようです。
「医療の入り口」としての薬局を知ってください
日本は諸外国とは異なり、予約を必要とせずに病院・医院を受診できる「医療へのフリーアクセス」を実現しています(年間の医療機関受診回数は諸外国平均の約2倍)。
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薬剤師さんを積極的に活用しよう
それゆえ薬剤師の「医療へのファーストアクセス」としての機能も、必要ではないと考えられてきました。
このため、日本の薬局・ドラッグストア業界では、購入者(消費者)による自由な選択、そして消費者の購買欲を刺激するような自由な商品づくりが重視される傾向にあります。
ドラッグストアなどでの「売れ筋商品」と、医療でスタンダードとされる治療内容には大きな乖離が見られます。
ただ実際のところ、仕事などで忙しい、あるいは医師にかかるほどの症状ではないと自己判断するなど、病院をほとんど利用しない人たちは少なくありません。そのような方にとって、日本の医療・薬局制度はあまり機能していないのだろうと感じます。
もし生活圏で信頼に足る薬剤師を見つけたら、親しくお付き合い頂ければと願っています。
「〇〇の症状があるのだが、どうすればよいか?」と質問して頂いても、「○○の症状があり、◇◇を服用しようと思う。それで大丈夫だろうか?」でも構いません。
医薬品に関する専門家として、皆さんの健康管理や治療を行ううえで、きっと力になってくれるはずです。
【高橋 秀和(たかはし ひでかず)】薬剤師
1997年、神戸学院大学卒。病院、薬局、厚生労働省勤務を経て2006年より現職。医療・薬事・医薬品利用についてメディア等で記事の監修や執筆をしている。ツイッターはこちら(@chihayaflu)