面接時の雑談力は意外に大切なポイント。写真はイメージ=PIXTA 採用面接に臨む際、「自分のキャリアをどうアピールするか」や「何を質問するか」の準備はしていても、面接前後の「雑談」まで想定している人はあまりいないのではないでしょうか。しかし、雑談の話題の選び方、話の持っていき方などによっては、評価にプラスに働くことも十分にあり得ます。私がこれまで見てきた成功例から、面接での「雑談術」について5つのポイントをお伝えします。
1.アイスブレークの雑談はアピールのチャンス
面接の際、初めて顔を合わせたときには、応募者も面接官もそれなりに緊張感を持っています。そこで、緊張をほぐし、場を和ませるような「アイスブレーク」の会話を心がけたいものです。
慣れている面接官であれば、向こうから軽い話題を振ってくれたりもしますが、そうではない場合にもこちらから上手に会話を振れれば、「この人は気が利くな」「コミュニケーションがうまいな」と、好印象につながります。
では、最初はどんな話題を振ればいいのでしょう。まだお互いをよく知らない段階では、うっかり地雷を踏んでしまうことのないよう、万人に共通する話題を選ぶのが得策です。「お天気」は鉄板ですが、お勧めはその会社がある「エリア」の話題。
例えば、「学生時代、この近くでアルバイトしていました」「友人が住んでいて、よく遊びにきました」といったように、自分との「接点」を伝えると親近感を与えられます。「あのお店がおいしい」などの話も、盛り上がりやすいと思います。
2.相手企業の最近の重要トピックをスルーしない
相手企業の事業内容や求人内容は事前に調べていても、直近のニュースリリースに目を通していないことは意外とありがちです。
例えばオフィスの移転や新規上場、大型の提携など。その会社にとって大きなターニングポイントとなる出来事が直近にあった場合、それにまったく触れないのはかえって不自然です。相手は多くの方からお祝いの言葉をかけられていることでしょう。「この人は言わないんだな」と、違和感を抱かれてしまうかもしれません。「おめでとうございます」など一言でも触れるようにしてください。
3.雑談を通じて価値観を伝え、共感を生む
ちょっとした雑談で場が和んだら本題に入っていくわけですが、そこからも職歴やスキルの確認、仕事内容の質疑応答にとどまらず、「雑談」に近いやりとりが発生することがあります。企業側も、応募者の本質を見たいがゆえに、経歴や仕事からは少し脱線した会話をはさんでくるものです。そんなときはただあいづちを打つだけでなく、相手と自分の「共通点」を見つけて話題に上げましょう。
例えば、その会社がJリーグ(特に地域性が強いJ2やJ3)のクラブのスポンサーをしているとすれば、「僕も学生時代、サッカーをやっていまして……」「Jリーガーでは〇〇選手を応援していて……」といったようにです。
そのほかにも、ホームページやフェイスブックのプロフィルで、社長あるいは面接官のバックグラウンドやプライベートの活動が紹介されていて、自分と何らかの共通点が見つかれば、積極的に話題にしてください。出身地や出身校、スポーツ、学生時代のサークル活動など、何でも構いません。
そこで、ただ「私もやっていました」だけでなく、特にどんな取り組みに力を入れたのか、どんな思いでやっていたのか、仲間たちとどのような関係を築いていたのかなどまで言及することをお勧めします。
ほかにも、「映画・ドラマ好き」という共通点があれば、自分が好きな作品と「なぜ好きか」を話す。「歴史好き」が共通していれば、自分が好きな歴史上の人物と「どこに魅力を感じるか」を話す。それによって、あなたの価値観やキャラクターを伝えることができます。そこで共感が生まれれば、「この人と一緒に働きたい」「うちの社風に合いそうだ」と思ってもらえる可能性が高まるでしょう。
4.エピソードを通じて能力をアピール
雑談の中で、学生時代にやっていたスポーツやクラブ活動、あるいは社会人になってから取り組んでいる社外活動などの話題が出たときには、先ほどお伝えしたように自身の価値観が伝わるようなエピソードを話すほか、「相手企業が求めているもの」を踏まえて話すといいでしょう。
面接の中でさりげなく能力やポテンシャルをアピール。写真はイメージ=PIXTA 例えば、応募した求人ポジションで「マネジメント」が求められている場合は、スポーツでのチームビルディングやメンバーのモチベーションアップなど、仕事にも通じるような経験を語るのも手です。また、好きなクラブチームや指導者などを挙げて、「こういう戦略を得意としている」「こんな選手育成をしている」など、共感しているポイントを話す。それによって、チーム作りやマネジメントについて「高い意識を持って、多方面にアンテナを張っている」という印象を与えられるかもしれません。
また、相手と自分の共通点が「マラソン」だった場合、「自分もマラソンやっています。〇〇マラソンに出たときのタイムは〇時間〇秒でした」だけで終わらせず、「実は最初は5kmしか走れなかったんですが、こんなトレーニングを繰り返して……」といった経験談も加えれば、「目標に向けて努力できる人物」とプラスにとらえられることでしょう。
住んでいる地域の話題になった場合は、「町内会で理事をしていて、今年の夏は花火大会を企画・実行した」といったエピソードを語ることで、老若男女をとりまとめるコーディネート力、コミュニケーション力をそれとなくアピールできます。
また、ワーキングマザーであれば、育児と仕事を両立するという課題に対し、ネガティブではなくポジティブにとらえてもらうために雑談を活用するのもいいでしょう。夫、両親、地域や民間のサポートをうまく使っている状況を話し、「プロジェクトマネジメントと同じ」と伝えれば、仕事上の能力の高さも感じ取ってもらえるのではないでしょうか。「さまざまなツールを活用して生産性アップを実現している」など、育児にまつわる雑談を通じて、仕事力をアピールすることも可能です。
5.雑談の中から企業の価値観・風土をつかむ
雑談は、相手と早く打ち解ける、それとなく自分をアピールするのに加え、相手企業の一面を知るためにも役立ちます。面接は、相手から評価されるだけでなく、自分に合う企業かどうかを見極める場でもありますから、雑談を通じてその企業の価値観や風土を探りましょう。
そこで、受付から応接室に案内される道のりでも、「五感」をフルに使ってその会社を観察してみてください。オフィスのレイアウト、調度品、掲示物、すれ違う社員のファッションや立ち居振る舞いなど。
そして、「その会社ならでは」を発見したら、雑談の機会に話題にしてみてください。
「会議室一つひとつに国の名前が付いているんですね。何か意図はあるんですか?」
「廊下に飾られている絵は、社長のご趣味なんですか?」
「カジュアルな服装の方が多いようですが、ファッションは自由なんですか?」
「皆さん、すれ違うときに必ず挨拶をされるのですね」
といったようにです。「ああ、それはですね~」と相手が説明してくれた内容から、その会社の特徴や社風が理解できることもあります。
例えば、オフィス家具やインテリアについても、ちょっと個性的なものだった場合、「どなたが選んだのですか?」と尋ねてみます。「社長の趣味一色」という答えであれば、「ワンマンタイプの社長かもしれない」と想像できますし、「社員たちの意見を聞いて選んだ」ということなら「社員の声が尊重される風土なのかな」といったように、社風のイメージがある程度つくかもしれません。
面接の前・途中・後に「雑談タイム」がめぐってきた場合、当たり障りのない話だけでやり過ごすのではなく、ぜひ相手との相互理解を促すような内容の雑談ができるように意識してみてください。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は9月21日の予定です。この連載は3人が交代で執筆します。
森本千賀子 morich代表取締役 兼 All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「のぼりつめる男 課長どまりの男」(サンマーク出版)ほか、著書多数。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。