観光地でないところを旅するのが好きなココロ社です。
一般的に、旅先でチェーン店に寄る人は多くない。その土地ならではのごはんをいただくのが旅行の醍醐味である……という考え方の人が多く、一理あるとは思う。
しかし、店がチェーンを成しているのは、創業したお店が優れているからチェーンを成したのだし、そんな魅力的な店が、店舗を越えて一定のレシピを共有していることで、安心して寄れることを考えると、旅先でのチェーン店の利用もまたよきことかなと思う。
また、フランチャイズ店であったとしても、店舗ごとに裁量の幅が大きいフランチャイズもあり、そのような店は、評価の安定したレシピに加えて、その地域の特色も乗ってくるので、むしろ「せっかく旅行をしているのだからチェーン店に寄るべき」という考え方も可能である。
少なくとも、自分のお気に入りのチェーン店を旅先で見つけたときに、どのような業態でどのようなメニューが提供されているのかを調べておいて損をすることはない。
「天下一品」の三田店に伺うことにした。なんでも、ここだけのオリジナルメニューがあるらしい。
ニュータウンを擁していて、居住地として候補にあがることはあっても、旅行先として三田を選ぶ人は少ないかもしれない。三田駅の周辺にある名所といえば、三輪神社くらいのものだから。とはいえ、せっかくなので、三輪神社を観光してからお目当ての天下一品へお邪魔することにしよう。
駅から歩いて10分で、森のような場所へ行ける
三輪神社は、奈良にある大神神社(おおみわじんじゃ)から分祀された神社である(大神神社については関西の人はよくご存知だろう)。それだけではなく、もともとこのあたりは、大神神社の封戸(ふこ。神社の収入源となる税を納めてくれる地域)だった。想像してみてほしいのだけれど、大神神社からここまで歩けば丸一日かかる。
権勢が、はるか三田にまで及んでいたのだから、まさにパワースポットそのものである。
大神神社は、三輪山という山をご神体とする神社である。自然物をご神体にしていることからもわかるように、神道の源流にアニミズムがあったことがよくわかる神社で、創建は古すぎて正確にはわかっていない。
そこから分祀されたのが三田の三輪神社。今の感覚で乱暴に表現するとフランチャイズである。創建は8世紀とのことで、フランチャイズ的な概念が1,000年以上前からあったと思うと、古代人と現代人は意外に通じあえるのかもしれないと思う。
そして、分祀されつつも、その土地ならではの独自の創意工夫あるいは超解釈がプラスされていて、個性が感じられる。
三田の三輪神社の背後には、神域となっている丸山がある。
奈良の大神神社の背後に控える三輪山については、お参りは不可能ではないが、聖域なので絶対に撮影禁止。摂社の狭井神社に荷物を全部預けて身体ひとつでお参りをするシステムである。
いっぽう、こちらの三輪神社から丸山へのアクセスは、神社の脇を通っていくだけできわめて容易である。
このあたりは古墳が密集しているのだが、石室が見えたりするわけではなく、そのままの姿である。
それにしても、駅から歩いて10分も経たないうちにこんな森のような場所に来てしまうのは驚きである。好きで寄り道しているとはいえ、ラーメンを食べるために降りたのに何をしているのだろう……。と思いつつも、フランチャイズの本質が見えるような気がしたのである。
丸山の中には休憩所もあるが、ゆっくりする感じではなく、やはり神様のいらっしゃるところで長く居座るのは失礼にあたるのかしらと休憩所を見て思う。
丸山を降りて県道に合流する途中に、「大井の元」という謎の建物がある。中に大事なものがある風なたたずまいがたまらない。中を覗いてみよう。
飲み水にはならないようだけれども、三輪神社へのお供えの水を汲むところで、今もこんこんと水が湧いていて、神秘的な佇まいである。
他の店とはやっぱり違う気がする
そうそう、天下一品に行くところだった。
国道178号を歩いて15分ほどすると、本日の目的地であるところの天下一品・三田店に到着。
真っ赤に塗られた店舗。まるで店全体がスポーツカーのようだ……。
敷地の中が他の店と違う感じだが、同じ経営母体の中古車店の敷地内にあるのである。
なお、こちらは車で引ける家。気になるお値段は450万円。
これで各地を旅する夢を見てしまう。
お店に入って目に飛びこんできたのは、「ジョッキカルピス ¥100」の文字列。自販機で買うよりも安いやん……と思って頼んでしまった。
天下一品のジョッキに入ったカルピスは濃くて、これは、飲み屋によくある「ビール最初の1杯は200円」みたいなものなのだろうと推測した。ソフトドリンク大好きなオッサンにはありがたい配慮である。
家でこのジョッキでカルピスを飲んだら夢みたいだろうなー。
不思議なオリジナルメニュー
そしてメニューを眺めていると、不思議な料理を発見した。
のちほど紹介する「三田スペシャル」という、夢のメニューがあることは承知していたが、「バターライス」とは……。
洋食屋のライスがバターライスだったことはあったが、このように見た目がチャーハンのような「バターライス」は初めて見た。いままで行ってきた天下一品の店舗でも見たことがない。
たまたま、朝から何も食べていなかったので、三田スペシャルとバターライスをいっしょに頼めそうなお腹の具合である。ラッキーなことこの上ない。
カルピスを豪快に飲んでいると、ほどなくしてバターライス(470円)が登場。
メニューの写真通り、かなりチャーハン寄りのビジュアルだが、つまり「チャーハンの油をバターに置き換えた」という、濃すぎるがゆえに常人は思いつかないメニューだった。
バターの行き渡り度合いを読者のみなさまにもご確認いただきたく、もう一枚アップで掲載させていただく。
しかしこれはずっしり来る。油をバターにするだけで、チャーハンがここまで豊かな味になるとは……。福神漬が、味的にもビジュアル的にもフレッシュでいい。
東京では見かけたことがないので、家で作るしかないな……と思いながらいただいた。
そして本題の「三田スペシャル」(720円)。
こってりとあっさりが半人前ずつ入っている。具は合計するとふつうの一人前よりも多いように見える。
誰かは思いついただろうけれど、おそらく提供が大変だからという理由で全国の天下一品でここだけのメニューである。
レンゲがクロスしていた状態で供され、なんだかカッコいい……。惚れる……。
どちらを先にいただくか、一瞬迷ったのだが、あっさりからいただいた。
品のある醤油味で、天下一品でなければメインになれたかもしれないラーメンである。
そのあと、こってりをいただく。
単品でこってりを頼んだときよりも、あっさりでバイアスをかけてからこってりをいただくと、食べ慣れた天下一品のこってりのこってり感を全身で感じ取ることができた。いまさらながら、本当にこってりしている。
頼んだときは、バリエーションがあっていいねえくらいにしか思っていなかったのだけれど、これは、こってりの真価を知るための最高の組み合わせなのではないだろうか……と思った。交互にいただくと、こってりのスープを口にするたび、新鮮な感動が身体を駆け抜ける。
神社もラーメンも、元の雰囲気を大事にしつつも、独自の進化を遂げていて、三田、初めて降りたけどめっちゃええとこやん……と思える旅だった。
旅の途中にぜひ下車してみていただきたい。
紹介したお店
天下一品 三田店
住所:兵庫県三田市川除144-15
TEL:079-563-4919
著者プロフィール
ココロ社
ライター。主著は『マイナス思考法講座』『忍耐力養成ドリル』『モテる小説』。ブログ「ココロ社」も運営中。
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