オニテンの読書会

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一千年前のあきれるほどのラブソング_清原深養父は、会えても満足しない。

  こんな歌があります。

恋しいって、誰が作った言葉だろうね。死ぬっていった方が、合っているよ。ぼくのこの状態を言い表すのには。

 

逢ったとたんに、少し悲しくなってしまう。だって、いずれ別れがくることを知っているから。

 

夢で逢ったとして、それでどうやって心が慰められるっていうんだい。現実で逢えても、満足することなんてできないのに。

 

 う〜ん。恋に悩んでいます。この恋の歌を歌っているのが、なんと千年以上前の歌人、清原深養父(889~931に生存)なのです。深養父は、清少納言の曽祖父にあたる人物です。彼の残した和歌は、『百人一首』でも詠まれているので、ご存知の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?  

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 先ほど、例としてあげた歌ですが、実際の和歌は以下のようになります。(カッコ)の数字は、参照した新版 古今和歌集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫) によります。

 

恋しとはたが名づけむ言ならむ死ぬとぞただに言ふべかりける(698)

 

逢ふからもものはなこそかなしけれ別れむことをかねて思へば(429)

 

うばたまの夢になにかはなぐさむうつつにだにもあかぬ心を(449)

 となっています。特に、最初の和歌は、わたしが清原深養父を知るきっかけになった歌でした。この歌が、大岡信さんの『折々のうた』にとりあげられており、中学生だったわたしは、大きな衝撃を受けたのでした。これは、まさに、思春期に、GOING STEADY、銀杏BOYZを聴いたような衝撃でした。

 「昔の人も、ぼくと同じように恋に悩んでいたのだなぁ」と、ものすごい普通の感想を抱いていたわけですが、大人になってこの歌人の和歌を読んでみると、まぁすごいんです。内容が!!

 もう、会いたくて震えるを超えてます。会えても満足しない。

 とにかく、恋に愛に飢えているのです。

 今回の記事では、清原深養父の恋の歌に迫ります!!

 《目次》

 

 

 

それでは、深養父の恋の世界に飛び立ちましょう!!! 和歌は、高田祐彦先生の訳を参考にわかりやすくしています。

離れていても、心はそばにいるよ、いや、ついていくよ。。。

深養父の恋心は、当然、相手が遠くにいても関係ありません。遠距離になると自然消滅するような大学生の恋愛ではないのです。(ちなみに、わたしは遠距離5年で、結婚しました。頑張れ遠距離恋愛!!)

はるか彼方にまで通う心は、あなたに遅れずについていくので、他人からは離れ離れに見えているかもしれないけれど、体が離れているだけだからね。

 

雲居にもかよふ心のおくれねば別ると人に見ゆばかりなり(378)

 この和歌では、離れていても、そばにいるよ、ついていくよという、執念ぶかさが伺えますね。

 

会っても満足できない、もう、わけかんない!

深養父は、好きな女性に会っても満足できません。吹きすさぶ恋の嵐、それが、深養父の世界です。

心というものは、理に合わないものだ。逢っているのにも関わらず、恋しいなんて。

 

心をぞわりなきものと思ひぬるみるものからや恋しかるべき(685)

逢っても逢っても恋しい、もう、どうして!! という深養父の恋心。 

 

恋しくて、死んでしまう、死んだら、誰のせいだろうね?

きわめつけなのが、恋が原因で死ぬ「恋死」!恋しくて死んでしまう、それだけなら、わかりますが、この歌は、少し怖いです。

ぼくが、 恋死にしたら、だれの名前がうわさになるでしょうね。あなたの名前ですよ。あなたは、ぼくの死を世の無常のせいにするとしてもね。

 

恋ひ死なばたが名は立たじ世の中の常なきものと言ひはなすとも(603)

 もう、怖いです。なんか、じっとりとしたス◯ーカー的な陰湿さを感じてしまいます。でも、それだけ、好きって伝えたいってことかも!!

 

恋は、因果応報!やさしくすればよかったよ! 

深養父の人間らしさは、好きではない女性に対しての和歌で、うかがい知ることができます。

ぼくのことを思ってくれたあの子を、ぼくも同じように思っていればよかった。ぴったり、いま、その報いを受けている。ぼくの好きな人が、ぼくを好きになってくれない。

 

思いけむ人をぞともに思はましまさしやむいなかりけりやは(1042)

 人間らしい、優しくすればよかった、という後悔をうたった歌です。みなさんも、こころあたりはありませんか?

 

今回の記事では、清原深養父の和歌を、恋心をすこし勉強してみました。1000年も昔に、なんだか今のJPOPの歌詞の世界が広がっていたようで、興味深いですね。

 

《参考文献》

 

新版 古今和歌集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

新版 古今和歌集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)