シャルティアが精神支配されたので星に願ったら、うぇぶ版シャルティアになったでござる 作:須達龍也
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「…あちらの妾は、精神支配などは受けなかったでありんす」
その言葉は、切ないような、寂しいような、なんとも言えない響きを持っていた。
その事を悔いているようで、またその事があるからこそ、今ここに居れるので、今のこのシャルティアにとっては、複雑な想いだった。
「そうか…確かにそれは、小さな違いではないな」
シャルティアの心情を慮って、アインズはそう告げるに留めた。
「大体の事情はわかったが、…さて、どうすべきかな」
このシャルティアが嘘を言っているとは思えない。大体が、嘘にしては突飛過ぎる。嘘をつくにしても、もうちょっと信憑性のあることを言うべきだろう。
であるならば、どうすべきが正解か。
このままで良い?
このシャルティア本人が言っているように、本来のシャルティア・ブラッドフォールンではない。コンソール表示の黒字もそれを示している。
では、このシャルティアを殺して、復活させるべき?
こちらのシャルティアではないにしても、シャルティアはシャルティアだ。可愛いNPC…それも無抵抗の…を殺すのは忍びない。
あとこれは、そう大したことではないのだが、復活にかかるユグドラシル金貨も、ちょっとだけ痛い。無論、シャルティアに比べれば全然大したことではない。当たり前だ。
「…あとは、こちらの世界との差異はわかりんせんが、あちらの世界の続きの話はどういたしんしょうか?」
「何?」
それはアインズにとっては予想外だった。
こちらの世界と同じところまで進んでいる、あちらの世界のシャルティアが召還されたと、思い込んでいた。
確かに、別に同時期である必要性はない。
あちらとこちら、差異は大小存在するが、参考にはなろう。…そう、完全に指針とするのは問題があるが、参考にする分には問題ないはずだ。
それに、ここにはアルベドもデミウルゴスもいる。俺だけだったら混乱するだけなのは間違いないが、アルベドとデミウルゴスだったら大丈夫だ。きっとこの情報を役に立てるはずだ。
「そうだな、話してくれ」
「わかりんした。あちらの世界での、この後について、お話いたしんす。
…ただ、妾が思うに、守護者全員に聞かせる話ではないように思いんす」
未来の話は危険である。シャルティアの言いたいことは理解できた。
その話に惑わされず、あくまで参考レベルですますことのできる者たち、アルベドとデミウルゴスのみを残して、他の守護者達を元の仕事に戻した。
アインズ個人としては、未来の話に惑わされる自信があったし、参考レベルですませられないとも思っていたが、三人で話してくれというわけにもいかなかった。
あくまでシャルティアの記憶の順序に従ってではあるが、内容としては以下の通りであった。
森のはずれの湿地に住むリザードマン達に戦争をふっかけること。
コキュートスを指揮官に、ナザリックの非常に弱いアンデッドのみで戦わせること。
ゾンビやスケルトンレベルで、しかも一万の半分程度の数でしかなかった為、その戦争は敗北に喫すること。
ただそれは、指揮官のスキルを持たないコキュートスが、敗北から何かを学べるかのテストであり、負けることは想定内だったこと。
そこで流れるさすアイの空気。自分がやったことでないのに褒められて、ただただアインズが恥ずかしがる。
敗北から、コキュートスが確かに成長したこと。
テストが終わったので、リザードマン達を滅ぼそうとすること。
コキュートスがリザードマン達の支配を提案したこと。
その話を聞いて、おお、コキュートスが…と呟いて、デミウルゴスが非常に嬉しそうに笑った。
コキュートスとリザードマン達の代表達が戦ったこと。
コキュートスの圧勝だったこと。
死者蘇生のテストを行ったこと。
コキュートスにそのリザードマン達の支配を任せたこと。
「なるほどな。確かに、トブの森のはずれの湿地に、アウラがリザードマンを発見している。また、リザードマンを使って、テストをしようと考えていたのも事実だ」
アインズがそう告げると、再び流れるさすアイの空気。
アインズとしてみたら、うまくいけばいいな程度のテストだったので、その空気はくすぐったくてしょうがない。
「では、セバス達のほう、王国のほうはどうなった?」
シャルティアが知らないはずのリザードマンの話が出たことで、…更には特に誰にも告げていなかったコキュートスのテストの話まで出たので、別世界のシャルティアの話の信憑性はかなり上がった。
そこで気になるのは、セバスに任せきりで、正直アインズもよくわかっていない王国関連の情報だった。
それには頼らないよ、単に参考にするだけだよ…と自分に言い訳をしつつ、シャルティアをせっつく。
「…セバスのほうは、えっと…そう、確か、人間の女を拾ってました」
「人間の女を拾った?」
アインズ本人は初耳だった為、アルベドとデミウルゴスを伺うと、二人とも知らないようだったので、自分だけではなかったとホッとする。
「そう、確か、そう…その報告を怠ったということで、セバスに反逆の意思ありと、ソリュシャンからアインズ様に報告があったとか、なかったとか…」
どっちだよ…と思いつつも、頑張って記憶を呼び起こそうとしているシャルティアを心の中で応援する。
「…そうそう、結局セバスの裏切りもなく、その女もまあ、助けて…ナザリックのメイドの一人にしたような…話を、聞いたような、聞かなかったような…」
だから、どっちだよ!…と思いつつ、頑張れ頑張れ、シャルティア!…と心の中での応援を続ける。
「…申し訳ございません、アインズ様。妾、そっちとはあまり関連がなかったので、よくわかりんせん」
あー、諦めちゃったかーと内心では思いつつも、問題ない、構わないと言うことを、鷹揚に手を振ることで示した。
「他には、何かあるか?」
そのアインズの質問に、シャルティアが朗らかに答えた。
「はい。ナザリックへ侵入者がおりました」
WEB版のシャルティアも、あまりイベントに関わってませんね。