「テニスに性差別はある。しかしウィリアムズのしたことの言い訳にはならない」

ラッセル・フラーBBCテニス担当編集委員

Serena Williams argues with umpire Image copyright Getty Images

セリーナ・ウィリアムズ選手はこれまでずっと、ミソジニー(女性嫌い)と人種差別の被害を受けてきた。だからと言って、問題行動が制裁されずに済むわけではない(文中敬称略)。

ウィリアムズは、大坂なおみに負けた全米オープン女子シングルス決勝戦で、3つの規則違反を問われて合計1万7000ドル(約189万円)の罰金を科された。確かに、ウィリアムズが積み上げてきた賞金総額に比べれば微々たるものだ。しかしそれでも、テニスという文脈では、大きな意味をもつ。

カルロス・ラモス主審を「うそつき」や「泥棒」と呼び暴言を吐いたとしてゲーム・ペナルティーを取られたことで、ウィリアムズは主審を性差別的だと非難した。その時点でこの話がしばらくは、ニュースの大きな話題になることは必至だった。さらにその後、テニス界トップレベルの幹部2人がウィリアムズの主張を支持し、審判を真正面から責めたことで、問題はさらに拡大した。

女子テニス協会(WTA)のスティーブ・サイモン最高経営責任者(CEO)は9日、声明の中で、ラモス主審は男子相手のときと比べてウィリアムズには厳しく接したように思うと述べた。全米テニス協会(USTA)のカトリーナ・アダムス会長も同日、テレビでのインタビューで、ラモス主審や他の審判には性的偏見があると非難した。

「男子選手の同じような真似は、しょっちゅう目にする」とアダムス会長はスポーツ専門チャンネルESPNで述べた。

「コートチェンジの際に主審にしつこく食い下がっても、何もされない。平等ではない」

シカゴ、ケベック、広島で今週開かれている大会の審判たちの立場を、まったく考えていない発言だ。これから数週間、数カ月にわたって試合を采配する審判たちのことも、何も考えていない。審判の権威は、一瞬にして損なわれてしまった。

<関連記事>

テニスの世界には、既得権がはびこっている。利益相反も多くみられる。アダムス会長は、ウィリアムズとの良好な関係を守らなくてはならない。サイモンCEOは純粋にビジネスとして、WTAの商売にとって最大の資産を大事にしているのだ。

マリア・シャラポワが薬物検査で陽性反応となった時にも、サイモン氏は同じことをした。まず、まだ適正な手続きさえ始まっていない時点で、シャラポワの人柄に太鼓判を押した。その後、シャラポワの出場停止期間が終わった直後、全仏オープンのワイルドカードを与えなかったとして仏テニス連盟を公然と非難した。

色々な人が色々なことを言っているし、関係する管理団体があまりに多すぎる。四大大会はテニス界を支える柱だ。それだけに、規則を決める国際テニス連盟、女子ツアーを運営するWTA、男子ツアーを運営する男子プロテニス協会(ATP)が、影響力を争ってしのぎを削っている。仕組みを改革すべきだが、期待しない方がいい。

ラモス氏は、スター選手に対決できる審判だという評判が高く、ある意味でだからこそ、四大大会すべてとオリンピックでシングルス決勝戦の主審を任されてきた。審判をうそつきや泥棒と呼んだウィリアムズに何もしなかったら、かえって非難されたはずだ。

テニスには性差別がはびこっている。だからいってそれを、四大大会優勝23回の女王の振る舞いをごまかすための、言い訳にするべきではない。

Naomi Osaka Image copyright Getty Images
Image caption 全米オープン覇者の大坂なおみは試合後の表彰式で涙を流した

審判は、男子選手に甘いのだろうか? 今年の全米オープンから確かなことは言えないし、昨年の全米オープンでは、ファビオ・フォニーニ(イタリア)が暴言を理由に罰金9万6000ドル(約1070万円)を科され、四大大会出場を停止された。フォニーニの行為は今回よりはるかい悪質で、ルイーズ・エンセル主審への発言は紛れもなく女性蔑視的なものだったが、少なくともしっかりした処分が下された。

男子選手は、審判が男性か女性かで自分の話し方が違っているかどうか、じっくり考えるべきだ。そして女子選手は、男子選手よりも扱いが厳しいと強く感じているのなら、調査が必要だ。

WTAツアーは、創設当初から差別と戦ってきた。大きく前進はしてきたものの、それでも、女子選手のほうが不利だという部分が多すぎる。ウィンブルドン選手権での賞金が男女同額になってわずか11年だ。大会日程については今も、舞台裏では不満が飛び交っている。

そして今回の全米オープンでは、ダブルスで優勝したココ・バンダウェイ(米国)が不満を抱いていた。男子シングルス決勝を時間通りに始めるため、女子ダブルスの表彰式が短縮されたからだ。また、着ていたシャツが前後ろだと気づいたアリゼ・コルネ(フランス)がコート上で着替えたからと警告されたことについても、不満が広がっている。

加えて、試合中のコーチング(指導)問題がある。ウィリアムズの話もそもそもは、コーチングから始まった。コート上での指導は、WTAツアーでは一部で許されているが、客席から極秘にサインを送るのは決して容認されない。コーチはいつもやっていることだが、審判が一貫して取り締まるのは無理な話だ。

WTA創設者の1人でもあるビリー・ジーン・キング氏をはじめ大勢が、全てのポイントでコーチングを許して、テニスを21世紀のものにすべきだと主張する。

伝統主義者は、テニスは個人競技であり、自力で問題を解決しなければならないと反論する。

ここでもまた、テニスは分裂しているのだ。

(英語記事 US Open: 'There's sexism in tennis but that doesn't excuse Serena Williams' behaviour'

関連トピックス

この話題についてさらに読む