リノンの試験
大樹…巻き込んでゴメン…。
僕はリノンが生徒指導室に向かうのを見送る。
「この時間で3科目か…。」
時間にして1時間半くらいだろうか…。
ちょっと早い。
ちゃんと回答を書いてるのか不安になるけど…。
リノンの事だから、しっかりやっているのだろう。
に、しても早い…。
僕は少し落ち込む。
「雄介、もしかして彼女か?」
声の方向に振り返る。
そこには大樹が居た。
部活の休憩中だろうか?
体操着で僕に声をかけてきた。
「陸上部の練習中?」
「おう、そうだよ。
で、あれが彼女?」
「あぁ…そうだよ。
転入試験を受けに来たんだ…。」
「へぇ…そうだったんだ…。」
「紹介する約束、遅くなってごめん…。
試験がひと段落着いたら、声かけるよ。」
「いや、いいよいいよ。
じゃあ、紹介してくれるの楽しみにしてるからな!」
大樹は大げさに笑って、僕の肩をたたく。
「それにしても…かわいい子だな…。
どっからあんな子を…。」
「…深い事情はあるから、ゆっくり話すよ…。」
…異世界から来たなんて言ったら、信じてくれないだろうなぁ…。
そう考えていると、何やら不穏な空気が流れ込む。
「え!?バカな?」
「ん?どうした?雄介?」
大樹は何気なく僕の肩をたたく。
!?
いけない!
大樹と触れ合った状態だと、異世界のはざまに連れ込まれる可能性が…。
「大樹ゴメン!!」
「?」
僕は大樹の手を振り払おうとする。
…が、遅かった…。
「…大樹、ゴメン、巻き込んじゃったようだよ…。」
「え?なんだこれ?」
世界は悲鳴を上げて、異世界のはざまの景色に変わる。
・
・
・
「雄介、これ、どういうことだ?
それに、お前の姿…。」
大樹は茫然と立ち尽くす。
僕たちの視界には、野犬のようなモンスターが3体いる。
「ゴメン…巻き込むつもりはなかった…。」
僕は力なく答える。
「あれ…犬だよな?
可愛い犬だよな?
まさか…襲ってこないよな?」
「…残念だけど…。」
モンスターは僕たちにけん制をかけてくる。
「…これが僕の最近の日常…なんだ…。」
大樹に申し訳なさそうに言う。
そして、僕は杖に力を込めて、魔法を念じる。
「ファイヤーストーム!!」
3体のモンスターが炎に包まれる。
…ダメージが足りない!
僕は1体にめがけて、杖を振り下ろす。
「ギャン!!」
炎のダメージで弱っていたのか、モンスターはすぐに倒れる。
そして、もう一体…。
「大樹!!!」
僕がもう一体に対してとどめを刺したとき、
残りの一体が大樹にめがけて襲い掛かる。
「くっ、来るな!!!」
大樹は無我夢中で地面の石を投げつける。
「キャン!!」
大樹の石が、モンスターに当たる。
ひるんだ!
今のうちに!!
僕は杖を握り、炎の魔法を唱える。
「大樹、伏せて!!」
「!?」
大樹は声に反応して伏せる。
そして、僕の放った魔法がモンスターに命中する。
モンスターは力なく倒れていった。
「こ、これは何なんだよ…。」
大樹は震えたような声で言う。
「…彼女のいた世界…って言ったら、信じる?」
僕は恐る恐る、大樹に尋ねる。
「…わからない…。」
大樹は首を振りながら答える。
そりゃ…僕だって信じられなかったものだ。
いきなり信じろと言っても通用しないだろう。
「だよな…。」
僕は力なく、答える。
そして、大樹の腕がほのかに光る。
「雄介、これは?」
僕は大樹のそばによって、腕の文字を確認する。
「…シーフ、レベル4…。」
異世界のはざまは崩れ、元の世界に戻った。