2018-09-11
■[ネット][マンガ][小説][身辺雑記]ライトノベル表紙群や『ドラえもん』をめぐる、表現の部分否定と全否定
『ドラえもん』のトロフィーワイフ問題について - 法華狼の日記
chounamoul氏のツイートだが、娘の発言を紹介するかたちは気になるが*2、ひとつの感想として理解はできるものだ。
*2:これ自体がパターナリスティックなふるまいではないかという注意がほしい。親という立場は、どれだけ気をつけていても子を誘導しかねない権力関係がある。
上記の後日談として、今度は本屋で平台におかれたライトノベルの表紙に対する「娘」の評価をchounamoul氏がツイートして、話題となっているようだ。
「ライトノベルにおける性の商品化」と、それに「全ライトノベル作家を代表して謝罪」する「国際信州学院大学ライトノベル研究会」 - Togetter
@chounamoul: きょう書店で娘が心底嫌そうな顔で「お父さん、これ気持ち悪い…」と指さした光景。自分の属する性別の体が性的に異様に誇張されて描かれ、ひたすら性的消費の道具として扱われる気持ち悪さは想像できるし、それを子供の眼前に公然と並べる抑圧はほ… URL
本題に入る前に、今件で過去のchounamoul氏のツイートを多く読んで、「娘」の意見や情報を多く出しすぎなのではないか、という懸念は強くもった。
さすがに写真などは隠しているが、注目されているアカウントで発言どころか似顔絵まで公開している。将来にわたって娘の理解がえられるだろうか。
ともかく表紙群への気持ち悪いという評価を出したツイートに対して、このような書店の空間に娘をつれてくることへの批判や、売れている書籍を書店が平台にならべるのは当然といった反応がある。
よくリツイートもされた代表的な批判として、現在は消されているlyricalium氏のツイートがあった。
http://b.hatena.ne.jp/entry/twitter.com/lyricalium/status/1038692056615378945
シュナムル氏の娘氏、ああいう本を気持ち悪がると父が喜ぶというのはもう叩き込まれてそうだし、それはああいう本を読んでみたいと思っても買ってもらったりできない、図書館で借りたりお小遣いでこっそり買ったりしたら隠さなきゃいけない境遇ってことだろうと推測され、気の毒だが、強く生きてほしい
たしかにchounamoul氏はパターナリスティックな部分に配慮は足りないとあらためて思うが、lyricalium氏もまた娘の“本心”を決めつけかねないパターナリズムに無自覚ではないだろうか。
親を通して語られる娘の思想が“親の教育”の賜物という蓋然性はあるとして、かといって“娘の思想”を親に従属しているとみなすことも人格を無視した態度という自覚は必要だ。
lyricalium氏は自身の性自認を男と表明しているのだから、その上で「娘」の心象を推測していることの意味を、もっと深く考えてほしい。
@lyricalium: いえ、私は男性です…。 #マシュマロを投げ合おう URL
また、今も残しているlyricalium氏のツイートとして、ならんでいるライトノベルのひとつ『境界線上のホライゾン』の女性人気が高いという主張がある。
@lyricalium: シュナムル氏の撮ったあの書店のラノベ平積みの中で一番「おっぱい!」な表紙の『境界線上のホライゾン』が女性人気の高い作品だというの、シュナムル氏やその周囲の人達には理解できないだろうし、迂闊に女性観や人間観をひっくり返す真実を突きつけると人間は壊れる可能性がある
「「おっぱい!」な表紙」という説明から、そういう評価をlyricalium氏も自明のものとしていることがわかる。約10年前のシリーズ開始からライトノベル全体から見ても特異という印象はたしかにある。
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なお、実際にどれほど女性人気が高いのか、lyricalium氏ははっきりとした根拠をもっていなかったようで、少し意見を後退させている。
@lyricalium: 『境ホラ』の女性ファン、男性向けラノベの中では多めなほうだと思いますが、女性ファンの中ではマイナージャンルで同好の士が多くはないほうって感じだと思うので、「女性人気が高い」って言い切っちゃうと視点や比較対象によっては確かに違和感あるでしょうね。ちょっと言い方がマズかったな。
@lyricalium: 「男性向けラノベ」の中では女性ファンが多めなはずでも、例えば『進撃の巨人』や『ヒロアカ』ほどには「女性人気の高い男性向け作品」ではないわけだし
ここで冒頭の後日談として興味深いのが、しずちゃんの位置づけに違和感を表明しつつも「娘」は『ドラえもん』を楽しみつづけていて、それをchounamoul氏は幸せに思っていること。
@chounamoul: 帰宅してから娘が寝るこの時間まで基本的に家事してるんだけど、洗濯物片付けたり食器洗ったりする俺の後ろで、『ドラえもん』を読む娘の心底楽しそうにケラケラ笑う声が聞こえんの、ほんとこの世にこれ以上幸せなBGMがあろうかって思うよ URL
@chounamoul: ドラえもん、子供に読ませるにはちょっと倫理観が古すぎるかなあと思ってたけど、じっさい買い与えてみると「お風呂覗かれたらふつう絶交でしょ」とか「ここでのび太に草むしりやらせるママはおかしい」とか、ケラケラ笑って読みながらも批判的視点はきちんと保持してて、小2舐めたらあかんなと思った
ある表現の一部を否定することは、その表現全体を否定することと同一ではない。chounamoul氏が同一視するだろうという憶測は、現実にてらしあわせて失当だ。
また、chounamoul氏の『ドラえもん』についてのツイートを読んでいたところ、今件より以前に、娘ではなく自身の評価として、性差別とは別個の批判をしているものを見つけた。
@chounamoul: ドラ映画、本筋と関係ないところで引っかかったのは、道化キャラみたいなのがドラえもんをしつこく「タヌキ」と呼んで、ドラえもんが「僕はタヌキじゃない」と怒り、それを囲んで皆が笑う、みたいなの。恒例のギャグなんだけど、これイジメに容易に転化するイジリってやつだなーとちょっと思った。
一応、原作などでは周囲のキャラクターの性格の悪さは意識的に描かれており、逆に最初から猫と解してもらって喜ぶエピソードなどもある。原作版の『のび太とアニマル惑星』のように、自認との乖離をギャグとしてつきつめたこともある*1。
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同時に、単純な「イジリ」で終わらせる描写を苦手に思う観客がいることも理解できるし、そうしたギャグ観の変化がいっそう作品に反映されていくのも時代の流れだろうと考える。
ライトノベル表紙の話題にもどるが、たとえば下記のwakari_te氏によるツイートは、状況の置き換えとしては失当だと考える。
@wakari_te: 子供がゲイ雑誌を指して「お父さん、これ気持ち悪い…」と言ってきた場合の模範解答を述べよ(ソーシャルジャスティス大学 2018年)
ツイートにあるゲイ雑誌をゲイ向けポルノと解するとして、それを「気持ち悪い」と評するのが「子供」では、自身の属性を表現に使われた「娘」という構図とは異なる。
もっと比喩として近づけたいなら、たとえば女性向けボーイズラブ作品の表紙群を見た男性同性愛者が「気持ち悪い」と評する場面にするべきだろう*2。
たとえ属性を支援し賞揚する作品であっても、否定的反応はおこりうる。映画『ジャンゴ 繋がれざる者』へスパイク・リー監督が嫌悪を表明したように。
スパイク・リー監督、『ジャンゴ 繋がれざる者』は祖先に対して冒涜、観るつもりはないと発言 - シネマトゥデイ
むろん表現された属性をもつひとりの意見が作品評価を決定するとは限らない。さらに属性と表現の関係も作品によって異なるだろうし、属性の社会的な位置づけによって異議の強度も変わるだろう。
しかし、そうした批判や異議は珍しいものではなく、どのような表現でも起きうるし、事実として起きているという認識はもつべきだ。ひとつの表現だけが差別的なまなざしを向けられているという理解は失当だ。
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