還暦の男、ドイツまで昭和28年製ポルシェで走る

走行距離1万5463kmのひとり旅

2018年9月12日(水)

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 2018年6月8日、ドイツ・シュトゥットガルト、ツッフェンハウゼンにあるポルシェミュージアムで、ポルシェのスポーツカー誕生 70 周年を記念したイベントが盛大に行われた。1948 年6月8日に初めて“ポルシェ”の名を冠したスポーツカー「356“No.1”ロードスター」が登録されてからちょうど70年の歳月が流れたというわけだ。

ポルシェミュージアムではスポーツカー生誕70周年を記念し、「356“No.1”ロードスター」が展示されている

 このタイミングに合わせ、日本からドイツ・シュトゥットガルトの本社まで、自身が所有する1953年式 356(通称プリA)で、のべ53日間で8カ国をまたぎ、1万5463kmを走破した日本人がいる。ポルシェ本社公認の356オーナーズクラブ「ポルシェ 356 クラブ・オブ・ジャパン」の会長である鈴木利行さんだ。

日本からドイツのポルシェ本社まで1万5463kmを、1953年式のポルシェ356で完走した「ポルシェ 356 クラブ・オブ・ジャパン」会長の鈴木利行さん

 偶然にもそのゴールの場に居合わせることができたのだが、ゴール地点のポルシェミュージアム前にはいつの間にか大きな人だかりができていた。まるでハリウッドスターでもやってきたかのような、現地の人たちの鈴木さんへの熱狂的な歓待ぶりにとにかく驚いた。

老若男女、次から次へといろんな人たちが鈴木さんに「ファンタスティック ジョブ!」と声をかけ、記念撮影を始めるのだ。日本じゃなかなかこうはならない

 なぜこんな挑戦をしてみようと思ったのか、なぜそれほどまでにポルシェに魅せられたのか、ご本人に話を聞いてみた。

乗り継いだポルシェは21台

大変な偉業ですね。鈴木さんが初めてポルシェに乗られたのはいつのことですか?

鈴木さん(以下敬称略):22歳のときだから、約38年前かな。

20代でいきなりポルシェ。

鈴木:それまでクルマにはまったく興味なかったのよ。356を持っていた知人の助手席に乗って山道を下って家の方面まで送ってもらったことがあって。じゃあここでってクルマを降りて走り去っていくのを見て、「あれは一体なんだっ!」て。もう完璧に虜になった。

それでは、最初から356に?

鈴木:いや、さすがに356は高くて。でもその2週間後には911を買ってた。67年式の2リッターのS。中古車で160万円くらいで、もちろん安くはないけど、当時はまだ無理をすれば買えたんだよね。

そこからポルシェ歴が始まって、何台乗り継いでこられたんですか?

鈴木:このあいだ嫁さんがマカンを買って、その時に数えてみたらこれまで我が家に嫁いできたポルシェは21台だった。

ニ、ニジュウイチ台ですか……。この356はいつから?

鈴木:この356を手に入れたのは15年前くらい。かなり傷んでいて自分でレストアした。レストアが趣味なんですよ。板金塗装とかエンジンのオーバーホール以外は全部、自分でやってしまうんです。

でも、なぜドイツまで走ろうと思われたんですか?

ポルシェ社は当時ドイツ・シュトゥットガルトから戦火を逃れてオーストリアのグミュントに疎開しており、そこで356の試作1号車が誕生した。鈴木さんのクルマは1950~1955年にかけて生産された、のちのA型になる以前という意味で“プリA”と呼ばれる希少車

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「還暦の男、ドイツまで昭和28年製ポルシェで走る」の著者

藤野 太一

藤野 太一(ふじの・たいち)

フリーランスエディター/ライター

大学卒業後、自動車誌カーセンサー、カーセンサーエッジの編集デスクを経てフリーの編集者兼ライターに。日経ビジネスオンラインでは、連載開始時より2017年まで「走りながら考える」のアドバイザーを務めていた。自動車関連の分野をはじめとしビジネスマンを取材する機会も多く日経トップリーダー、日経デジタルマーケティングなどにも寄稿する。JMS(日本モータースポーツ記者会)所属

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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