「ペットショップはいらない」は実現が遠い。今あるペットショップの問題点に焦点を当てて、ひとつひとつ解決していくことが重要だ。Photo by iStock

「幼なすぎる動物の販売」をなぜ続ける?ペットショップ論争の大問題

海外で禁止の赤ちゃんが売られている
8月22日に、イギリス政府は南部のイングランド地域を中心に「6ヵ月未満の子犬・子猫の店頭販売を禁じる」という方針を発表した。

日本でも“ペットショップの是非”に関して長く論議されるが、残念ながらなかなか改善はされない。例えば、HIKAKINが飼い始めた猫種についての記事が大きな反響を呼んだが、SNSではヒカキンが子猫を飼ったことについて、「影響力のある人なんだからペットショップで飼うより保護犬や保護猫を飼ってほしい」という声が集まり、それに対して「どこで選ぼうが個人の自由。保護動物を選べというのは押し付け」、「ペットショップだろうが大切にすれば問題ない」などの反対意見も集まった。

確かにこの問題は、保護動物が○で、ペットショップが✖という簡単な図式ではこの問題は語れない。しかし、現在のペットショップのあり方には問題点が多いのも事実だ。そして、ヒカキンはじめほとんどの購入者たちは、その実情を知らないだろう。
                
過去にペットショップ勤務や動物病院勤務など動物関連の業界に長く携わり、現在は保護動物の活動をしている一般社団法人ランコントレ・ミグノンの友森玲子さんに、冷静に“ペットショップでの販売”の現状と、今一番何を論議すべきなのかを教えてもらった。

保護犬・猫は話題だが、まだ少数派

「動物といっしょに暮らしたい」と決めたときに、みなさんはどこで入手しようと考えるだろうか? 猫は保護するケースも多いが、犬の場合は、圧倒的にペットショップやブリーダーでの購入が多い。また、動物愛護団体からの入手は、下記を見てもまだまだ少ない。

【犬の場合】
ペットショップで購入 47.1%
業者ブリーダーから直接購入 16.7%
友人・知人からもらった 14.6%
シェルター(動物愛護団体など)から譲渡 1.8%

【猫の場合】
野良猫を拾った 37.5%
友人・知人からもらった 26.5%
ペットショップで購入 15.0%
シェルター(動物愛護団体など)から譲渡 1.9%

一般社団法人ペットフード協会(2017年度)調査より

また、犬の飼育者の68.2%、猫の飼育者の63.2%は、動物愛護団体などの保護施設の存在を知らず、犬の飼育者のうち22.3%、猫の飼育者27.9%は動物愛護団体などの保護施設の存在は知ってはいたけれど、入手の検討はしなかったと答えている。最近、“保護犬・猫”を取り上げるメディアは増えてきているが、現実としては、犬猫と暮らすときに選択肢として多くの人が考えるのは“ペットショップ”なのだ。

 

「抱っこさせる」が“運命”の販売戦略

過去にペットショップの接客をリサーチしたことがあった。すべてのペットショップが同様ではなかったが、もっとも代表的なケースをご紹介しよう。

ちょっとでも大きくなるとセールになり、ディスカウントされる犬や猫たち。Photo by Getty Images

場所は、東京都23区内の繁華街にある某人気のペットショップ。繁盛店で、店に入ると、壁際にショーケース、店内中央のサークルとかなりの数の子犬・子猫が並んでいた。サークルの中で飛び跳ねている大きめの子犬と目が合った。ポメラニアンとプードルのミックスで、売れ残ってしまい少し大きくなり、値札には7万円と書かれていた。

即座に店員が近づいていて「抱っこしますか?」と聞かれた。これは、ペットショップ業界では、“抱っこ商法”と呼ばれ、多くの店が活用している売り方だ。ペットと暮らしたいと思っている人が、目が合って抱っこをしたら、そこに“縁”を感じてしまう。だから、犬種の特性や飼育法などの説明よりも前に、まずは抱っこをさせて、“運命の出会い”を体感させてしまうのだ。

友森「かわいいですね。何ヵ月ぐらいですか?」

店員「ほかの子は2ヵ月弱ぐらいですけど、この子はちょっと大きくて5ヵ月ちょっとですね」

友森「仕事が忙しくて毎晩11時ぐらいに帰宅するから、犬を飼うのは難しくて……」

店員「そんなこと問題ないですよ、子犬はほとんど寝ているので、お仕事でいらっしゃらなくても大丈夫なんですよ」

友森「でも、子犬は何回もゴハンを食べるでしょ? 不在だとできないし……」  

店員「3食はあげていただきたいですが、朝起きてあげて、お仕事から帰ったらあげて、寝る前にあげれば、3食ですから。それで全然平気です」

友森「……、そんな3食でも問題はないんですね。でも、散歩に行く時間もないし」 

店員「お散歩は、むしろ小型犬は体力がないのであまりしないでください。お休みの日に家の周りをぐるっと一周まわるだけで、十分なんですよ」

子犬の飼育法としてはありえない情報を次々と告げられ唖然とするばかりだった。小型犬でも適度な運動は必要であり、屋内に閉じ込めていては精神的な発達も妨げてしまう。成長期の食餌が朝、夜、夜の3食では問題であることは、説明の必要もないだろう。何より、大切な成長期に無人の孤独な環境では、体も心も健康的に育つはずがない