なぜ苫東厚真発電所の一極集中は起きたのか
では、なぜ苫東厚真の一極集中は起きたのか。理由は、推測も含めて様々ありそうだ。
まず第1に、苫東厚真が高効率な石炭火力発電所であったことだ。発電所の効率性は規模に比例する。道内最大規模の苫東厚真は、発電コストが安価で、北電にとって競争力のある電源だったはずだ。
ある大手電力幹部は、「電力自由化が進む中、発電コストが安い発電所を稼働させたいと考えるのは普通のこと。苫東厚真発電所は北電エリアで最も大規模な石炭火力。これを動かしたいと思うのはよく分かる」という。
北海道の小規模な電力需要に対して、苫東厚真は規模が大きい。ただ、競争を勝ち抜いていくためには、大規模な設備が必要だというのは十分に理解できる話だ。
第2が、北電・泊原子力発電所が稼働していなかったこと。「泊原発が動いていれば、苫東厚真をフル稼働させる必要はなく、脱落による供給の急減は起きなかった」という声も聞こえてきた。ただ、泊原発も地震検知によって停止する可能性があり、これが根源的な解決法になるのかどうかは分からない。
第3が、本州との連系線の強化だろう。北海道と本州をつなぐ北本連系線の現在の容量は60万kW。東日本大震災後の議論を経て2019年には90万kWに拡張することが決まっている。
仮に、苫東厚真の脱落による影響が、北本連系線の容量以下であれば、本州からの送電によってブラックアウトを回避できた可能性がある。
そして第4が、電力網(系統)が大きすぎることだ。大規模集中の電力システムは、大規模で高効率な発電所から、広域に送電することを前提として作られている。だからこそ、苫東厚真のような大規模な発電所が脱落したときには、連鎖的に停電が広がる範囲が大きい。
近年、再生可能エネルギーの普及拡大は凄まじい勢いで進んでいる。配電網内に設置した分散電源を融通しながら利用する系統技術も開発が進んできた。例えば、大規模な発電所が脱落して送電ができなくなった時に、すべてを停電させるのではなく、分散電源を備えた配電網を一時的に送電網から切り離せば、完全な停電にならずに済む。
現在、太陽光発電などの分散電源は、周波数低下を検知すると、大型火力などと同様に自動で停止するようになっている。今回の地震の影響がなかった発電所が停止した中には、大規模な発電所だけでなく、再エネ発電所も含まれている。
少しでも停電の影響を軽微にするための方法には、様々な選択肢がある。長い時間をかけて構築してきた大規模集中型の電力システムの中での改善もあれば、分散型の電力システムを取り入れる方向での選択もあるだろう。
《泊原発が動いていれば、との意見があるが、そのような議論は無意味だと思う。日本の原発は、東日本大震災以降、原子力規制委員会が安全性を審査した上で稼動させるルールになっている。その審査が終わっていない以上、稼動させることはありえない。》
どうかな。これが厳冬期などで「電気が来ないとマジで大勢の人が凍死する」という状況になれば、そんなお花畑的なルールなど無視されて(あるいはあっという間に審査が終わって)原発稼動されるんじゃないの。
今回のブラックアウトは大量凍死が免れてるだけ季節的にはラッキーだったが、電気不足で搾乳機が動かずに乳牛がバタバタ死んでるというニュースも報道されている。そろそろ道民からは「原発を動かしてでも電気が欲しい」という声が上がってくるんじゃないか。
(ただし安倍政権も馬鹿ではないので、枝野さんや志位さんあたりが頭を下げて原発を動かしてくれと言ってこない限り泊の再稼動は認めないだろう、という読みはあるかもしれないが。)(2018/09/11 10:06)