9月6日3時8分頃、北海道で地震が発生した。
厚真町(あつまちょう)では震度7を観測するほどの大災害となった。
直後からテレビ各局は動き出したが、視聴者のテレビの見方も普段とは大きく異なった。特に通常なら大事件・大災害の際にはNHKが最も見られるが、この時は日本テレビが上回った。
発災から数時間、緊急報道の明暗はなぜ分かれたのかを追ってみた。
北海道胆振地方東部地震
9月6日3時8分頃、北海道胆振地方中東部を震源として、暫定値マグニチュード6.7の地震が発生した。
北海道では初めてとなる震度7を、厚真町で観測した。
他に胆振地方中東部では震度6強、石狩地方南部で震度6弱。人口195万の札幌市でも、区によって震度6弱・5強・5弱を記録するなど、広範囲で激しく揺れた。
この地震により、死者・負傷者が多数出た。倒壊家屋も相当数に上っている。また地震の影響で、北海道全土で約295万戸が停電した。阪神大震災(1995年)の約260万戸を超える史上最大規模となった。
地域により反応に違い
テレビ局の対応で、最も早かったのはNHKだった。
3時8分13秒に緊急地震速報が出た。
奇しくも『こころフォトスペシャル』という、東日本大震災の特番を放送している最中だった。
これに最も反応したのは、震度4前後と大きく揺れた青森だった。
インテージ社Media Gaugeが調べる接触率によれば、深夜にも関わらず1%から11.2%と11倍以上に急伸した。
ところが揺れを体感した人が少なかった岩手県では、接触率は3%ほどに留まった。
さらに揺れを全く体感しなかった東京・大阪・沖縄では、発災時の接触率はいずれも0.5%ほどしか上がっていない。どうやらスマホの緊急速報などは、深夜ではあまり認知されないようだ。
その後の朝8時までの動向では、青森・岩手は早くから数字がぐんぐん上がり、6時半頃に10%を超えた。沖縄や大阪の倍の数字となった。
9月6日を8月の平均値と比べると、地域差はよりハッキリする。
青森が最大で、岩手・東京の順に小さくなり、沖縄が最小だ。北海道から遠くになるほど心理的な距離も大きくなり、関心が小さくなっているようだ。
当然と言えば当然だが、テレビの見られ方は“自分事”かどうかが大きく影響する。大災害でも傾向は同じようだ。
各局の対応
次にNHKと民放各局との違いを見てみよう。
そもそも東京の民放各局は、緊急地震速報を出さなかった。
緊急地震速報は、地震発生時に初期微動をキャッチし、これから来る強い揺れ(主要動)を気象庁が瞬時に予測、警戒を呼びかけるもの。民放各局は、放送エリア内での揺れが予測された場合、速報スーパーで伝えることにしている。ところが今回は、激震地が北海道だったために出さなかったようだ。
ちなみに2011年3月11日の東日本大震災では、東北地方が震源だったが、東京も激震が予想されたために民放各局も緊急速報を出していた。
その50秒ほど後の3時9分2秒、NHKは地震情報を流した。
さらに30秒後に番組を中断し、特設ニュースを始めた。自動的に放送される緊急地震速報から1分20秒ほど。対応は迅速だったと言えよう。
民放の対応は、局によりバラつきがあった。
地震情報では、フジテレビが3時10分01秒と最速。2秒後に日本テレビ。その3秒後にテレビ朝日。さらに39秒後にテレビ東京と続いた。
ちなみにTBSはCM中だったためか、スーパーによる地震情報を出さなかった。
続いて速報体制。
一番早かったのは、NHKの1分32秒後に起動したTBS。次がNHKから4分後のテレ朝。その1秒後に日テレ。さらに1分40秒後がフジ。そして最後は、フジより40分ほど遅れたテレ東だった。しかも同局だけは短く特別ニュースを流し、再び通常編成に戻っていた。
テレビ局の初動と視聴者の反応
実はこうしたテレビ局毎の初動の違いは、視聴者のチャンネル選択に反映した。
初動で民放を圧倒したNHKは、最初の4分間で一定数の視聴者を集めている。
そして緊急ニュースの開始がNHKより1分半ほど遅れたが、TBSは当初4分間の接触率を失わずに済んだ。ところが他局の多くは、特設ニュース開始までに0.05~0.1%ほど失っている。
かつて日テレの氏家齊一郎会長は、「迅速にスタジオから緊急ニュースを始められない位なら、スーパーで速報を流すな。NHKに視聴者を獲られるだけだ」と話したことがある。
実際2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件や、2011年3月11日の東日本大震災では、初動の速さでNHKは視聴率を上げていた。
今回は午前3時での発災のために、東京では大きな数字とはならなかった。それでもスマホの緊急速報などで、NHKだけは視聴者を増やしていた。
その後の対応と接触率
地震情報の後は、札幌市からの中継・被災地の中継・ヘリコプターからの中継など続いた。
ここでもNHKが最速で、それぞれ3時32分・4時48分・5時02分となった。
これに対して、民放の札幌市内からの中継は、日テレが3時47分と民放の中では一番早かった。そしてフジ・TBS・テレ朝と続いた。
次に被災地からの中継も日テレが最速(NHKの38分後)。そしてテレ朝・TBS・フジの順となった。
さらにヘリ中継も、日テレがNHKの35分後でトップ。次にテレ朝・フジ・TBSだった。
以上のような初動の差と、日頃の番組の視聴習慣が相まってだろうが、NHK・日テレ・フジは接触率で激しいトップ争いを展開した。そしてテレ朝・TBSと続き、対応をほとんどしなかったテレ東は、接触率1%未満で低迷した。
CMや朝ドラなどの存在
これら一連の接触率推移で、興味深いポイントがある。
民放のCM、NHKの気象情報、そして朝ドラの存在だ。
まずCMで見ると、民放各局はCMにより、多少数字を失った。
例えば日テレは、6時台以降のCMで、最大0.3%ほど接触率を落とした。またフジも、0.2~0.3%ほどの減となっていた。
これらの影響で、逆にNHKは躍進した。
例えば6時35分からの10分間で、民放5局は6回CMを流し、単純合計で1%ほど接触率を失った。逆にNHKは0.9%ほど上げている。大災害が発生し、現在進行形で被害状況を伝える時、CMは視聴者が逃げる致命的なタイミングとなる。
ただしNHKにも接触率下落ポイントがあった。6時53分頃から始まった気象情報や交通情報だ。
この間に0.3%強の数字を失っている。こうした情報を必要としている人もいるのだろうが、「とにかく現場が見たい。状況を知りたい」という人が上回ったようだ。
そして最も数字が乱高下したのが、普段なら朝ドラが始まる8時前後。
通常7時50分台に数字が急伸するが、この日も1.5%ほど上昇した。いつも通りに朝ドラマを見たいと思った人が少なくなかったようだ。
ところが8時に朝ドラの休止が判明する。すると裏の民放5局は横ばいだったが、NHKは5分で2%も数字を失ってしまった。
NHKを凌駕した日テレ
実際に放送内容と接触率の動向を照合すると、各局の緊急報道の明暗がなぜ分かれたのか見えてくる。
そもそも大事件・大災害の際に最も視聴率をとるNHKは、今回に限っては発災直後しかその傾向はなかった。札幌市・被災地・ヘリコプターからの中継でも、民放より数十分早かったにも関わらず、NHKはトップではなかったのである。
6時16分頃まではトップグループだったが、ここから日テレに抜かれ始める。
まずは情報を並列的に長く紹介する伝え方。
6時11分にNHKは緊急地震速報を出し、その余震による各地の震度を2分ほど紹介した。さらにスタジオの大学教授と記者が、地震についての一般的な解説を始めた。その音声の背景として、被災地上空からのヘリの映像や地上での映像が重なるが、解説内容とは必ずしもシンクロしない。
加えて6時28~30分と6時53分~7時に気象情報など、地震以外の情報が入った。6時台は多くの人が起き始め、視聴率が右肩上がりになるのが一般的だ。ところがNHKの接触率は、こうしたコーナーで停滞した。
いっぽう日テレは、CM部分で下落することはあっても、基本的に7時台前半まで接触率を上げ続けた。ビビッドで分かりやすい伝え方が良かったようだ。
例えば6時11分過ぎの余震の際には、激しく揺れる天カメの映像をそのまま流した。崖崩れ現場のヘリ中継では、アナウンサーが現在進行形で状況を伝えていた。被災者の救出シーンなども、ライブで放送するよう心掛けていた。
さらにCM明けにも工夫が見られた。ほぼ毎回、映像を交え1~2分で、それまでに分かった被害状況の全貌を伝えていたのである。
実は筆者は2011年のアメリカ同時多発テロの際、時々刻々と事態が変わる緊急ニュースで、日テレがどんな工夫をしていたのかをインタビューしたことがある。
大事件の発生を知り次々に出局してくる職員に、ニュースの編責が事件発生からそれまでのダイジェストを、コンパクトに編集するよう各自に命じていたのである。
早く来た者には30分後の放送、少し遅れてきた人は50分という具合だった。この結果、同局のダイジェスト部分はよく見られ、特番は徐々に視聴率を上げて行った。
今回の報道の仕方は、明らかに当時と同じである。
結局6時20分頃までNHKと日テレの接触率は拮抗していたが、そこから差が出始めた。
6時25分には0.5%、30分には0.9%、そして7時20分で1.3%差となった。初動で上回ったNHKは、情報の提示の仕方で巻き返され、遂に逆転されてしまったのである。
各局の平時との差
それでも別のデータで分析すると、さらに異なる風景が見える。今年4~7月の平日平均と地震当日の接触率の比較だ。
これで見ると、NHKは平時と比べかなり見られていたことがわかる。やはり大事件・大災害に強いNHKは健在のようだ。
逆に日テレは、当日トップだったが、実は平時とほぼ同じだった。特に新たな視聴者を積み上げられていたわけではない。それでもフジ・テレ朝・TBSが平時より数字を落としているので、日テレの健闘は賞賛に値する。
既に触れたように、こまめに被害の最新情報をコンパクトに伝えている点が、他局とは違っていた。
またTBSやテレ朝では、NHKと似た課題が散見された。ヘリからの空撮映像と、スタジオでの情報がシンクロしていなかったり、TBSに至っては上空からのリポートがなかったりした点だ。
視聴者のニーズに寄り添っていないと、視聴者はそのチャンネルから離脱していく。その結果が、7時25分時点での各局の接触率に表れている。
トップが日テレの11.1%、2位NHK9.7%、3位フジ8.7%、4位テレ朝4.8%、そして5位がTBSの3.0%だ。
緊急報道は人々の安心安全を守る大切な仕事だ。
それでも伝え方の違いで、見られ方に大きな差が生ずる。各局の接触率動向を見ていると、まだまだ工夫の余地があるように思える。