善意の拡散が混乱を生む 〜 デマ情報の拡散と災害時のSNSのあり方

梅雨前線の活発化による大記録的豪雨の影響で、9日時点で120人以上の犠牲者を出し、西日本の広範囲の地域でさらに被害は拡大している。

災害時にツイッターなどのSNSは非常に有用な情報源となる一方で、これまでも、そして今回もやはりデマ情報の拡散が散見された。

「レスキュー隊の服を来た泥棒が大量にいる」

「自衛隊の服(迷彩服)を来た泥棒を見た」

「大阪ナンバーのセレナ・白いパジェロは泥棒軍団です」

「外国人の窃盗団が徘徊している」

窃盗集団の話は次第に大きくなり、大阪ナンバーの車、倉敷ナンバーの車、岡山ナンバーの車の実際の番号まで記載された投稿が拡散されたり、ツイッターに留まらず、ネット掲示板やバイラル系のネットメディアなどにも広がりを見せた。ある投稿は数万リツイートまで拡散されている。

スペクティ(Spectee)社で、消防・警察・地元自治体に確認したところ、9日15時の時点で窃盗被害は報告されていないという。現在出回っているこれらの窃盗の情報はほぼ全て「デマ」と言っていいだろう。

< ツイッターに投稿されたデマ情報 >

※広島県警はホームページで同情報は「デマ」として、公式に発表している。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/318287.pdf


善意の拡散により急速にデマ情報が広がる

これらのデマ情報は、それを発信した人の罪が重いのは当然だが、その情報を拡散した人も被災地の混乱に拍車をかける一因となっているのである。

しかし、単純に拡散した人が悪いと言えるだろうか?

あるデマ情報を「本当だ」と信じて拡散した人の多くは、恐らく被災地の人が窃盗などの被害に合ったら大変だと、「善意」の気持ちから拡散しているであろう。

もし本当にそのようなことが起きていたら?・・・善意の気持ちや親切心があればあるほど、人はそれを伝えたい・教えてあげて被災地の人を助けたいと思うのは当然である。

実はこうした「善意の拡散」によりデマ情報は瞬く間に広がるのである。デマに便乗して(面白がって)情報を拡散する人はごく僅かであり、そこまで拡散力はない。


救助要請も「善意の拡散」によりかき消される

今回の災害は救助が難航していることから、「#救助」「#救助要請」と言った救助を呼びかける投稿もまた多数あがっている。本当の救助要請もあれば、「ちょっと怪しい」と思えるようなものもかなりあった。

この救助要請ツイートも難しい部分がある。「#救助」「#救助要請」などのハッシュタグ(#)投稿が大量に発生し、リツイートで拡散された結果、本当に救助を要請しているのは誰なのかを判別するのが困難になっている。(スペクティ社では急遽オリジナル投稿を判別し配信するアルゴリズムを入れ救助要請している本人を特定する配信に切り替えた)

当然、拡散されないと気づかれないという心配もあるだろうが、ツイッターやインスタグラムの場合ハッシュタグ(#)が付いていれば、それだけを抽出することができるので、あえて拡散しなくても投稿を追うことはできる。しかし、現時点では自治体や消防・警察で、検討は進んではいるものの、ツイッターやインスタグラムを有効な救助要請手段として活用できているところは殆ど皆無であるため、「#救助」「#救助要請」の有効性はまだそれほど高いとは言えないだろう。

結局、救助要請ツイートもリツイートで拡散すればするほど、実際の要救助者の判別が困難になり、またデマ情報と混ざり、とにかく有象無象の情報により混乱を増すだけの結果となってしまう。


一切リツイートしない・拡散しないというのが現時点でもっとも有効

デマ情報も、「もし事実なら大変だ」と拡散したくなる気持ちはよくわかる。救助要請も早く誰かに知らせたいという気持ちもわかる。ただ、現時点では災害時にリツイートで情報を拡散することは有効な情報伝達手段とは言えない。

その気持はグッと抑えて、必要であればSNSで拡散するのではなく、消防や警察、該当地域の災害対策本部等に伝達し対応してもらうのが一番良い方法である。善意の気持ちが返って被災地の混乱につながってしまっては元も子もない。


■ スペクティ(Spectee)について

株式会社Spectee(スペクティ)は、SNSや公共データなどをベースに事件・事故・災害、ネット上での話題や世界の出来事などのニュース関連情報をリアルタイムに覚知し報道機関向けにいち早くニュースの寒冷情報や現場映像などを配信するサービスを展開しています。現在報道機関を中心に国内で約130 社以上、世界40ヵ国以上で採⽤されています。

詳細は、www.spectee.co.jp をご参照ください。


■ 筆者について

村上 建治郎(むらかみ けんじろう)

1974年生まれ、東京都出身。ネバダ大学理学部物理学科を卒業。ソニー子会社に入社し、動画配信やオンラインゲームのソニーのデバイスと組み合わせた企画販売をする仕事に従事。2007年シスコシステムズに転職し、法人営業を担当。シスコ在職中の2009年に早稲田大学ビジネススクールに入学し、2011年3月に修了 MBA。2011年末にシスコを退職し起業。現在、株式会社Spectee(スペクティ)代表取締役CEO。