個人データを消費者に取り戻す戦いが始まった

情報銀行、ベンチャーの挑戦

2018年9月11日(火)

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情報の「削除」にも部分対応

 パスピットにはさらにユニークな機能が追加される予定だ。それは「情報の削除」に、部分的に対応するものだ。

 情報の「削除」は「開示」や「持ち出し」よりもハードルが高い。例えば、あるSNSサービスに情報を登録すると、その企業が関わるゲームや電子書籍のアプリなど他のサービスにも情報はコピーして登録される。大元のSNSに登録された情報は削除することができても、コピーされた情報まで全て消すことは難しいのだ。情報が社外にも提供されている場合はさらに削除は難しくなるし、もしもサイバー攻撃や人為ミスで情報が流出した場合は削除はまず不可能だ。

 しかし、拡散・流出した情報と、ユーザー本人のリンクを切ってしまえばどうだろうか。個人を特定できるメールアドレスや住所と結びつかなければ、購買履歴などの情報が拡散しても、ユーザー本人へのダメージは少ない。

 そこで、データサインは「トークン化」と呼ばれる技術(上の図)を開発し、特許を申請している。ユーザーの個人情報から「仮のデータ」を自動生成する機能だ。例えば、ECサイトに登録する際、パスピットに保管されている本来のメールアドレス、電話番号、住所、クレジットカード番号から、「仮のデータ」が発行され、ECサイトに登録される。ECサイト側からのメール、電話、宅配便、クレジットカードの料金請求は「仮のデータ」に基づいて送られるが、パスピットがそれを「本来のデータ」へと転送してくれる。いわばネット上の私書箱だ。

 ポイントは「仮のデータ」は登録するサービスごとに生成されるということだ。使わなくなったり情報漏洩を起こしたりしたサービスについては、そのサービスの「仮のデータ」から「本来のデータ」への転送機能を無効化してしまえばいい。そうすれば、「仮のデータ」が拡散しても、ユーザーと紐づけられることはない。「削除」に近い権利をユーザーは得られることになる。

 上の表を見てほしい。日本の個人情報保護法、世界で最も厳しいとされるEU(欧州連合)の情報規制、一般データ保護規則(GDPR、今年5月施行)の「開示」「持ち出し」「削除」への対応状況を示したものだ。

 「開示」は保護法にもGDPRにも権利として明記されている。しかし、少なくとも国内では企業が十分に対応していないのは先述した通りだ。これは個人情報保護委員会の落ち度でもあるのだが、詳細はいずれ別の記事で詳しく解説したいと思う。

 「持ち出し」は「データポータビリティ権」という形で、GDPRにのみ記載されており「対象企業はその対応に四苦八苦しているところだ」(個人情報に詳しいコンサルタント)。

 「削除」について、個人情報保護法は、内容が事実でない時、あるいは法に違反して情報が取得・取り扱いされた時にしかできない。ユーザーが任意で情報をコントロールすることはできない。GDPRの削除権の内容については専門家によって評価が分かれる。ユーザーが情報提供の同意を撤回した時などに行使が可能とされているが、例外規定が複雑で「実質的には日本と変わらない限定的なものだ」(ある弁護士)との声もある。

 一方、これまで紹介したようにパスピットの機能は、「持ち出し」と「削除」の機能を部分的に持っていて、「開示」を促す効果もある。その目指す情報保護体制は、個人情報保護法はもとより、GDPRよりも半歩先を行っている点がある。

 もちろん課題は多い。特に懸念されるのがサイバー攻撃だろう。IDとパスワードが一括管理されるパスピットのサーバーは、ハッカーからすれば宝の山だ。「通信経路にもデータベースにも強固な暗号機能をつけている」(太田社長)が、暗号化の対抗策も日進月歩で進んでおり、ハッカーから集中的に狙われても対抗できるだけのセキュリティー投資を続けていく必要があるだろう。

 個人のデータを売買するエコシステムはもはや生活と切り離せないぐらい浸透してしまっている。この記事だって、データのエコシステム無しには世に出ない。必要なのはシステムを壊すことではなく、その操縦桿を消費者が握ることではないだろうか。

 これまで無頓着に情報を切り売りしてきた消費者にも、消費者にろくな説明をしないままエコシステムを運営してきたネット事業者にも問題はあった。しかし、情報銀行を通して消費者はデータの価値への理解を深めることができる。ネット事業者は齟齬なく消費者と情報の売買契約を結ぶことができるようになる。つまり、炎上被害を受けるリスクが減る。パスピットのようにユーザー志向の情報銀行が普及すれば、ウェブの父が抱く懸念への対抗策になるのではないだろうか。

コメント3件コメント/レビュー

98歳の老母と介護のために同居を始めて4年になるが、来た時から母宛の『迷惑郵便』が毎日10通前後配達されてくる。キッカケが何だったのか知らないが、『XXが当選、おめでとうございます』という類の商法に引っかかった事があるらしく、本人は恥じて事実を語らないが、今月には99歳になるというのに郵便は止まることがない。母が亡くなっても送り続けるのではないかと嫌になる。送付元が海外にあるようなので、止めさせることも出来ない。今更意味がないのに、母は郵便の宛先と自分の名前の部分を切り取って細かく刻んでゴミ箱に捨てて残りはリサイクルに回している。当初は全てゴミ箱に入れていたのだが、『ゴミを減らす』為に私が直させた。『迷惑メール』は電子メールに限ったことではないのだ。多分、射幸心の強い人の個人情報は1件あたりの単価も高く闇取引されているのだろう。迷惑電話も多い。固定電話の切り替え勧誘や、インターネット回線の勧誘。而も、相手は私が最近新しい相手に契約変更したばかりなのに、どの会社とどの様な契約をしているかまで把握した上で電話してくるのだ。前の契約先とも関係ない別の業者への切り替えを請け負う『契約下請け』とでもいう存在なのだろう。まさか今現在契約している会社が意識的に個人情報を漏らすはずがないので、社内で情報を入手して外部に売っている『犯罪者』がいるのだろう。余りしつこいと、相手に『私の電話番号は誰から聞いたのか?』と問いただすこともあるが、相手にとっては想定質問のようで迷うこともなく受け答えする。同じ業者への切り替えを提案する電話は人が変わって何回も掛かってくるので、同じ電話番号一覧を複数の人間に配って一見契約が取れれば幾ら、という契約になっているのだと思われる。一度断っても繰り返されると折れる人も少なくないようだ。私の場合は腹を立ててしまうが、私の兄は根負けして『料金が本当に安くなるなら』という前提で切り替えに応じたそうだ。確かに月々の料金は下がっているそうだ。そういう意味では、料金に関して嘘は付けないようだ。個人情報は恐らく公然と売買されている。それらを摘発したら執行猶予のない禁固刑にでもしないと無くなることはない。(2018/09/11 09:07)

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「個人データを消費者に取り戻す戦いが始まった」の著者

寺岡 篤志

寺岡 篤志(てらおか・あつし)

日経ビジネス記者

日本経済新聞で社会部、東日本大震災の専任担当などを経て2016年4月から日経ビジネス記者。自動車、化学などが担当分野。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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98歳の老母と介護のために同居を始めて4年になるが、来た時から母宛の『迷惑郵便』が毎日10通前後配達されてくる。キッカケが何だったのか知らないが、『XXが当選、おめでとうございます』という類の商法に引っかかった事があるらしく、本人は恥じて事実を語らないが、今月には99歳になるというのに郵便は止まることがない。母が亡くなっても送り続けるのではないかと嫌になる。送付元が海外にあるようなので、止めさせることも出来ない。今更意味がないのに、母は郵便の宛先と自分の名前の部分を切り取って細かく刻んでゴミ箱に捨てて残りはリサイクルに回している。当初は全てゴミ箱に入れていたのだが、『ゴミを減らす』為に私が直させた。『迷惑メール』は電子メールに限ったことではないのだ。多分、射幸心の強い人の個人情報は1件あたりの単価も高く闇取引されているのだろう。迷惑電話も多い。固定電話の切り替え勧誘や、インターネット回線の勧誘。而も、相手は私が最近新しい相手に契約変更したばかりなのに、どの会社とどの様な契約をしているかまで把握した上で電話してくるのだ。前の契約先とも関係ない別の業者への切り替えを請け負う『契約下請け』とでもいう存在なのだろう。まさか今現在契約している会社が意識的に個人情報を漏らすはずがないので、社内で情報を入手して外部に売っている『犯罪者』がいるのだろう。余りしつこいと、相手に『私の電話番号は誰から聞いたのか?』と問いただすこともあるが、相手にとっては想定質問のようで迷うこともなく受け答えする。同じ業者への切り替えを提案する電話は人が変わって何回も掛かってくるので、同じ電話番号一覧を複数の人間に配って一見契約が取れれば幾ら、という契約になっているのだと思われる。一度断っても繰り返されると折れる人も少なくないようだ。私の場合は腹を立ててしまうが、私の兄は根負けして『料金が本当に安くなるなら』という前提で切り替えに応じたそうだ。確かに月々の料金は下がっているそうだ。そういう意味では、料金に関して嘘は付けないようだ。個人情報は恐らく公然と売買されている。それらを摘発したら執行猶予のない禁固刑にでもしないと無くなることはない。(2018/09/11 09:07)

すばらしいアイデアです。passpitにとっては非常によいビジネスモデルですね。しかし、個人ユーザーにとってどうでしょう? paspitが自分の情報の門番のようなことをしてくれて安心と思っても、この会社が他の会社に買収されれば安心は砂上の楼閣。(2018/09/11 07:05)

“消費者に取り戻す”というのは過剰表現だと考えます。
そもそもネットとは、デジタルデータの“コピーの連鎖”で成り立っている。
データを取り戻すことなど、出来るはずがないでしょう。
その原理を知らない、意識していない人が余りに多すぎる。
暗号、トークン、データ加工、これらも結局最後は解読しなければならない。
その解読する為のデータも、ネットワーク、
つまりコピーの連鎖に繋がなければならない。
ネットを使うという事は、どこかで“真のデータ”が流れ続けているんです。

個人情報を扱う規制で“データの削除”を規定できないのは、
一度でもネットに繋がったデータは、
様々なデバイスに際限なくコピーされ続けるので、
削除も、削除確認も、事実上不可能だからです。
ネットを使い続けるなら、情報を流し続ける現状を受け入れるしかありません。
情報を流す事を、無理に制限しようとしたり、無闇に怯えるよりも、
流された情報がどう使われる(た)かを、常に意識するべきです。

誰かや何かに預けたまま放置する。規定や規約を鵜呑みにする。
そもそも規約や規定を読まない。“騙される事は愚かな事”と考える。
これらは全て、自分の情報=ネット上の自分自身そのものに、
無頓着で無防備である、という事です。(2018/09/11 03:25)

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