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2018年09月10日 17時32分

働き方改革で置き去りのトラック業界、運転手「過労死」で労災申請…残業150時間超、睡眠1時間半の日も

働き方改革で置き去りのトラック業界、運転手「過労死」で労災申請…残業150時間超、睡眠1時間半の日も
夫の写真と共に会見に臨んだ妻(2018年9月10日、厚労省)

長時間労働と著しい睡眠不足でトラック運転手が過労死したとして、遺族の妻が、川口労働基準監督署(埼玉県)に対し労災申請をした。申請は9月6日付。妻と代理人弁護士が9月10日、東京・霞が関の厚生労働省で会見し明らかにした。妻は「悔やんでも悔やみきれない。当事者になって初めて過労死遺族の苦しさがわかった」と言葉を詰まらせながら語った。

●配送先で意識不明に

亡くなった運転手は武田正臣さん(52)。正臣さんは配送先の物流センターで意識を失い、今年4月28日、致死性不整脈で死亡した。運送業者「ライフサポート・エガワ」(東京都足立区)に1991年に正社員として入社。埼玉県内の同社戸田センターで2014年9月ごろから大型トラックの運転手となり、スーパーで扱う製菓類の運送を任されていた。

1日の勤務の流れはこうだった。午前2時半までに出勤し、荷物の積み込みを1時間から1時間半程度行った後に、タイムカードに出勤時間を記録してから配送に出る。配送業務を終えて戻った後は集荷してきた荷物の荷下ろしをして、タイムカードで退勤時間を記録。通常は午後5時台に帰れたが、繁忙期は午後11時ごろの帰宅となることもあった。

●亡くなる1カ月前の時間外労働「158時間」

代理人弁護士が会社側に勤務実態を問い合わせたところ、出勤時間を打刻する前に荷物を積む「朝積」(あさづみ)や退勤時間を打刻した後に翌日の荷物を積んでおく「宵積」(よいづみ)といった行為を、会社指示で武田さんがさせられていたことが判明したという。長い時で、2時間ほどに及ぶこともあったとしている。

さらに、亡くなったゴールデンウィーク前などの繁忙期は、1時間半ほどの睡眠しか取れない状況。代理人弁護士が、会社作成の勤怠記録や正臣さんが出退勤時に妻のちづるさんに送ったLINEメッセージの送信時刻などから計算したところ、亡くなる1カ月前の時間外労働時間は158時間35分、2カ月前が139時間53分、3カ月前が148時間50分にのぼっていたとう。事実なら、過労死ライン(月80時間)を大幅に超えていたことになる。

会見で、ちづるさんは「真面目で一生懸命働く社員が亡くなってしまう社会でなくなることを強く望む。会社にとってはいくらでも代わりがいる、いちドライバーにすぎないかもしれないが、それぞれの家族にとってはたった一人のかけがえのない家族だ」と話した。

●二つの法人格を「濫用」

また代理人弁護士は、エガワ社が社会保険料の負担を回避することと、長時間労働の実態を隠ぺいすることを狙って、「二つの法人格を濫用していた」と問題視している。

エガワ社では2015年3月、別会社であるエルエスサービスを設立。エガワ社が運転業務を担い、エルエス社は運転以外の業務(荷積・荷降ろしなど)を担うよう、二つの会社で役割を分担する形をとった。(この形式は2018年4月に廃止)

ただ代理人弁護士によれば、実際は、指揮命令や賃金支払いはエガワ社が実施しており、エルエス社に独立した活動実態は確認されず、人員もエガワ社が送り込んだメンバーで構成されていた。蟹江鬼太郎弁護士は「社会保険料の負担や労働時間規制の回避・潜脱などの不当な目的のために、エルエス社の法人格を濫用したものと評価せざるをえない」と指摘した。

6月に成立した働き方改革関連法では、運送業に時間外労働の上限規制を適用することは「猶予」された。川人博弁護士はこの点に触れ、「今からでも運送業の労働時間規制について、直ちに規制を強化するべき。本件のような、法人を二つ作ることによって労働時間を過小に見せるようなことまで行われている。政府は深刻な状況を認識すべきだ」と話した。

●エガワ社「対応できる者が会議中」

エガワ社は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「対応できる者が会議中で答えられない」(総務担当者)とした。

(弁護士ドットコムニュース)

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