今月のマネーハックのテーマは「共働き」です。人生100年時代をにらみ、1人で生涯賃金3億円を稼ぐのは大変であっても、正社員夫婦の共働きであれば合計4億円以上を稼ぐのは難しいことではありません。場合によっては夫婦で5億円以上を稼げることもあります。
しかし、その前提は「共働きを続ける」ということです。結婚前の若いカップルや子どもを授かって喜ぶ夫婦はその鉄則を忘れないことが大切です。
■女性が「寿退社」すると家計が苦しくなる
男女を問わず、誰しもが仕事を早く辞められるものなら辞めたいと考えているはずです。私だって、仕事せず暮らしていけるならそうなりたいと思います。
会社勤めのカップルにありがちなのが結婚を機に女性が退職する、いわゆる「寿退社」です。もし、結婚直前のカップルがこのコラムを読んでいたとしたら、「男性は寿退社を容認しない」「女性は寿退社はあくまで憧れの世界と心得る」ことをお勧めします。
男性は女性の寿退社を男の甲斐(かい)性と考える必要はありません。もはやそんな時代ではありませんし、寿退社を認めると男性が家計の全てを稼ぎ出し続けなければならない重い責任を負ってしまいます。
女性は「寿退社して憧れの専業主婦になる」という願望があるかもしれませんが、憧れはあくまで憧れと考えるべきでしょう。女性が寿退社すると家計が確実に苦しくなります。男性1人分の年収で2人暮らしするのですから、独身時代より小遣いも生活水準もグレードダウンしてしまいます。
まずは「結婚しても働き続ける」ことを2人が選択することが重要です。
■一度辞めると正社員の座を取り戻すのは苦労
さらに、結婚してしばらくして子どもを授かる、いわゆる「おめでた」があったとしましょう。すぐに「おめでたを機に退職」ということが頭をよぎります。
しかし、この場合も、妊娠や出産で健康状況に深刻な問題が生じない限り、仕事を辞めず、働き続けることをお勧めします。というのも、正社員の座を手放すことほど残念なことはないからです。
日本では特に、企業側からの一方的な解雇が厳しく制限されています。自ら辞めるのは有利な条件で転職するときに限るべきでしょう。
子育て前後を考えても3つの理由で「おめでた退職」は損をします。
(1)一度辞めて正社員になろうと思っても苦労する――
いったん辞めてしまうと、正社員の座を取り戻すのは難しいものです。昨今の人手不足があっても「子育てのため時短勤務前提」となると新規採用の面接で苦労するでしょう。それなら、退社しないで産休を選び、そのまま復職するのが得策です。会社は産休からの復職を拒んだり、産休を理由に人事評価を下げたりする不当な行為はできません。
(2)産休・育休期間は給付金がもらえる――
健康保険証を持つ正社員なら産休期間に出産手当金として給与の3分の2程度を約100日受けられます。また、育休期間は雇用保険から育児休業給付金を最初の半年は給与の3分の2相当、それ以降は復職まで2分の1相当をもらえます(最大で子が2歳になるまで)。これは正社員ならではのメリットであり、手放すのはもったいなさすぎます。
(3)復職に向けた「保活」も有利になる――
子どもを保育園に入れるべく努力する、いわゆる「保活」の面でも育休中の正社員の方が有利といわれます。「待機児童」が社会問題化している中では、正社員の子どもであっても簡単には入園できない状況はあるとは思いますが、専業主婦のママが「保育園が決まったら就活します」といっても受け入れられないとはよく聞きます。「おめでた退職」はもしかすると大損かもしれないのです。
■共働きを続けるカギは男性が変わること
さて、ここまで「結婚」「出産(育児)」を乗り越えて正社員として女性は働き続けた方がいいと指摘しましたが、そのための前提条件は「女性の頑張り」ではありません。
すでに女性は短時間勤務でも男性同様に働き、家庭では1人で子育てを担う「ワンオペ育児」で頑張っています。最も大事なことは「男が変わる」ということです。
結婚しても妻に共働きを続けてもらい、子どもが産まれても共働きを維持してもらいたいのであれば、男も変わらなければなりません。
厚生労働省の「21世紀成年者縦断調査」の最新報告を見ると、男女ともに若い世代(独身者)の多くが「家事」「育児」について「夫婦いずれも同様に責任をもつ家庭」という家庭観を描いています。
あなたの会社の役員や管理職の世代は、妻は専業主婦という世代ですから、「共働きで家事育児は分担する」という考えを理解していないかもしれません。
しかし、これからの世代は夫婦が仕事も家事も育児も共同で取り組むことが常識です。今後は夫婦で合計年収1000万円あるいはそれ以上を目指すことができるようになるでしょう。
つまり育児を積極的にこなす「イクメン」は当然だと考えておくべきですし、家事に熱心に取り組む「家事メン」にもならなければいけません。夫婦で共働きを続ける先には、ダブルの退職金とダブルの厚生年金を手に入れる、豊かな老後を得ることにもつながるのです。
マネーハックとは ハックは「術」の意味で、「マネー」と「ライフハック」を合わせた造語。ライフハックはIT(情報技術)スキルを使って仕事を効率よくこなすちょっとしたコツを指し、2004年に米国のテクニカルライターが考案した言葉とされる。マネーハックはライフハックの手法を、マネーの世界に応用して人生を豊かにしようというノウハウや知恵のこと。
山崎俊輔 フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)など。http://financialwisdom.jp 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。