シャルティアが精神支配されたので星に願ったら、うぇぶ版シャルティアになったでござる 作:須達龍也
<< 前の話 次の話 >>
でも、筆が乗らなくなったときの為に、ストックしておきたい。
ジレンマですね。
「アインズ様に、大事なご報告があります」
その声音には一切の遊びがない、真剣さ、必死さがあった。
「わかった。アルベド、ガルガンチュアを除く全ての守護者達に連絡を取れ、玉座の間への召集をかける。大至急だ」
「はっ」
シャルティアと同様に、アルベドも片膝をついて主人の命令を賜った。
「…シャルティア、玉座にてその報告を聞こう」
ナザリック地下大墳墓、その玉座の間にて、守護者及び守護者統括、そして偉大なる支配者アインズ・ウール・ゴウン、全員が勢ぞろいをしていた。
玉座にアインズが座り、その隣にアルベドが立つ。そこはいつもどおりだった。
ただ、いつもと違うのは、それに相対する形でいるべき守護者達の立ち位置だった。
第五階層守護者コキュートス、第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレ、第七階層守護者デミウルゴス、第八階層守護者ヴィクティム、更には執事セバス・チャンも招集を受けており、同様にその立ち位置は、アインズとアルベドの一段下に、いつもとは逆に同じ向きで立っていた。
それに相対する形で片膝を付き、頭を下げて沙汰を待っているのは、第一から第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン、ただ一人であった。
最初はシャルティアのその…罪人のような…配置に、難色を感じていたアインズであったが、ある事実を知ってからはやむなしと思っていた。
その事実とは、未だに「シャルティア・ブラッドフォールン」の名前が黒字で表示されているという事であった。
「では、シャルティアから話を聞く前に、状況を確認しよう。アルベド、説明を」
「はっ」
アルベドから、淡々と状況が報告される。
ある任務を受けて、シャルティアがナザリックから出たこと。
その道中は途中まで、セバスとソリュシャンと同じであったこと。
予定通りに盗賊から襲撃があった場所で、セバス達と別れたこと。
その後、連絡が途絶えたこと。
一日後、アルベドがコンソールを確認したところ、「シャルティア・ブラッドフォールン」の名前が黒字で表示されていたこと。
ニグレドの探知魔法により、シャルティアの位置が特定されたこと。
精神支配を受けていると思えるように、シャルティアに意思を感じなかったこと。
アインズの手により、超位魔法<星に願いを>が使用され、シャルティアより反応が帰るようになったこと。
「…ただ、現在においてもシャルティアの名前は黒字のままです」
ザワリ…と、守護者達から動揺の気配が感じられた。
それは、精神支配無効であるはずのシャルティアが精神支配を受けたことに対する動揺であり、また現在いつも通りのように見えるシャルティアが、未だに精神支配を受けているらしいことへの動揺でもあった。
「さて、シャルティアの話を聞きたい。わかる範囲で構わないから報告してくれ」
「わかりました。…ですが、その前に」
ゴトリと音を立てて、シャルティアの前にアイテムが置かれる。
シャルティアの装備から外され、未所持アイテムとして、目の前に現れたのだろうと推測できた。
「これらはペロロンチーノ様より賜った武装とアイテムでございます。アインズ様に反抗する意思などないことを示すと共に…」
シャルティアが言葉を区切る。
「…死を賜る場合には、無抵抗で承るつもりであることを示したいと存じます」
いつもの間違った廓言葉を使わない、シャルティア本気の言葉であった。
「了解した。では、報告…いや、セバス達と別れた後の”記憶”を聞こう」
「わかりました」
シャルティアから淡々とその記憶が報告される。
盗賊団の一人を下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)にしたこと。
盗賊団のアジトに到着したこと。その際に下位吸血鬼は使い潰したこと。
アジト内で「ブレイン」なる名前の武技使いと戦ったこと。ただその実力はたいしたことはなかったこと。
血の狂乱が発動し、盗賊団のアジトを潰したこと。その際にブレインに逃げられたこと。
冒険者の一隊が現れ、交戦したこと。
赤毛の「ブリタ」なる女の冒険者に投げつけられたポーションでダメージを受けたこと。その際に血の狂乱が解けたこと。
その女に<魅了(チャーム)>の魔法をかけ、情報を得たこと。その際に既に一人のレンジャーに逃げられていたこと。
レンジャー及びブレインを捜索する為に眷属を放ったこと。
森の中で眷属たちが消滅させられたこと。その場には十二人の人間がいたこと。
その十二人の男女の装備が破格であったこと。その強さもこれまで見てきたこの世界の人間にしては強いこと。更には、その隊長格は戦闘メイド(プレアデス)以上であったこと。
そいつらがなんらかのアイテムを使用しようとしたこと。老婆がまとったそのアイテムは龍の意匠がこらされたワンピースのようなものだったこと。そのアイテムが恐ろしい力を秘めているように感じたこと。精神支配を受けたと感じたこと。清浄投擲槍で老婆をそれを守ろうとする盾を持つ男ごと貫いたこと。
「…そこで、”こちら”の記憶は終わっております」
シャルティアが変な表現で、記憶の報告を締めた。ただ残念ながら、アインズはそこに気付かなかった。
(龍の意匠のワンピース…チャイナ服か? それって、世界級アイテムの”傾城傾国”じゃないのか? それなら、精神支配無効能力を持つアンデッドが精神支配されたことも説明できる)
気付かなかったというより、別のことに気が取られていた。
しかし、それも仕方がないと言えた。
世界級アイテムを持つ存在がいるという脅威。
そして、その存在に気付けたという幸運。
更に、向こうが把握しているのは、ナザリックでなく、シャルティア個人…それも強力ではあるが野良吸血鬼を偶々の遭遇戦で対処したという程度、情報戦でそいつらより上であるという超幸運。
「…くく、くっくっく…」
「…アインズ様?」
「…いやいや、偶々そんな奴らと接敵し、精神支配までされてしまったシャルティアには悪いが、我々にとっては悪くない…いや、優位に立てたと思ってな」
おおーっと、玉座の間にさすアイな空気が流れる。
「無論、シャルティアにこのような目に合わせた連中には、しかるべき報いを与える。
ただ、そのような存在を考えずに任務を与えたのは私のミスだ。すまなかったな、シャルティア」
「いえ、滅相もございません」
アインズからの謝罪に、シャルティアが頭を下げたまま答える。
「これらのシャルティアからもたらされた情報は、我々ナザリックにはとても重要なものだ。罰などとはとんでもない。望むままの褒章を与えるべきことだろう」
上機嫌でアインズがそう言った。
そのアインズの言葉に、アウラやマーレと言った一部の守護者達の雰囲気が緩む。
ただ、一部の守護者…アルベドにデミウルゴスの雰囲気は緩まない。むしろ、緊張感は増すばかりだった。
「…世界級アイテムの効果は、超位魔法では打ち消せない」
そう、わからないのは、今のシャルティアの状態である。
世界級アイテム”傾城傾国”の効果は<星に願いを>では打ち消せない。事実、打ち消せていないことを、黒字のシャルティア・ブラッドフォールンの名前が示している。
だが、今のシャルティアは、いつも通りにしか見えない。そしてそれが、理解できない。
「アインズ様に申し上げたかった大事な報告、それは、これからしたいことなのです」
「なに?」
これまでにもたらされたシャルティアの報告は、非常に有用で有益で、極めて大事な報告だった。それよりも大事な報告とは一体…
「わた…いえ、妾はうぇぶ版のシャルティア・ブラッドフォールンでありんす」
これで、プロローグ部分が終了です。
というか、ここまでの2話分で、タイトルと同じ情報量という…
…なん、だと…