「アイデアの出し方」をいくつ知っていますか?
仕事はもちろんのこと私生活でも何かと必要になる「アイデア力」。しかし必要なのはわかっていても、なかなかアイデアが浮かんでこないという人も多いのではないでしょうか。そんなときに知っておきたいのが、古今東西で確立されてきたアイデアの出し方です。ここでは古今東西で確立、実践されてきたアイデアを生み出すための方法を全部で9つ紹介します。
アイデアを出したいなら、何よりもまず「寝る」
アイデアの出し方を知る前に、まずやっておくべきこと。それは寝ることです。カナダ・オンタリオ州のウェスタン大学の研究チームのテスト実験によれば、睡眠不足の人の脳は著しくパフォーマンスが下がっており、意思決定や問題解決、記憶を司る前頭葉と頭頂葉の活動量が大きく低下することが示唆されています。
アイデアは無意識下のものも含めた記憶から生み出されますから、その機能を司る脳の部位の活動量が下がるということは、それだけアイデアも出てこなくなるということです。
そうは言われても「眠る時間がない」「寝つきが悪い」という人も多いのではないでしょうか。実際、日本人の多くが睡眠不足に悩まされていることが、様々なアンケートでも明らかにされています。
そのような人は寝る前10分に睡眠改善のための自分ルールを決めてみたり、睡眠計などを使った睡眠スケジュールの管理や、マットレスの買い替え、睡眠のための食事管理など睡眠改善に効果的な対策を試してみたりしましょう。どうしても夜に睡眠時間が確保できないという場合は、20分前後の昼寝(パワーナップ)を取り入れるのも効果的です。
どんなに効果的なアイデアの出し方を知っていたとしても、睡眠不足で脳のパフォーマンスが下がっている状態では、求めているようなアイデアを思いつくことはできません。本気でアイデアを出したいと願うなら、何よりもまず睡眠を改善するところから始めましょう。
古今東西「アイデアの出し方」9選
以下では古今東西で確立・実践されてきたアイデアの出し方のうち、特に取り入れやすい9個の方法を紹介します。しかし、もしかするといきなり仕事に使うのが難しく感じるものもあるかもしれません。その場合は日常生活などでテストしてみて、方法に慣れてから仕事に使ってみましょう。
●不満や不愉快なことを書き出す
スタンフォード大学名誉教授であり、1966年からメカニカルデザイン、プロダクトデザインの講義を担当するジェイムズ・L・アダムスは自著の中で、不満や不愉快なこと(バグ)を書き出すことで気分を切り替える「バグリスト」という方法を紹介しています。この方法はアイデアを出そうにも、バグによるイライラでアイデアを考えるどころではない時に有効です。
やり方は非常に簡単です。まず紙やノート、パソコンのテキストエディタを用意します。スマホなどの機能を使って10分のタイマーをセットしたら、不満や不愉快なこと、嫌なことを仕事や私生活を問わずひたすら書き出していきます。10分経ったら手を止めます。終わって気分がすっきりしたら、中断していたアイデア出しの作業に戻る。これだけです。
しかしここで書き出したバグから、アイデア出しの作業を進めることも可能です。なぜなら不満や不愉快なことはすなわち課題であり、その課題を解決する方法こそが今の状況を変えるアイデアになり得るからです。
この際のポイントは、解決するべきバグの選別基準です。一つは自分がやるべき仕事に関係のあるバグを選ぶこと。例えば新製品のアイデアを考える際、既存の製品に対して抱く不満やイラつきなどのバグを書き出していけば、「このバグを解決する製品とは、どんな製品か」と考えるだけでアイデア出しの作業を一歩進められます。
もう一つはできるだけ大きなバグを選ぶことです。なぜなら小さな問題よりも、ものの見方に根本的な変更をもたらす大きな問題の方が、解決した際の効果が高いだけでなく、糸口さえ見出せば意外と解決しやすいからです。例えば天才数学者ガウスは小学生時代、1から100の足し算の答えを以下の計算式で導き出し、教師を驚かせています。
(1+100)+(2+99)+(3+98)+……+(50+51)=101×50=5050
ガウス少年は驚くべきスピードで計算を終わらせられたのは、「1+2+3+4…」という一つ一つの計算にフォーカスするのではなく、より広い視野で1から100の足し算という問題を解決しようとしたからです。これと同じように、私たちが日々抱えるバグについても、大きなものから解決しようとすることが、最も大きな成果を最も早く生み出すコツになるのです。
●無関係なもの同士を結びつける
ジェームス・M・ヒギンズは自著『101 Creative Problem Solving Techniques: The Handbook of New Ideas for Business』の中で、「エクスカーション」というアイデア出しの方法を紹介しています。これはNASAの宇宙服開発でも用いられた方法で、アイデアを出したいテーマと一見テーマと無関係なものとを結びつけることで、新しいアイデアを生み出そうというものです。
最初にやるのは「新製品についてのアイデアが欲しい」「組織づくりのためのアイデアが欲しい」などのテーマを決めることです。次にテーマとは無関係なあるカテゴリーを選び、そのカテゴリーに属するものを思いつく限りリストアップしていきます。
この際に選ばれるカテゴリーは動物や場所、職業などが一般的です。最後にリストアップしたものとテーマを結びつけてアイデアを出していきます。無理に考える必要はなく、思いつかなければ次のリストに移ります。1つのカテゴリーのリストを使い尽くしてもまだアイデアが必要なのであれば、別のカテゴリーでリストアップを行い、再度無関係なもの同士を結びつける作業を行います。
NASAはこのエクスカーションという方法で、「宇宙服のアイデアが欲しい」というテーマを設定し、カテゴリーに「ジャングル」を選びました。そこでリストアップされたもののうち「服にへばりついて取れない種子」から生まれたアイデアが「宇宙服に面ファスナー(マジックテープ)を採用する」というものだったのです。
ちなみに、もともと面ファスナーを発明したクラレファスニング社のジョルジュ・デ・メストラルも、もともとは飼い犬と一緒に山に入った際に服や犬にくっついた野生ゴボウの実からアイデアを思いついたのだそうです。
●「失うもの」を一旦無視する
「無関係なもの同士を結びつけても、荒唐無稽なアイデアしか出てこないのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかしその考え方こそがアイデアが出てこない根本的な原因です。私たちはこのようにして、つい「こんなアイデアに価値はない」などと考えてしまいがちですが、こうした自己監視・自己検閲はアイデア出しをする本人の創造性を下げてしまうのです。
実際ハーバードビジネススクールのテレサ・アマービル教授は著書『The social psychology of creativity』の中で、自分の出したアイデアが評価されないかもしれないと思うことによって、アイデアの創造性を低下させることを実験で証明しています。
したがってアイデアを出すためには、アイデア出しの過程で無駄になるかもしれない時間や労力などを一度無視する必要があります。全米ベストセラー『クリエイティブ・ライティング 〈自己発見〉の文章術』の著者であるナタリー・ゴールドバーグが確立した「ノンストップ・ライティング」というアイデア出しの方法は、「失うもの」を一旦無視することでアイデア力を高める方法の一つです。
方法そのものはシンプルで、タイマーを15分にセットして、15分間ひたすらアイデアを書きなぐるだけです。書きなぐる先はメモ用紙でもノートでも、テキストエディタでも構いません。ただし以下の全ての項目を無視することが条件です。
・誤字脱字
・句読点の間違い
・文法
・表記(漢字・ひらがな・カタカナ)
・体裁(改行、段落、単語の繰り返しや羅列など)
・アイデアの完成度
また読み返しも訂正もしてはいけません。書くことがないと思ったら「書くことがない」と書き、こんな作業は無駄だと思ったら「こんな作業は無駄だ」と書きます。タイマーが鳴る瞬間まで、ひたすら思考を垂れ流す。これがノンストップ・ライティングです。
こうして延々と思考を文章化していくと、どこかで「こんなアイデアに価値はない」という自分の監視・検閲が追いつかなくなり、自分でも思いつかないようなアイデアが生まれてきます。それこそがノンストップ・ライティングが目指すものです。
ノンストップ・ライティング中に「こんなのむちゃくちゃだ!」と思うようなアイデアが出てきたらチャンス。そのままのノリで書き続ければ、新しいアイデアがどんどん生まれてくるはずです。
●類語辞典を音読する
ノンストップ・ライティングのように、言葉を頼りに思考を進めていく方法に興味がある人は、エドワード・デボノらが開発した「シソーラス・パラフレーズ」というアイデア出しの方法も知っておきましょう。
デボノは問題解決のために既成の概念や理論から自由になって、新たなアイデアを生み出す「水平思考」の提唱者で、この思考法について多くの著書を書いています。
シソーラス・パラフレーズで用意するのは「キーワードを含むシンプルな文」と「類語辞典(シソーラス)」だけです。文は例えば以下のようなものが考えられます。
・部屋を片付ける。
・お金を貯める。
・スキルを磨く。
次にこのうち「部屋」「片付ける」「お金」「貯める」「スキル」「磨く」といった言葉を、類語辞典などを使って類義語に置き換えていきます。こうして似たような意味を持ちながらも、違うニュアンスを持つ文を読み返し、新たなアイデアを得るのがシソーラス・パラフレーズの目的です。
例えば角川学芸出版の『類語国語辞典』を使うと、「スキル」「磨く」は以下の言葉に置き換えられます。
これらを自由に組み合わせていくと、自分がイメージしている「スキルを磨く」とは違う意味を持つ文に変わっていきます。
仮に「スキルを磨く」に対して「セミナーなどに行って知識を蓄える」というイメージを持っている人からすれば「本能を鍛錬する」という置き換えは、イメージとは違うはずです。するとスキルを磨くためにセミナーに行く解決策ではなく、とにかく場数を踏んでセンス(本能)を鍛錬するという解決策を思いつくかもしれません。
シソーラス・パラフレーズは、このようにして自分が設定したテーマの違う側面を見るための方法なのです。
なお、置き換えた文を並べて音読すると、より新しいアイデアが思い浮かぶ可能性があります。なぜなら音読をすると記憶・学習・感情をコントロールする脳の前頭前野が活発化するため、記憶を引き出す能力でもあるアイデア力が高まるからです。
さらにいえば音読のスピードを上げるとさらに脳が活性化することもわかっているので、文を読むスピードをどんどん上げていけばより高い効果が期待できます。
●「1つの属性を2つの属性に分ける」を繰り返す
次に紹介する「さくらんぼ分割法」も、エドワード・デボノが開発に携わったアイデア出しの方法です。この方法はすでにアイデアが出ていて、そのアイデアをブラッシュアップしたり、より多くのバリエーションを出したりしたい時に適しています。
まずはシソーラス・パラフレーズと同様に、「キーワードを含むシンプルな文」を用意します。この文章は「○○を××する(名詞+動詞)」「○○な××(修飾語+名詞)」など、2語になるようにします。次にそれぞれの単語を2つの属性に分けます。
ここで分けた2つの属性を、さらに2つの属性に分けます。これを十分だと思うまで、もしくは属性を思いつかなくなるまで続けます。こうして分けていった属性を自由に組み合わせて、新たなアイデアを生み出すのが、さくらんぼ分割法の目的です。
例えば「スポーツチーム経営」という課題を「スポーツチームを経営する」という文にして、「スポーツチーム」「経営する」の2つに分けます。これにさくらんぼ分割法にしたがって属性を分けていくと、以下のようになります。
ここまでだけでも、「3対3のバスケットボールチームをマーケティング戦略に基づいた、トップダウンの組織で経営する」といったアイデアが生まれます。さらに掘り下げていけば、属性を組み合わせるだけでより具体的なアイデアを数多く生み出すことが可能です。
さくらんぼ分割法の最大の特徴は「ヌケ・モレを気にしない」という点です。仮に「スポーツチーム経営」という課題について、ヌケやモレがないように属性を分けるとしたら、あらゆるスポーツに精通している必要がありますし、経営についても熟知していなければなりません。そうなればアイデア出しの作業に入るまでに途方もない準備が必要になります。
一方でさくらんぼ分割法は常に2つにしか分けないので、基本的にヌケ・モレだらけです。しかし全く気にしません。思いつく属性で2分割していって構わないのです。さくらんぼ分割法のメリットは、このように大して準備をしなくても気軽に始められるところにあります。
●3つの要素を「制限」する
アイデアを出すとなると、自由さが推奨されがちです。実際前述したノンストップ・ライティングは、自由な発想をするためにひたすら思考を垂れ流す方法でした。しかし自由さが必ずしも質の高いアイデアにつながるとは限りません。
『シリコンバレー式 最高のイノベーション』の著者スティーブン・S・ホフマンは本書の中で、イノベーションを起こすには様々な要素を小さく、少なくすることが重要だと書いています。この要素とは、アイデア・人数・予算・時間・範囲の5つです。ここではこのうちアイデア出しに関連すると思われる3つについて解説します。
▼アイデア
画期的なイノベーションの多くは、拍子抜けするほど小さくてシンプルな問題を解決するためのアイデアから生まれています。YouTubeは「世界中のクリエイターと視聴者を結ぶためのプラットフォーム」というアイデアから生まれたのではなく、創業者のジョード・カリムのインターネット上で目当てのアダルト動画が見つけられないという不満と、共同創業者のチャド・ハーリーとスティーブ・チェンの、容量不足でパーティの動画を送れないという不満から生まれました。
逆に規模の大きなアイデアからイノベーションを考えようとすると、プロジェクトが抱える問題が複雑化してしまい、失敗に終わる傾向にあります。したがって元々のアイデア出しをする際も、「バグリスト」で見たような身近な不満から始める方が最終的に大きな成果につながりやすくなります。
▼時間
ハッカソンやアイデアソンでイノベーションが起きやすいのは、限られた時間の中で結果を出すことが求められるからです。締め切りがあることで人は緊張し、高い集中力を発揮できるのです。これが仮に締め切りのないものであれば、集中力を失った挙句、イノベーションは起きないでしょう。
アイデア出しも同様です。「いつまでにどのレベルのアイデアが必要か」を事前に設定し、その締め切りに基づいてアイデア出しの作業を行う必要があります。バグリストやノンストップ・ライティングのように制限時間を設けることで、集中してアイデア出しに臨むようにしましょう。
▼範囲
グーグルは「最高の検索エンジンの構築」というシンプルなアイデアからスタートし、アマゾンは「書籍」という狭いカテゴリーのオンライン販売からスタートしています。イノベーションを起こす段階では、このように小さな範囲だけにフォーカスしてプロジェクトを進めるべきです。逆にはじめから大きな範囲で、完璧にやろうとすると失敗に終わります。
そうして自分たちがやっていることが顧客に受け入れられるかどうかを確認してから、より広い範囲に拡大していくことが、成功への近道だとスティーブン・S・ホフマンは書いています。
アイデア出しの作業も同様で、最初から様々な分野に応用できる完璧なアイデアを目指すと、なかなかアイデアが出てきません。まずは自己監視・検閲の目を取り払い、とにかくアイデアを出すことにフォーカスするようにしましょう。
こうして制限を設けるからこそ、思考が洗練され、効果的なアイデアが生まれるのです。
●尊敬する人の視点に立って考える
どんなに優秀な人でも、1人で生み出せるアイデアの数には限りがあります。しかし自分の周りにアイデア出しを手伝ってくれるような人間が、いつもいるとは限りません。自分が考えなければ誰も考えない、という状況に置かれている人も多いのではないでしょうか。
そのような時に効果的なのが、『アパートの鍵貸します』『お熱いのがお好き』などで知られる映画監督ビリー・ワイルダーが実践していた「ルビッチならどうする?」というアイデア出しの方法です。
ルビッチとは『生きるべきか死ぬべきか』『ニノチカ』などで知られる同じく映画監督のエルンスト・ルビッチであり、ワイルダーが師匠と仰いだ人物です。ワイルダーは自分のオフィスに「ルビッチならどうする?」という言葉を額に入れて掲げ、仕事で行き詰まると必ずその言葉を見つめていたのだそうです。
この方法を実践するためには、「あの人ならどう考えるだろうか?」と自問自答できるほど相手のことを尊敬しており、かつその相手の思考を理解している必要があります。もし職場やプライベートで、そのような相手がいるのであれば問題ありません。しかしそのような相手が身近にいない人も多いはずです。
そのようなときは、中国の思想家である孟子が提唱した「私淑」が役に立ちます。私淑とは「直接教えてもらえなくても、尊敬し模範として学ぶこと」を指します。孟子は自分より100年ほど前の人物である孔子に私淑し、孔子の思想を儒教として確立しています。
現代は孟子の時代に比べて私淑しやすい環境にあります。例えば葬儀事業で関西トップクラスの規模を誇る丸長グループの川下順也代表は、著書『絶対に成功したいあなたへ』の中で、京セラ・第二電電創業者である稲盛和夫日本航空名誉会長に私淑していると書いています。
実際に会ったことはないものの、著書である『生き方』をバイブルとして読んでは実践し、読んでは実践しを繰り返してきたのだそうです。その結果丸長グループは創業からたった15年で380億円規模のプロジェクトを進めるまでに成長しています。
このように著名人であれば著書を出している場合も多く、著名でなくてもブログやTwitterなどで生の声に触れるチャンスがいくらでもあります。人によってはブログのコメントやTwitterのリプライなどにリアクションをしてくれるため、実際に会わなくても直接教えが受けられる可能性もあるでしょう。
自分が心から尊敬し、指標にしたい人を見つけること。これがとりもなおさず、自分では思いつかないようなアイデアを生み出すことにつながるのです。
●アイデアを真似る
華々しく成功したスタートアップの多くは、基本的に先人をパクり、その上にイノベーションを積み重ねている。
引用:『シリコンバレー式 最高のイノベーション』 p55
フェイスブックはSNSのパイオニアだったフレンドスターとマイスペースを模倣し、ウーバーはリフトを、中国の百度はグーグルを、アリババはアマゾンとイーベイとペイパルを、微信はICQとカカオトークを模倣しています。世界中を席巻しているイノベーションは、もともと「真似る」ことから生まれたものなのです。
これと同じように、アイデアが模倣から始まっても構いません。人事・戦略コンサルタントの松本利明さんの著書『「ラクして速い」が一番すごい』には、別の分野からアイデアを模倣し、自分の分野に役立てた「オフィスグリコ」の例が紹介されています。
グリコが展開しているオフィスグリコは、代金を「貯金箱」に投入することで、オフィスに設置されている専用ボックスや冷凍冷蔵庫からグリコのお菓子を購入できるというサービスです。
システム上お金を入れなくてもお菓子は持ち出せますが、グリコによれば代金回収率は100%。この結果を受けて、それまで実施していた訪問販売は停止され、オフィスグリコに切り替えたのだそうです。
このオフィスグリコのアイデアは、もともと野菜の無人販売所から模倣したもの。これは棚に並べる野菜をメンテナンスするだけで、あとは消費者が野菜のペッケージなどに書かれた代金を棚に据え付けられた箱に入れるだけというサービスモデルです。これをそっくりそのままお菓子の販売に転用したのがオフィスグリコなのです。
しかし単なる模倣は、模倣でしかありません。大きな成功を収めているスタートアップは模倣したあと、オリジナルよりも質の高い商品やサービスを提供するためにアレンジを加えています。オフィスグリコも従業員数などに応じて設置するボックスのサイズや設置方法を変えるなど、無人販売所にはない柔軟なサービスを提供しています。
真似れるところは真似て、真似れない部分は自分で新しくアイデアを出す。この方法なら、自分でゼロからアイデアを考えるよりもスピーディに質の高いアイデアを思いつくことができます。
●真実だと思うことを書き出し、疑ってみる
人間は何かと「これが真実だ」と思い込む生き物です。そしてある事柄を真実だと思い込んでしまった時点で、その事柄が間違っていた場合については考えなくなります。例えば「非難や懲罰は組織の規律を正す効果がある」というのも、組織に根強い思い込みです。
しかしハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授らが行った2004年の研究によれば、非難や懲罰が厳しい組織ではミスの報告は少なくなるものの、実際に起きるミスは逆に増えるということがわかっています。
これに対して非難や懲罰をあまりせず、ミスに対して積極的に改善策を提示する組織では、ミスの報告は多いものの、実際に起きるミスは非難や懲罰が厳しい組織よりも少ないこともわかりました。
これと同じように「インセンティブ報酬は社員の成果を上げる」「利益率の低いビジネスでは、コストカットが利益増のカギになる」といった「常識」も、単なる思い込みであることが新しい研究やビジネスモデルによって明らかにされています。
こうした思い込みを取り除いた頭で新しいアイデアを生み出すためには、まず自分が真実や常識であると思うことを書き出す作業が必要です。ビジネスの分野について思い込みを取り除きたいのであれば、販売方法や流通経路、ターゲットにしている顧客など、すでに自社や業界で当たり前になっていることを書き出していきます。
あるいは人生についての思い込みを取り除きたいのであれば、「お金は企業に勤めて稼ぐもの」といったお金を稼ぐ方法についての常識や、「結婚して子供を育てるのが幸せ」といった幸せになる方法についての常識を書き出しましょう。
そのうえで、全てについて疑問を投げかけていきます。もちろん「それが常識だから」「業界では当たり前だから」といった答えにならない答えはNG。
「今の販売方法以外に顧客にサービスを届ける方法はないか?」
「今の流通経路以外の経路で流通させたらどうなるか?」
「他の年齢層をターゲットに設定したらどうなるか?」
「企業に勤める以外に稼ぐ方法はないのか?」
「結婚をして子供を育てる以外に幸せになる方法はないのか?」
そうしてしつこく疑っていけば、ほとんどの真実や常識が単なる思い込みであると気づくはずです。そこまでくれば、新しいアイデアまではもう一歩です。ここまで見てきた方法を使いながら、アイデア出しの作業を進めていきましょう。
「アイデアの出し方」の引き出しを増やそう
アイデアとは、どこからともなく降ってくるものだけではありません。もちろんそうしたケースもありますが、それだけに頼っていると欲しい時に欲しいアイデアを出せません。
「自分がいつも実践している方法では求めるアイデアが出ない」という事態に対応するためには、アイデアの出し方の引き出しをいくつも持っている必要があります。アイデアの出し方の引き出しを複数持ち、どんな状況でもアイデアが出せるようになるために、ぜひともここで紹介した9つの方法を実践し、自分のものにしていきましょう。
参考文献
『アイデア大全 創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール』
『シリコンバレー式 最高のイノベーション』
『絶対に成功したいあなたへ 圧倒的な成果を上げる ビジネスパーソンの心得50』
『「ラクして速い」が一番すごい』