日本は自然災害頻発国である。今年に絞っても、先日の北海道地震や大阪府北部地震、西日本豪雨、そして連日の大型台風上陸など、多くの被害が自然災害によってもたらされている。
そのような中、被災者が生活を営むことになる「避難所」について、長期間暮らすにはあまりに過酷で、非人間的な環境であることが問題になっている。日本の避難所の環境は、1995年の阪神淡路大震災からアップデートされていないのが実情だ。
2016年の熊本地震では、災害そのもので亡くなる直接死よりも、その後の避難生活の環境悪化などを理由とした関連死の方がはるかに多く、直接死の4倍程度にものぼった。
筆者の研究チームは、グーグル合同会社、一般社団法人RCF、一般財団法人ダイバーシティ研究所と共に、データを活用した新しい被災者支援・避難生活の改善についての、調査研究プロジェクトを行っている(http://www.innovation-nippon.jp/?p=718)。
本稿では、調査の過程で明らかになった、災害現場における数多の課題と、それを解決するためのアセスメントシステムを提案する。そして、災害対応先進国イタリアの状況、理想的な姿を述べ、我々が今後どのように災害対応を進化させていけばよいか論じたいと思う。
第一に、避難所の環境の厳しさを見ておきたい。
避難生活というと、つい短期的でテンポラリーなものだと考えてしまうが、実際には半年以上も避難所での暮らしを余儀なくされることも少なくない。
しかし、体育館のような大規模集約型の避難所は、中長期に生活を送るには全く適さない。床に雑魚寝するしかないこと、日の光が入りにくいこと、プライバシーがないことなど、人間的な生活には向かない点が多い。
過去にNHKが、災害関連死と認定された人の家族へ取材した際、「寝返りを打つのも難しいような狭いスペース。トイレは汚いし並ぶ。行かずに済むよう飲まず食わず。地獄のような環境だった」という取材メモを残している(https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2018/04/0417.html)。
このような過酷な環境について、大きく分けて、3つの具体的課題が指摘されている。
騒音:発災直後は周囲に人がいることが支えになるが、避難生活が長期化すると、プライバシーのない空間での他者の声が煩わしく感じられるようになり、ストレスや疲労に繋がっていく。
臭い・衛生:入浴が制限されること、トイレの清掃が行き届かないこと、生ゴミの処理が難しいことなどにより、避難所全体に悪臭が漂う。トイレについては、携帯トイレの廃棄の問題が生じるほか、自分で穴を掘ってそこで用を足す人が出てくることもある。また、仮設トイレは未だに和式が多く、慣れていない子供や、かがむことが苦手な高齢者には使いにくいという問題もある。
コミュニケーション:外部から物資が届くようになると、物資の配給で不満が生じることに加え、過酷な環境でストレスを抱えていることも影響し、言い争いや喧嘩に発展するケースがある。実際に、家を失った高齢女性が、避難所で揉め事が絶えないことから、避難所で暮らすのをやめてしまった例もあった。
これらの問題が、前述したような災害関連死の増加に影響している。
避難所生活を避け、避難所外の車中や、被害を受けて壊れかけた自宅で生活する人も少なくない。しかしそれが、今度はエコノミークラス症候群などの新たな問題につながっている。また、支援物資は避難所へ届くため、避難所外では適切な支援を受けられないという問題も発生している。