働き方を変えれば企業価値が上がるという幻想
- 2018/09/09
- 14:33
GoogleやApple、NetflixにNVIDIA…、西海岸のイケてる企業がミレニアルだのアジャイルだのともてはやされ、それらの企業のオフィスがどうだの、食堂がどうだの、オールドファッションの会社とは明らかに異なるマネジメント手法が近年とみに喧伝されているように感じます。
それが悪いとは言いませんし、自由な働き方やオープンでフェアな競争が提供される企業は、CSR(企業の社会的責任)の観点でも素晴らしいことだと思います。こうした企業のマネジメント手法が注目され、様々な論考が行われていくことも自然な流れだと思います。
ですが、筆者はここに一種の違和感を持つわけです。西海岸のそうした空気に当てられた日本のスタートアップ界隈や、日本の大企業にいる意識高い系などが、すぐさまその種の企業のキラキラした部分を取り上げて、「だから日本はダメなんだ!」「シリコンバレーでは、ではでは出羽守!」とやってくるわけです。
ここ10年ぐらいは、この流れにお上の方も乗っかってきて、働き方改革だのなでしこ銘柄の選定だの噴飯ものの“指導”を行うようになってきていて、もううんざりしているところです。
では一体何がおかしいのでしょうか?
独占企業という金城湯池
こういうミレニアル企業のマネジメント論でベンチマークされるところの企業は、もれなくプラットフォーマーなわけです。もっと分かりやすい単語で言えば、独占企業です。更に言えば、従来のレジームでは存在しなかったタイプの独占企業です。
20世紀までの独占企業は、大きく分けて2つのタイプがあり、1つは国家がライセンスを与えることで独占を獲得する許認可業種、そしてもう1つが、資本集約的(事業参入にメチャクチャ金がかかる)なために自然と独占が形成される事業です。前者は国鉄(JR)や電電公社(NTT)、銀行など。後者は資源メジャーや総合商社、自動車産業などを思い浮かべると良いでしょう。
これに対し、ミレニアルズは情報通信革命によって、ユーザー情報を独占することやサブスクリプション型のビジネス構築に成功したことで独占状態を達成している点が、21世紀的でエッジではあるものの、その本質は独占企業そのものです。
何が言いたいかというと、彼らは独占で得られた超過利潤を従業員に還元することで、従業員のベネフィットを上げ、CSR的にも高いレピュテーションを得ているものの、そうした従業員還元が、果たして企業経営の成功要因なのか、因果関係については冷静に考える必要があると思います。
ですので、言ってみれば企業価値向上につながっているのか本来的に怪しいキラキラした従業員還元だけを切り取って猿真似をしてみても、それが成功につながるようには全く思えません。(それっぽいエクイティストーリーで調達した資金を豪華な内装に充てるスタートアップ()は少なくないですが、内装の良し悪しが事業をドライブすることなどあり得ないのと同レベルの話)
日本だって昔はホワイトだった
例えば、日本がジャパンアズナンバーワンと呼ばれていたバブル時代。少し前にTwitterで話題になっていた通り、世界を席巻していたのは次のような企業でした。
出展:ダイヤモンド https://diamond.jp/articles/-/177641?page=2
で、当時のサラリーマンはというと、接待で一晩100万円は当たり前。タクシーは使い放題でしたし、飲んで踊って疲れ果てて、昼前に重役出社しても上司に詰められたりしません。はっきり言って、Googleなんて目じゃないぐらい従業員の働き易い会社だったのではないかと。そして、世界のビジネススクールではこぞって日本企業の経営戦略を題材にしてましたが、その後、日本はどうなったでしょう?(当時の日本は冷戦構造の中で為替の後押しもあり、ハイテク産業の供給力という意味で独占的ポジションを築けていた)
要するに、独占ポジションを得るまでに必要な経営戦略ならいざ知らず、独占を築いてしまった後の企業の所作を眺めたところで、何も重要なインサイトは得られないのです。(むしろ、原因と結果をはき違えてしまって悲惨なことになりかねない)
翻って、ノリに乗ってる中国企業(特に華僑系)の経営なんて伝統的日本企業以上に官僚的かつ硬直的ですが、圧倒的な成長を実現しているのはご覧の通りです。これを目撃すると、実はあらゆるマネジメント論は根本的に間違っており、ポジショニングが全てということなのではないかとさえ思えます。特に中国の場合は、情報の独占を外資に許さず自国企業の揺籃を国家ビジョンとして成し遂げたところに、指導者の慧眼があったと言えます。
逆に言うと、日本全体にブラック労働が蔓延した背景は、かつては築けていた独占ポジションがどんどん失われてきたことが原因で、ここが改善されない限り、本質的に労働環境が改善される見込みなどないわけです。
★★★
さて。人間、衣食足りて礼節を知る、という言葉がありますが、企業のマネジメント手法なんて正にこれじゃないでしょうか?普通に考えて、どのミレニアル企業もクリティカルマスを超えて独占ポジションを得るまでは、経営陣が寝食を忘れド・ブラックな働き方してたと思いますよ(知らんけど)。
資本主義経済における自由競争は、つき詰めると競争のない独占ポジション獲得のための闘争なので、非常に哲学的なものなのです。競争が社会をより良いものにしてゆくことは疑いの余地がありませんが、ミクロのレベルでは、なるべく競争のないプラットフォーム企業に就職するのが、勝ちパターンのような気はします。
日本は、情報の独占競争に関してはもうどうにも逆転不能なレベルで負けていると思えるため、これからも日本でやっていきたいなら、伝統的な資本集約的なフィールドで戦う企業を選ぶか、素材などの別の方面で情報を独占してる企業を狙うか、コンセプチュアルなビジョンが必要そうですね。
そんじゃねー。