2018年09月09日

1448.北海道電力のブラックアウトは人災だ

 北海道で震度7の地震が起きました。2年前に熊本地震を経験しただけにいかに大変なことかよくわかります。疲労もピークになろうかとしておられるでしょうが、生活が元に戻るまでにはかなりの長期間かかります。焦らずにゆっくりとできることから片付けていってください。
 熊本では、停電は市内のほぼ全域で1日もたたないうちに復旧しましたが、ガス、水道のライフラインが2週間程度喪失し、大変な思いをしました。その後も大なり、小なりの影響が続きます。食糧の調達には苦労しましたが、正直なところその2週間に何を食べていたのかは、記憶からなくなっています。ちょっとでも余裕がありましたら、食事を写真などにとって記録されておかれるとよいでしょう。

 さて、今回の地震では北海道電力の供給全体がストップ(ブラックアウト)しました。火力発電所が止まったから当然だとか、原発を稼働させていなかったからだという論調が目立ちますが、これは北海道電力自身の能力が足りないために引き起こした人災です。以下、今回の停電についてまとめてみました。

 以前電力会社には勤めておりましたが、強電の分野については社内研修と実地で学んだだけですので、もしかすると間違いがあるかもしれません。その点はお含み置きください。

 電力の系統につながる発電機は、「同期」発電機と呼ばれます。つまり、同期しながら発電しているわけです。交流は、
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のように電圧が時間とともに変化します。このような回路に交流発電機を追加(並列という)するには、当然位相(タイミング)を合わせる必要があります。つまり、電圧がピークになるときには、すべての発電機がピークになるように「同期」をとる必要があるわけです。発電所が稼働開始したときには、系統とはつながっていませんから、勝手に発電しています。それをタイミングを見て並列するわけです。並列する際には、下記のメーターを用います
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タービンの回転数が上がれば、早くなり、回転数が下がれば遅くなります。この同期機がちょうど真ん中に来たときに「並列」すれば、発電機が系統につながります。この後の発電機は、自分で発電しているのですが、系統の一員として働きますので、系統の周波数が遅くなれば遅く回り(タービンの回転数が落ちる)、系統の周波数が早くなれば早く回るようになります。火力発電所の場合はタービンの定格回転数はある一定速度しか許容されていませんから、周波数がおちすぎると、設備を守るために勝手に発電をやめるように保護回路がついています。
 では、この周波数は何かと言えば、系統全体の負荷によって決まります。周波数を自転車のペダルをこぐ回数と考えてみてください。一分間に50回こぐ必要があっても、平地であれば問題ないでしょう。しかし、上り坂になったらどうでしょうか。一気にペダルが重くなってしまって、普通にこいでいたら50回の回転数を維持することができなくなります。立ち上がるか、誰か別の人の手助けを借りる必要があるでしょう。もし、下り坂になったらどうでしょう。今度はペダルが軽くなりますから、同じ力でこいでいたら早くなりすぎますから、ブレーキをかけなければなりません。このコントロールをするのが電力の中央給電です。周波数が減少してくれば発電量を上げ(それか負荷を減らす=強制停電)、周波数が増加してくれば発電量を下げて、一定の周波数を保とうとするわけです。ご承知の通り電気をためることはできませんので、常に系統全体の需要に見合った発電をしつづけるわけです。つまり電力会社は受け身で発電していると考えることもできるでしょう。イメージとしては、こう考えればわかるかと思います。

 以上の予備知識を持って今回の北海道電力のブラックアウトを考えてみます。

なぜ北海道全域で停電したか?
09月06日 09時03分
北海道電力によりますと、震度6強の地震があった午前3時すぎ、北海道全域では、310万キロワットの電力の需要があり、その電力を道内にあるおもに4か所の火力発電所で供給していました。
しかし地震の揺れにより、この4か所のうち厚真町にある苫東厚真火力発電所が停止し、165万キロワット分の電力供給が止まりました。
これによって急激に北海道内の電力の需給バランスが崩れ、運転を継続していたほか3か所の火力発電所も、故障を防ぐため自動的に停止しました。
このため北海道内全域の電力供給がストップし、295万戸すべてが停電したということです。

 電力供給が止まれば力が落ちますから、上記で書いたように周波数が低下します。ある一定程度周波数が低下しますと、火力発電所のタービンの回転数が落ちてきますから(下図参照)設備保護のために発電を止めます。
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 ここまでは当然のことですが、発電電力量が低下すれば、それに見合って負荷外す対応法も考えられます。つまり、足りない電力量に見合うように、電力の供給を強制的に減らすわけです。下図は北海道電力の電力系統図です
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 北海道も東と西で大きく分けられるようですから、西の発電所が停止(今回)したならば、札幌、函館を強制的に停止させて、釧路、帯広、根室などの都市の電力は生かしておき、その間に設備の復旧、あるいは他電力からの融通を行えば、北海道全体がブラックアウトすることなどなかったはずです。その証拠に、地震直後の需要曲線があります。
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 これを見ますと、朝8時までは何とかある程度の電力供給ができていたのに、需要増加とともに北海道全体がブラックアウトしてしまったことがわかります。つまり、北海道電力は十分な時間もあったのにもかかわらず、なすすべもなくブラックアウトに身をゆだねてしまったわけです。この給電指令所の負荷遮断については、ほとんど誰も指摘しておらず、「原発がなかったから停電した」などというばかげた主張をしている人さえいます。現在の時期は北海道の電力負荷ピークである冬前ですから、できるだけ予備率を少なくして冬に備えます。仮に原発が稼働していたとしても予備率は今と変わらなかったはずです。また、原発は火力と違って柔軟に出力を落とすことなどできませんから、今回の地震ではむしろ電力供給過剰になる可能性があります。そうすれば、周波数が上昇してしまっておなじく、原発の強制停止、ブラックアウトとなってしまいます。また、この時期に泊原発付近で地震が起きてしまえば、泊原発の停止とともに北海道全体がブラックアウトという考えられない事態になってしまいます。今回は、たまたま泊原発では地震はたいしたことありませんでしたが、そういった事態も考えておく必要があります。このような大失態を引き起こした北海道電力に原発を稼働させろとは、いったい何を考えているのかと思います。

 さて、負荷調整について述べている記事がありましたので、紹介しておきます。

対応後手、供給遮断間に合わず…ブラックアウト
2018年09月07日 21時42分
 専門家は、今回のブラックアウトを避ける手段として、特定地域の電力供給を絞って強制的に停電させる方法があったと指摘する。東日本大震災で福島第一原発などが停止した際、東京電力は一部地域を停電にし、域内全域の発電所が停止するブラックアウトを防いだ。

 電力会社は、発電する量と消費する量がおおむね一致するように調整している。需給バランスが崩れると、発電所の発電機が破損する恐れがある。東京電力は発電量の減少分に見合うように、強制的に停電させて電力需要を落としバランスを保った。

まさしく、これですね。これが中央給電がすべき危機管理です。このような管理のできない北海道電力は、原発を運転するどころか、電力会社としての存在意義さえないと言わざるを得ません。

ちょうど、原発の並列場面の動画がありましたので、紹介します。


動画の初めに出てくるこの写真の真ん中が同期器です。反時計回りにぐるぐる回転しているのがおわかりでしょうか。
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「並列します」・・といって同期器を運転員は見ており、ちょうど一番上に到達したときに「投入します」と発電機を系統につなぐ(カメラマンがどの危機が重要かわかっていないため、捜査員の手元しか撮影されていませんが)

最終的に(わかりにいくですが、同じメーターが真ん中を指して止まっていることがおわかりでしょう)
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LEDメーターだとこんな感じです。位相がそろったときに、並列します
posted by いんちょう at 09:37| Comment(2) | 原子力
この記事へのコメント
纏めご苦労様です。

中央制御室は札幌でしょうから
遮断決断は出来ないような気がします
結果すべて遮断ですが。

電力網というのは生き物みたいですね

Posted by 農家 at 2018年09月09日 10:55
 全く同感です…想定しなきゃいけない範囲の振動にブラックアウトと原発電源喪失で…経営ポリシー含めた問題です♪

 電力会社としての必要な要件を失った集団ではと…大切な事を忘れた組織の明日は無し♪
Posted by 湧井秀雄 at 2018年09月09日 14:18
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