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Ebbeling & Ludwigが主唱する “carbohydrate-insulin model of obesity” の考え方の骨子は、“carbohydrate intake is the primary cause of common human obesity, and insulin its primary effector” です。 これに対してGuyenetは科学的証拠を示して次のようにしっかり反証しています。 2018/07/03 “Why the carbohydrate-insulin model of obesity is probably wrong: A supplementary reply to Ebbeling and Ludwig’s JAMA article” by Stephan Guyenet 最近、JAMA Internal Medicineのcommentary(論評)で、Kevin Hall PhD及び Rudy Leibel PhDとコラボする機会を持ちました。 お二人ともすごく尊敬している研究者であり楽しかった。 Hallのエネルギーバランスモデリングは肥満に関する研究分野に重要な新洞察をもたらし、Leibelはレプチンの共同発見者です。 私たちの論評のタイトルは“Carbohydrate-Insulin Model of Obesity is difficult to reconcile With Current Evidence”で、David Ludwig MD/PhD と Cara Ebbeling PhDが共著したレビュー論文 “The Carbohydrate-Insulin Model of Obesity: Beyond ‘Calories In, Calories Out” に対するものです。 この論文でLudwig & Ebbelingはcarbohydrate-insulin model (CIM)について言及しています。これはGary Taubesの主張とほぼ同じで、『肥満は主としてインスリン分泌を高める炭水化物によって引き起こされる、つまり、インスリンの分泌が昂進すると血中のグルコースおよび遊離脂肪酸レベルが低下し、脂肪細胞での脂肪の取り込みを促し、空腹感や不活発をもたらし肥満に至る』と言っています。 このモデルによれば、高カロリー摂取/低カロリー消費は、脂肪組織を拡大した結果であり、その原因ではありません。 Ludwig & Ebbelingは、食品が血糖に影響を与える度合いを示す“グリセミックロード(GL:血糖負荷)”に特に重点を置いています。 論評は1,200字と8つの参考文献に制限されていたので、このブログで私の見解を補足・追記します。 私は歴史を間違った方向に舵取りしたくはありません。カテゴリ予測(変数)ではありますが、私は肥満や脂肪の減少にはまだ幾つかのインスリン関連変数…特に、脳内のエネルギー調節回路におけるインスリン抵抗性、各食事の血糖レベル、他のグルコース可用性シグナルなど…が関与している可能性があると考えています。 Ludwig、Ebbeling、およびTaubesが雄弁に述べている “the primary cause of obesity is carbohydrate-stimulated insulin acting on fat cells”という仮説が正しい可能性は極めて低いと私は思っています。 殆どの食事パターンがそうであるように、一般的な肥満者には低炭水化物食はあまり効果的ではありませんが、利点は幾つかありツールボックスのなかの一つの有効なツールであることは間違いないでしょう。 長期的なアウトカムは依然として不明ですが、糖尿病の管理にも特に有用の可能性があります。 対立意見の特徴付けが間違っている JAMAに掲載されたLudwig & Ebbelingの論文は、Rudy Leibelと私の指導者であるMike Schwartz(3)を含む主要な肥満研究者によって書かれた最近の内分泌学会の科学声明を引用し、“Conventional Model(従来のモデル:CM)” の例として挙げています。彼らが言うCM とは、”カロリー摂取、カロリー消費、体脂肪は生物学的に調節されるものではなく、肥満を克服するには強い意志を持って“eat less, move more” を励行すべし” というものですが、実際には内分泌学会はこれとは正反対のことを言っています。 Schwartzらは、カロリー摂取量、支出、体脂肪率を調節するメカニズムの研究でキャリアを積んでいます。私の著書「The Hungry Brain」で詳しく述べていますが、 Schwartzは1980年代から所謂Conventional Modelと戦い続けています。 Schwartzらは、『肥満は食べ過ぎの問題であり、食べることを正しくコントロールし正常に出来たら、肥満の問題は生じないだろう』という仮説の誤りを暴くために30年を費やしてきました。 加えて、満腹ホルモン・レプチンが発見されるに至り、ホルモンや特定の脳回路が食欲や肥満を調整することが示され、 “体重はeat and moveで決まる”という従来の考えは覆りました。 更に、内分泌学会の科学的声明(3)には、”肥満は、単に過剰体重の受動的蓄積から生じるのではなく、エネルギー恒常性の障害である “ ことが示唆されています。 これらの事実を無視して、内分泌学会を歪んで特徴づけることでCIMを二者択一的にCMにとって代わる食事パターンとして推奨するのは理解しがたいことです。 実際、モデルの選択肢はCMとCIMのみに絞るべきではない。内分泌学会の声明では第3のモデルが提示されています。これは科学界で広く支持されており、肥満には特に環境や体内シグナルに反応してカロリー摂取量/カロリー消費量/肥満度を調節する脳回路など多くの影響があることを認識しています。 脂質を食して太る CIMの考え方は“脂肪食で肥満になる”というシンプルな所見とディスクレパンシーがあります。研究者の間では、動物実験で食物に脂肪を加えると体脂肪が増える傾向を示すことは、何十年にも亘って知られていることです。この論文(4)では、“2~3の例外はあるものの、サル、イヌ、ブタ、ハムスター、リス、ラットおよびマウス実験で、肥満が高脂肪食で引き起こされる”ことが示されています。 私自身の研究では、正常なラットやマウスに脂肪60%/炭水化物20%の食事を与えた処、三日後に脂肪の増加が検出され、2週間で体脂肪は2倍以上になり、20週間では6倍に増えました。(5,6) 実際に、カロリー摂取量が増加しない場合でも、“refined高脂肪食”で体脂肪が増加し、カロリー摂取とカロリー消費に影響することが示唆されています。(7) Ludwig & Ebbelingの論文では、げっ歯類でカロリー摂取量を増やすことなく体脂肪が増加した現象を示すのはCIMだけであると示唆していますが、これは明らかに事実と異なります。私の研究分野では、これは高脂肪食と脳病変という状況の中でずっと前から分かっていることです。 これらの食事はもちろん脂肪が多いだけではありません。 精製(refined)された成分ベースであり、構成比率はsugar(7%)を内数としてトータルカロリーの20%の炭水化物を含有しています。故に、太る理由は食事が脂肪ではなく精製された炭水化物だという指摘があるかも知れないが、研究者は大半を精製された炭水化物に置換えた低脂肪バージョンの食事との比較も行っています。 低脂肪バージョンはいくつかの条件下では太りますが(8)、高脂肪バージョンほどの肥満度ではなく、亦、しばしば太らないケースもありました。 下記のグラフは最近Dr. Matthew Dalbyが発表したもので、マウスの8週間のfree accessでの体脂肪の増加を示しています。blackは unrefined low-fat(精製・低脂肪食)、 blueはrefined low-fat(未精製・低脂肪食)、redはrefined high-fat(精製・高脂肪食)です。(9) 精製・低脂肪食と未精製・低脂肪食とは群間差はなかったですが、精製・高脂肪食では体脂肪は急速に、且つ、顕著に増加しました。この知見は別途ラットを含む試験で再現されていいます。(10) 精製・炭水化物とsugarは恐らく精製・高脂肪食が動物で太った理由の一部でしょうが、脂肪そのものが重要な役割を果たすという結論を見落とすことはできません。 簡単な観察ではありますが、これらアウトカムはLudwig / Ebbeling / Taubesが声高に主張するCIMとは一致しがたい。 人間ではどうでしょうか? これまでのところ、2つの比較対照研究(過剰摂取)で、脂質リッチな食事と炭水化物リッチな食事による体脂肪の増加を調べています。 いずれの研究でも、炭水化物の多い食事に比べて脂質の多い食事で過剰摂取すると、カロリーは等しくても体脂肪の増加は同じ又は僅かに大きかったことが報告されています。 この試験結果は、炭水化物のインシュリンへの影響があるにもかかわらず、脂肪の過剰カロリーが炭水化物の過剰カロリーと同等に脂肪組織に入っていることを示しています。 カロリー摂取量がコントロールされていない場合はどうでしょうか? この条件下では、上記で述べた動物研究と同様に、高脂肪食の被験者は過食し体脂肪が増える傾向が示されました。(13,14,15,16) これらの研究では、低炭水化物食は割り付けられていません。 低炭水化物食では恐らく摂取カロリーは少なくなり体脂肪は減少するのでしょう。 歴史的に多くの文化圏では高炭水化物/高GL食だが太っていない これもCIMと合致しがたいシンプルな所見です。 過去にLudwigはこのテーマに次のように答えています。 ・結論付けにはデータの質が不十分である。 ・かれらがリーン(lean)なのは餓死寸前だからだ。 ・身体活動レベルが高かった。 それでは順番に反証していきましょう。 データの質は観察によって異なりますが、かなり質が高いものもあります。 例えば、1990年にDr. Staffan Lindebergは、メラネシアのキタバ島の住民の食事、生活習慣、健康に関する詳細な調査を実施しています。 食事の栄養構成は炭水化物69%で、デンプン植物食品(アフリカヤマモモ、サツマイモ、タロ、キャッサバ)、果物、野菜、魚介類、およびココナッツをベースにしています。(18) Lindebergは、“食べ物は豊富だが非常にリーンである”とキタバン人を特徴づけています。そのバックアップデートして、247名のキタバン人を調べていますが、過体重はonly a fewで(18)、加齢による肥満や糖尿病も見当たらなかったそうです。食べ物も潤沢で腐らしたり、動物の餌にしており、少なくとも訪問時には決して食料不足の状況ではなかったと言っています。 これは↓彼が撮った写真です。 キタバの調査では、二人の腹部肥満の男性が観察されていますが、いずれもと都会化した移住者だった。そのうちの一人は44歳のビジネスマンでBMI・waist-to-hip ratio・血圧・血漿Plasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)が高く、非移住のキタバン人と比べてライフスタイルが明らかに異なっており、西洋スタイルの食習慣だったと報告されています。 また、キタバン人の身体活動量は基礎代謝量の1.7倍と推計されており、これはセデンタリーの西洋人よりもわずかに高いレベルです。 著書“Western Diseases: Their Emergence and Prevention”は伝統的なライフスタイルから現代のライフスタイルへの変遷とその影響に関する「世界各地の現地調査のコレクション」を文書化したものです。殆どのケースで超低脂肪食・超高デンプン食・高GL食から高脂肪食に移行しており、肥満および慢性疾患の発症率の増加を伴っています。炭水化物から脂肪への移行が唯一の変化ではなく、亦、それだけで体重の増加を引き起こすとは限りません。砂糖・塩・アルコールの増加と身体活動の低下が多くの文化圏で見られました。これらの点を考慮すると、炭水化物が肥満の主たる原因だと主張するCIMには受け入れ難いディスクレパンシーがあります。 加えて、日本文化にも触れたいと思います。 著書“Western Diseases”には、1950年から1975年までの日本の食事に関する歴史的なデータが含まれています。因みに、この期間は日本では肥満は珍しい時期でした(P338)。戦後の食糧不足が終わってからずっと後になった1975年には、日本の食事は62%の炭水化物で、その大部分は白米からのものでした。 さらに、主な米の種類は高アミロペクチン粘着米で、グリセミック負荷(GL)が非常に高く、Ludwigが太ると言っている食べ物です。 日本人は主食として常食していましたが、過体重や肥満の有病率は他の先進工業国に比べて低い。(19) 他の多くの文化と同様に、食生活が米から、脂肪、肉、菓子などに依存するようになり日本の肥満率は上昇しました。 日本人は遺伝的に太りにくいのでしょうか? いいえ、かれらは米国に移住すると太っています。(20,21) 日本人と日系米国人の食事の違いは何でしょう? カロリー摂取量は日本とハワイで大きく異なるわけではありませんが、ハワイでは脂質の摂取比率が2倍です。(22) 移住後に食生活やライフスタイルがアメリカナイズすると、ヨーロピアン、アフリカン、ネイティブアメリカンのような過体重や肥満になる傾向が見られます。 誤解なきよう申し添えますが、私は脂質摂食の増加が日本人より日系米国人が太っている主たる理由だと言っているのではありません。ポイントは、“炭水化物摂取量およびGLが低くなっても体脂肪の増加が伴っていること”を示している次第です。 一般的な肥満に関する遺伝学は、体脂肪増加の中心的なメカニズムをインスリンと脂肪細胞とみなす考えに相反する 肥満は強い遺伝的要素を持っており、遺伝学者はコードの分解に大きな進歩を遂げています。 ご既承の通り、体脂肪の遺伝学は非常に複雑であり、おそらくゲノムの何千もの場所で寄与しています。 それぞれの場所では非常に小さな効果しかありませんが、一緒になると大きな効果となります。70万人の最新かつ最大のゲノムワイド解析により、遺伝的差異が体脂肪に影響を与えるゲノム内の716箇所が同定されました(23)。 関与する遺伝子の機能を調べることで、体脂肪を決定するメカニズムを洞察することができます。 例えば、2型糖尿病に影響する遺伝子はインスリン分泌、インスリン感受性、および膵臓に関連する傾向があり、身長に影響を与える遺伝子は、骨格および結合組織の成長に関連する傾向があります。(23,24)。 これらの研究は偏っておらず(unbiased)、研究者は我々の肥満に関する既存の見方に一致するかどうかにかかわらず、単に関連性を探してゲノム全体をスキャンし、見つけたものを報告するだけです。 一般的な肥満に寄与するメカニズムが何であれ彼らは見つけ出します。 これらの研究は、どのようなメカニズムが肥満と最も密接に関連していると報告していると思いますか? 脂肪細胞機能に関連する遺伝子ですか? それとも、インスリンシグナル伝達ですか? 実は、これらの研究は肥満関連遺伝子が主に脳の発達と機能に関連していることを一貫して報告しています…BMI関連の遺伝子は、神経発生に関与する遺伝子の中で最も豊富であり、中枢神経系にいっそう関与しています。(25)。 これは、インスリンや脂肪細胞ではなく、運転席(driver’s seat)にいるのは脳であるという一般的な見解と一致しています。 もちろん脳だけでなく、ある程度は重要な多くの要素が関係しているでしょうが、脳は一般的な肥満の最も重要なdriverのようです。 このような理由で、私の著書のタイトルは、“The Hungry Fat Cell”ではなく、“The Hungry Brain”としています。 肥満に関する仮説を評価するためにこれらの遺伝学的知見の重要性を誇張することは私にはできません。 彼らは一般的な人たちの過剰な体脂肪の蓄積をdrive(動因)するメカニズムの珍しくて、貴重で、バイアスのない多くの見方を提供しています。 私たちはこれらの知見を較正し、仮説がそれらと矛盾するかどうか自らに厳しく問うべきです。 肥満のげっ歯類モデルで血中の遊離脂肪酸は、脂肪が活性的に増加中に減少しない CIMのもう一つの深刻な問題は、肥満者のグルコースと遊離脂肪酸レベルは正常か昂進しており、CIMが予測しているような減少はありません。(26、27、28、29) ほとんどの肥満者で血中インスリンは高いけれども、インスリンも他の何かも脂肪細胞からの脂肪のリリースを妨げてはいません。 この問題に取り組むために、Ludwig & Ebbelingは“dynamic stage of obesity development”と呼ぶ新しいコンセプトを思いついた。このコンセプトによれば、ダイナミックステージでは、インスリンが脂肪を脂肪細胞に追いやり、血中脂肪酸レベルを抑制するため、体重が活発に増加します。しかし、ダイナミックステージの後は、体重はplateaus(プラトー)となり、血中グルコースと遊離脂肪酸レベルは正常化または増加します。研究は無数にあるにもかかわらず、ダイナミックステージが観察されていない理由はけだし茲にあるのでないですか。 このように、Ludwig & Ebbelingによって提案されたことは一度も観察されておらず、、CIMは正直に言ってちょっと出来過ぎた話です。 私のこの反証にはデータの裏付けがあるのかと問う方もおられるでしょう。 私たちが求めているのは、積極的に脂肪を摂取しているヒトまたは動物において血中遊離脂肪酸レベルが定期的に測定されている時間経過研究ですが、私はラットで2つの研究を発見しました。いずれの研究も、肥育飼料によって脂肪が活性的に増加している間の血中遊離脂肪酸レベルは、正常または上昇したと報告しています(30,31)。 少なくともこの肥満モデルでは、CIMの予測をサポートするダイナミックステージはありません。重要なのは、これらの研究では肥満は肥育飼料によって引き起こされたことです。 これは、脳の病変、レプチン欠乏、または過剰なインスリン注射を伴う研究よりも一般的なヒトの肥満にいっそう関連します。蓋しLudwig & Ebbelingが引用しがちな研究だと言い添えておきます。 脂肪細胞からの脂肪酸の流出を減少させることで、ヒトのエネルギー消費の減少、食物摂取の増加、或いは、体重の増加は起こらない CIMのコーナーストーンは、インスリンが脂肪細胞からの脂肪放出を抑制し、血中のエネルギーレベルを低下させ、代謝率(エネルギー消費)を低下させ、空腹感を増幅し、脂肪を増加させるという考え方です。 インスリンとは無関係に脂肪細胞から脂肪酸の流れを実験的に制限する方法があればどうでしょうか? CIMが正しい場合、エネルギー消費の減少、食物摂取の増加、脂肪の増加が見られるはずです。 幸いにもこれを行う方法がありました…アシピモックスと呼ばれる薬です。 アシピモックスはインスリンの効果を模倣して、脂肪分解や脂肪細胞からの脂肪酸の放出を阻害します。(32) 結果として血中の遊離脂肪酸レベルは低下します。アシピモックスは何度もヒトに使用されてきましたが、特に我々の興味を引くのはアシピモックスとプラセボのエネルギー消費、食物摂取量、体組成への影響を報告した6ヶ月間の無作為化比較試験です。(33) この研究は事前に登録されたもので、主要な目標は、ミトコンドリア機能に対するアシピモックスの効果を調べることでしたが、他の多くのアウトカムも報告しています。(34) 研究者らは、39名の肥満の男女をアシピモックス群またはプラセボ群に6カ月間ランダムに割り付けました。 6ヶ月の試験を完遂したのは31名(アシピモックス群16名、プラセボ群15名)で遵守率は優れていました。 アシピモックスは強く、且つ、一貫して脂肪分解を阻害し、6ヶ月の時点で空腹時の遊離脂肪酸は38%減少しました。 その時のエネルギー消費の変化はどうだったのでしょうか? 空腹時または高インスリンクランプ法いずれにおいても、プラセボ群と比較してアシピモックス群に有意な効果は見られませんでした。そして、6ヶ月間の身体活動の変化には群間差がありませんでした。 食物摂取はどうですか? 4日間の食事記録によれば、カロリーおよび相対的な多量栄養素摂取量の変化に有意な群間差は認められませんでした。 それでは、体組成は? これを測定するために正確なDEXA技術を用いました。アシピモックス群とプラセボ群との比較で、BMI、内臓脂肪組織、及びLBMなど体組成に有意な影響はありませんでした。 アシピモックスは、脂肪細胞に対するインシュリンの効果を高めました。これはCIMによると空腹と脂肪の増加をもたらすと考えられていますが、食物摂取や体組成には影響しませんでした。さらに、この研究は、食物摂取量を増加させることによる低遊離脂肪酸レベルに、脳は反応しないことを示唆しています。CIMの考え方にはこれらの知見にも調和しがたいディスクレパンシーがあります。 Ludwig & Ebbelingが引用している動物研究は有用性を欠く Ludwig & Ebbelingは、マウスとラットに低グリセミック/インスリン血 vs 高リセミック/インスリン血の食事を割り当てた研究を引用しています。 彼らの議論はげっ歯類の研究に大きく依存しており、表向きはヒトの肥満に有用だとしているので、かれらが引用している動物研究を詳しく見てみましょう。 先ずは、1996年から1998年の間に行われたGerard Slamaet alが行った一連の研究から始めます。かれらはラットに緑豆麺食(低グリセミック)とトーストを粉砕した食事(高グリセミック)を与えて比較しています。緑豆麺は難消化性繊維(抵抗性デンプン)8%を含有し、粉砕トーストは難消化性繊維の含有率はわずか2%です。(35) これらの食事はGI値を変数として単離していません。食物繊維の含有やカロリー密度などにもかなりの差異があり、更に、耐性デンプンは、体重および健康の向上のために活発に研究されている一種の繊維です。 1996年に発表された最初の研究では、糖尿病ラットと非糖尿病ラットに2つの食事を5週間与えています。(36) 体重は4週目までは緑豆麺を与えたラットで有意に低かったが、5週間の終わりにはいずれも同等であったことが報告されています。 この研究がどのようにCIMをサポートしているのかわかりません。 1998年に発表された2番目の研究でも、糖尿病ラットと非糖尿病ラットに同様の食事を与えています。試験期間は3週間です。Abstractには、“3週間後、食物摂取量、副睾丸脂肪重量、血漿グルコース、インスリンおよびトリグリセリド濃度は食事群間で差がなかったと書かれています。この研究も何故CIMをサポートしているのかわかりません。 3番目の研究は1998年後半に発表されました。(38) これも先行研究と同じデザイン/同じ知見で、3週間後に体重や体脂肪率に有意な影響はなかったことが報告されています。 Ludwig & Ebbelingによって引用されたこれら3つの研究いずれも、食事組成から見て低グリセミック食が有益な筈ですが、体重や体脂肪率に対する二つの食事の影響に有意な違いを見出していません。 次に、Ludwig et al.が実施し2004年に発表された研究に移りましょう。(39) 2つの食餌の唯一の違いはデンプンの種類、つまり、速効性アミロペクチンvs 遅発酵性アミロースとなっており、ヌードル対トーストの研究よりもずっと良好に制御されています。 最初の実験では、先ずはインスリン分泌を損なうため、ラットの膵臓の60%を取り除いています…私にはこうする理論的根拠がわかりませんが…彼らは、ラットを前糖尿病患者と似せるためだと言っています。この試験ではラットに18週間飼料を与えています。 アミロペクチン群では半ばを過ぎたころに体重が増え始め、研究者はアミロース群と体重を同じく維持するため摂取量を制限しています。体重およびカロリー摂取量に差はないにもかかわらず、アミロペクチン群は最終的にアミロース群よりもふとりました。因みに、両群の体脂肪率は18% vs 10でした。 2番目の実験は、ここではあまり関係ないので省略します。 実験マウスにはobesity-resistant とobesity-proneがありますが、3番目の実験では後者の太りやすい正常マウス(C57BL/6J strain)に、摂取制限することなく2つの食事を9週間与えました。 体重は最終的には変わらなかったが、体脂肪率はアミロペクチン群で有意に高くなりました(25% vs 14%)。 Ludwig et alによる長期間の研究でも、アミロペクチンベースの食事は、アミロースベースの食事よりも有意に高い体脂肪率をもたらすことが示されています。(40)。 取りまとめると、これらの試験はアミロペクチンを与えたげっ歯類は、アミロースを与えた齧歯類よりも肥大することを示唆しています。しかし、Ludwig et alの研究では膵臓の60%が除去されたラットの結果しか報告していないのは私には不思議です。 正常ラットに16週間アミロースまたはアミロペクチン食を与えた別の研究が見つかりました。(41) この研究は実に興味深いもので、アミロースとアミロペクチンをベースにした食事だけでなく、グルコースベースの食事も含んでいます。 御貴承の通り、グルコースはアミロペクチンよりも早く消化吸収され、インスリン分泌を対応的に刺激します。 したがって、グリセミック指数が本当に重要なものであれば、グルコース群で最も多くの体重増加が見られ、次にアミロペクチン群、その後にアミロース群が続くはずである。 しかし、試験期間を通してアミロース群とアミロペクチン群の体重に有意差はありませんでした。グルコース群は、アミロース群またはアミロペクチン群よりもわずかに低い速度で体重が増加しました。8週間および16週間いずれの時点でも、グルコース群の体重は、アミロース群またはアミロペクチン群よりも有意に低かったことが報告されています…これはグルコース群におけるインスリン分泌の昂進にもかかわらずです。 グリセミック指数が最も高い食事で体重増加は最も低く、そして自由食を与えられたアミロース群とアミロペクチン群に群間差はありませんでした。一方、Ludwigの研究では対照的にアミロペクチン群の食物摂取量を抑制して体重を抑えなければならなかった。 ヒトを対象とした試験では、低グリセミック/インスリン血 の食事では大きな脂肪減少は見られていません。因みに、Ebbeling & Ludwigの無作為化比較対照試験でも、低グリセミック食による体重減少は低脂肪食とほぼ同じだったことが報告されています。(44) 上述した日本人に関するデータを上述しました、主食としてアミロペクチンが豊富な粘りの白米を食しても肥満には至っていないことを思い出してください。 CIMにはダイエットアドバイスを正当化するためのしっかりした裏付けがありますか? Ludwig & Ebbelingは、議論を解決するためには質の高い研究が必要であると述べていますが、彼らの論文には“CIMに基づく食事勧告”というタイトルのパネルが含まれています。 そういえば、1980年代にCIM提唱者は低脂肪食のアドバイスは時期尚早だと農務省を批判しています。 科学的に未だ解決されていないならば、CIMおよびそれに基づいた食事のアドバイスを自信をもって公衆に喧伝するのは時期尚早ではないでしょうか。 結論 我々が提議すべきは、「CIMをサポートするエビデンスを見つけることは出来るか」ではなく、寧ろ「totality of evidence、つまり、“肯定的・否定的内容を問わず全て検討し、総合的観点からベストフィットと言えるか」ということです。 CIMをサポートすると思われる観察データを収集することは確かに可能ですが、CIMはtotality of evidenceの観点から評価すると適していません。 基本的な観察と調和することが難しいディスクレパンシーがあり、いくつかの重要な仮説検定に失敗し、現在の処では肥満の神経内分泌調節に関する既存の知識を統合していない。 ある種の炭水化物はおそらく他の要因の中でも肥満に寄与するが、CIMが一般的な肥満への説得力のある説明だとは私は思わない。 注: 文中の1~44は引用文献です。原文から容易に参照できます。 |
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