漆黒の英雄譚 作:焼きプリンにキャラメル水
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ある国のある少年
コナー・ホープは本を閉じた。
窓から差し込む朝日でハッとする。
「そう言えば・・忘れてたな。」
今日はケイトと会う日だった。
コナーは自分の部屋を出て階段を降りる。
「どうしたの?コナー。」
母親であるサラが聞く。
「ケイトの所に行ってくる。」
「ケイトちゃんの所?行ってらっしゃい。」
コナーは家を出た。
向かうは『灰色のネズミ亭』だ。
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コナーが『灰色のネズミ亭』に向かう途中で何か困ったような声をした人がいた。
「あぁ・・」
年老いた女性だった。見た所両親よりも年齢は上であった。細い手足を必死に動かしているものの、どこか怪我をしているように思えた。
「どうしたの?おばあちゃん。」
「買い物の帰り道で膝を痛めてしまってね。」
(大変だな・・・よし!!)
「家はどこ?送っていくよ。背中に乗ってよ。」
そう言ってコナーは老婆に背中を見せるとしゃがむ。
「いや、そんないいよ。」
「遠慮しなくていいよ。」
「・・ありがとうね。」
「いえいえ。誰かが困ってたら助けるのが当たり前だからね。」
昔、自分と家族・・いやエ・ランテルの『大恩人』であり『大英雄』と同じ言葉を言う。
(昔俺たちを助けてくれたあの人みたいに、今度は俺が他の人を助けるんだ!)
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灰色のネズミ亭のウエスタンドアを開ける。
「おい!店はまだやってねぇぞ!」
顔に傷のある男であるロバート・ラムが怒鳴り散らす。
「俺だよ。ロバートおじさん。」
「あぁ・・すまねぇ。コナーか。ケイトなら二階にいるぜ。」
(いつもの酔っぱらいかと思ったんだが・・・)
ロバートの店には朝から酔っぱらいがいる。酒を飲む代金しか持っておらず、一杯の酒だけで一日中いられる面倒くさい客である。ただ今回は違ったようだ。
「ありがとう。おじさんは『漆黒の英雄譚』はもう読んだ?」
「いや、まだだ。今はケイトが読んでるはずだぜ。」
「そうなんだ。二階に上がるよ。お邪魔します。」
二階に上がると部屋があった。コナーは閉じられているドアをノックした。
「はい。どちら様?」
「俺だよ。コナーだ。」
「コナーっ!!!?来るの早くない!!?ちょっと待って!!」
部屋の中から何やら片付けているような音が聞こえた。
やがてドアを開けて顔を出す少女がいた。
「もう。いいよ。」
金髪碧眼。お下げ頭。可愛らしい顔は笑うとなお可愛い印象を与える。
ちなみにロバートおじさんの娘である。
「お邪魔します。」
そう言ってコナーは部屋にお邪魔する。
机やベッドが並んでいる。机の上には本が置かれていた。
「ケイトも『漆黒の英雄譚』を読んでたの?」
「うん。面白いもん。」
「確かにな。それでどこまで見たの?」
「第3部まで読んだよ。モモンさんが・・」
「ちょっと待って!ネタバレしないで!俺まだ第2部までしか読んでないから。」
「あっ、ごめん。」
「いいよ。それよりこの本について少し話そうよ。」
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コナーはケイトと『漆黒の英雄譚』について「あれいいね。」とか「これは酷いことをしている」などと話し、楽しんだ。
夕日が差し込んだことで二人は別れた。
今、コナーは自宅の自室にいる。
(ケイトもロバートおじさんも・・・みんなモモンさんが好きなんだな。)
『漆黒の英雄』と呼ばれた人間。エ・ランテルの『大恩人』。
「さてと・・・」
外は既に暗く、両親は眠っていた。
コナーは机の上の永続光<コンティニュアル・ライト>のランタンを点けると、本に触れる。
「読みますか・・」
コナーは再び『漆黒の英雄譚』を開いた。