漆黒の英雄譚 作:焼きプリンにキャラメル水
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スレイン法国の遥か北西に位置する場所にアーグランド評議国と呼ばれる国がある。
周辺国家とは異なり、人間ではなく亜人が主な国民であるその国は竜が国を統治している。
アーグランド評議国、そのとある場所に一匹の竜がいた。
「ん?」
ツァインドルクス=ヴァイシオンは起きた。
(この感じ・・)
竜という種族は人間より遥かに優れた探知能力を持つ。その中でも竜王の一体と数えられる彼は非常に優れた探知能力を持つ。それゆえ離れた位置・・例えアーグランド評議国の外にいる敵の位置なども把握できる程だ。
(間違いない・・・この邪悪な気配・・『破滅の竜王<カタストロフ・ドラゴンロード>』の気配だ。)
それはかつて六大神が封印したとされる存在。
(忘れる訳が無い・・この気持ち悪い気配。)
まるで身体に異物が紛れ込んでいるようなそんな身近で危険な違和感・・・この世に存在していい存在じゃない!
(この方向と距離は・・スレイン法国か。)
人類至上主義を掲げるスレイン法国と亜人たちが暮らすアーグランド評議国は潜在的に敵対国家である。その為すぐにスレイン法国に『破滅の竜王<カタストロフ・ドラゴンロード>』の気配があることを知覚する。
(僕はこの大陸にいる存在の大半には勝利するだろう。)
竜という種族は人間では絶対に勝てないだけの力を持つ。その中でも竜王という存在は次元が違う強さであり、大陸にいる大半の相手やそれらが群れても勝利するのは確実だろう。
(だが・・・『流星の子』や『破滅の竜王』だけは別だ。間違いなく負ける。)
竜という種族は強すぎる余りに傲慢になりがちだが、ツアーは違った。自身より強い存在を知っていたのだ。
(父である『竜帝』を殺した700年前の『流星の子』。600年前に『破滅の竜王』を封印した『六大神』。500年前に大陸を支配し、何故か最後は殺しあったと言われている『八欲王』。200年前に現れ魔神と戦い英雄と呼ばれた『十三英雄』。)
ツアーはそれぞれのことを思い出す。
その中でも十三英雄のことだけは特別だ。
(リーダー・・・)
十三英雄のリーダー・・・
かつて同じ十三英雄の『白銀』として共に旅をした。
リーダー、リグリット、『白銀』ことツアー、暗黒騎士、その他多くの仲間たち・・・
彼らと旅をしたことはツアーにとって初めて楽しいと思えた数少ない思い出であった。
(良い仲間たち・・良い冒険だった。だが最後は・・・)
あまりに悲しい最期だった。
(リーダーは誰よりも優しかった・・・いや優しすぎたのだ。)
今でも鮮明に思い出せる。
(何か一つ違えば・・結果は変わったかもしれない。リーダーや『彼』も死なずに済んだかもしれない。)
十三英雄の『誰か』が悪かった訳ではない。
(誰よりも弱く優しい存在。だけど誰よりも強くなり誰よりも頼りがいのある存在になった。)
(最初は彼が『預言者』だと思った・・・)
彼も『預言者』じゃなかった。だが『流星の子』であるのは確かなのだ。
(今度、リグリットに『流星の子』を探すように頼もう。)
同じ十三英雄の仲間であり良き友人であるリグリット。今でも交流はある。
(久しぶりに会いたいな・・)
ツアーは少し首を曲げてそれを見る。
かつて『十三英雄』の『白銀』として旅をする為に遠隔操作していた白銀の鎧。正確に言えば鎧の中の『次元』を操作して動かしていたのだ。
ツアーは鎧ではなくその横に置かれたものに目を向けた。
魔法防壁を仕掛けられた台座に突き刺さった剣。白銀の鎧と並んでもその光景に違和感は無い。
斬るのに適していない形状をしているが抜群の切れ味を誇る剣。
究極の剣。
その形状は剣というよりは・・・・
(・・・)
(僕はここを動けないからね・・)
かつての約束を思い出す。
---いつかこの剣に選ばれ手にする者が現れる。だからそれまでこの剣を守っていてくれ。ツアー。---
---分かったよ。リーダー。---
200年前に交わした約束をツアーは思い出す。
(約束は守るよ。リーダー。)