水曜日の夕方、新幹線に乗り込みました。
台風がくる前にと、急遽予定より一日前の月曜日の夜に降り立った出張先で、ひと仕事を終え、ようやく自宅に向かえる。
ひどく疲れていて、もう何も考えたくないのに、頭の中が休まらない。
そわそわ、ざわざわ、がやがやと、考えても仕方ないことを先回りして考える。
火曜日の午後から、台風の影響で停電になっていた我が家。
水曜日のその時点でも、まだ復旧はしていませんでした。
水は出るみたいだけど、じゃあトイレは?
お風呂は?
冷蔵庫の中は全滅だろうな。
冷凍庫の中はどうだろう。。。
娘は元気そうな声だったけど。。。
夫にいくつかLINEできいてみるものの、3つの質問に対して、なぜか回答は1つだけ……。
ちっとも分からない‼
でも、苛立ってはいけない。
夫も娘も大変な思いをしているのだ。
とにかく私がドンッとかまえて、笑顔で帰る必要がある。
気持ちを整え、新幹線を降り、
ずいぶん遅延している電車に乗り込み、自宅へと向かう。
混雑した電車の中は、たくさんの披露と困惑で充満している。
目的地にたどり着き、切符をなくしたことに気づく。
駅員さんの前の小さな行列にならぶ。
重い荷物を背負うように抱え、早足で自宅に向かう。
どこの家も店も電気がつき、ふつうに営業している。
なのに、自宅の付近だけが暗闇のなか。
なるほど……うちの町内だけまだ停電中なのね。
いつもはオートロックで閉ざされているけれど、臨時で開け放たれたマンションの扉をすりぬけて、止まったエレベーターを一瞥する。
ふっとひと呼吸、非常階段の扉をあける。
暗闇の中、スマホの灯りで足元をてらし、駆け上がる。
20時半、玄関のドアをあけると、懐中電灯を持った娘が「ママー」と駆け寄ってきました。
満面の笑み。
興奮気味に、この2日間のことを語ってくる。
笑顔で帰らなきゃ。
新幹線のなかであんなに気合いをいれてきたけれど、そんなに力まなくたってよかった。
娘の笑顔でたちまちこっちも笑顔になる。
水はでる、キッチンのガスもつく、トイレの水もながれる。ありがたい。
お風呂のお湯はでない。
夫と娘は銭湯に行ったそうで、夫は「ザ昭和な銭湯やった」と言い、娘は「むっちゃ楽しかった、明日ママも行こうな」と言う。
明日には復旧しててほしいけど…苦笑いしながら、頷く。
冷蔵庫をあけると、作り置きや買い置きが、冷気を失った暗闇の中で佇んでいる。
恐る恐る冷凍庫をあけると、まだかすかに冷たく、半分凍った状態の肉もある。
これはまだいけるんじゃないか……と、あれこれぐるぐる考えはじめる。
いや、ぐるぐるしてる場合じゃない。
疲れている。
明日も会社にはもりだくさんの仕事が待ち受けている。
休もう。
朝からぶっ続けで仕事をし、コンビニのパンやチョコレートを食べただけ。
ここは試しに……と、納豆をあけてみる。
ちょっと匂いのきつくなった納豆。
食べれるだろう。
暗いキッチンで立ったまま納豆を食べる。
うん、食べれる。ちょっと発酵の進みすぎた納豆だ。
娘が「ママ、おなかすいてるの?」ときいてくる。
「うん。おなかすいてるし、腐ってないか試してるねん」
食べ干したあと、抱きついてきた娘に、「納豆くさーい」と笑われる。
歯を磨き、顔を洗い、タオルを塗らし体をふき、娘と一緒にベッドへ行く。
疲れている。
でもやっぱりうまく眠れない。
翌朝、木曜日の4時に起き上がるもまだ暗く、うっすらと明るくなり始めてから、冷蔵庫の中の作り置きをゴミ袋に放り込む。
冷凍庫の中も一部放り込む。
ちょうど生ゴミの日。捨ててしまおう。
今月は出張が複数回あり、ハードになるからと、いつも以上に、まとめて作り置き、買い置きをしていたのに……
このごにおよんで、もったいない、なんて悔んでしまう自分が情けない。
空っぽになった容器。
起きてきた夫に、ずっしり重い生ゴミを渡し、捨ててきて、とお願いする。
その日も電気は復旧せず、夜、銭湯に行く。
金曜日の朝、懐中電灯をもってトイレに行くと、夫が寝ぼけた声で「電気つくで」と。
「夜中に復旧した。声かけたけど、爆睡してた」と言われる。
そういえば、ぐっすり眠れた!
スイッチを入れると灯りがつく!
キッチンに行くと、冷蔵庫が稼働している!
約2日半とまっていた電気が動き出した。
「わぁ、ありがとう。ホントやぁ、ありがとう」
自然にお礼の言葉が何度もあふれ出る。
金曜日の朝食時、いつもは食事中にはつけないテレビをつけると、北海道の地震のニュースがとびこんできました。
知ってはいたものの、テレビもつかず、スマホもあまり見ず、新聞も開かずに過ごしていました。
大変なことになっていて、本当に大変な思いをしている人がいて…
自分のことでいっぱいいっぱいになっていたな、と思い知りました。