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ロボット開発に終わりはあるのか。クレイジーな乗用人型変形ロボット「J-deite RIDE」開発ストーリー(後編)

なぜ “爆誕”できたのか。クレイジーな乗用人型変形ロボット「J-deite RIDE」開発ストーリー(前編)

2018年4月に公開された乗用人型変形ロボット「ジェイダイト・ライド」。ロボットモード時の全高約3.7m、ビークルモード時の全長約4m。実際に人が乗って操縦でき、そのまま変形も可能な“現実に存在する”ロボットである。

実に“クレイジー”としか言いようのないこの変形ロボットが、中国でもアメリカでもなく、ここ日本で“爆誕”したことを誇らしく思うと同時に、「このとんでもないものを、日本の企業がなぜ開発できたのか」という疑問も抱いた。失礼ながら、「採算性がない」とか「思ったより開発費がかかりそうだった」とか、企画段階で様々な理由によって“ポシャりそう”な話に思えたためだ。

実際、企画・話題先行で始まった製品開発が、途中で“ポシャる”というのは、よくある話。頓挫してしまった数々のプロジェクトと、「ジェイダイト・ライド」の開発は、一体何がどう違ったのだろうか。関係者へのインタビューから紐解く企画・前編では、開発の母体となるジェイダイト・ライド有限責任事業組合(以下、LLP)が、どのように組織されたのか、その経緯をまとめた。後編では、あの巨大かつ変形する構造物をどのように作り上げたのか、作り上げたものが今度どうなっていくのか、明らかにしていく。

左:三精テクノロジーズ株式会社 取締役専務執行役員 江部 一昭氏
中:株式会社 BRAVE ROBOTICS 代表取締役 石田 賢司氏
右:アスラテック株式会社 取締役 チーフロボットクリエイター 吉崎 航氏

部品から手作りする羽目に

2016年6月。三精テクノロジーズ社との距離が急速に接近したことを受け、BRAVE ROBOTICS社の石田賢司氏(以下、敬称略)は、実際に手を動かし始める。とはいえ、LLP設立のプレスリリースが出されたのは、2016年11月のこと。当然、契約締結前のフライングスタートだが、「2017年中に完成させるものと考えていたので、これは間に合わないぞと(石田)」という判断のもと、資金はBRAVE ROBOTICSの持ち出しで、見切り発車した形だ。

開発場所は、同社の工場。「ジェイダイト・ライド」が記者にお披露目されたのは東京近郊の某工場内だったが、そこは組み立て工場に過ぎない。部品作りは、BRAVE ROBOTICSの工場、つまり2階で妻子+巨大な猫とともに石田が暮らす自宅、その1階で行われている。

天井高4メートル、関係者が「秘密基地」と呼ぶこの工場は、日常生活と巨大ロボット開発が混じりあう、世界で唯一の場所だろう。

BRAVE ROBOTICSのウェブサイトより
一方、アスラテック社の吉崎 航氏(以下、敬称略)に「いつ開発を始めたのか」聞くと、「重量が決まってから」という興味深い答えが返ってきた。

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吉崎 感覚値として、1トン以下になるかが1つのポイントじゃないかなと、石田さんと話していました。2015年6月のリリースでは、そういうところもあって、0.7トンという予定スペックにしていたのです。ただ、最終的には仕様もグレードアップしつつ、約1.7トンと、1トン増えた。

これを歩かせるには、どうしたら良いのかと考えていきます。「V-Sido (編注・ロボット制御システム)」的にいうと、足上げ動作は時速0キロメートルの歩行指示になる。ですので、まずは足踏みを試し、その後少しずつ前に進ませるという風にテストします。

歩行の生成方法自体は、1.3メートルの「ジェイダイト・クォーター」と一緒です。ただ、実際には両者を比べると、全く違った歩き方に見えますよね。「ジェイダイト・クォーター」は、膝をある程度伸ばして、コンパスのようにして歩きます。これは「タイヤの関係で脚が重い」「腿のロール軸にあまり負荷をかけたくない」「脚が比較的長く、可動範囲の関係で両脚をクロスできない」などの条件に合わせて調整した結果です。

最近気づいたのですが、コスプレでザクとかの格好をしている人の歩き方が、これによく似ているんですよ(笑)。ふくらはぎが大きくて脚をクロスできないとか、足裏が大きくて重いとか、そういう理由で同じような歩き方に最適化されていくのかもしれません。

一方の「ジェイダイト・ライド」では、その歩き方が“最適”ではありません。例えば、実験においては、歩行途中でロボットが突発的に止まることもあります。トラブルが検知された際、安全のために全関節を停止しているので、ある意味想定通りではあるのですが、もし無理な姿勢で止まってしまうと関節が壊れたり、バランスを崩したりする可能性もあります。そこで今回は、常にバランスの取れた歩き方をテストしていった。これがお披露目で見せた、腰を大きく横に振って、足を並行にして歩くスタイルです。

まずは“この歩き方”という段階で、今後トルクや関節の強度などもどんどん強化されていくため、他の動きを随時お見せできると思います。

記者発表時に披露されたジェイダイト・ライドの足上げモーション
「ジェイダイト・ライド」のソフトウェア開発は、吉崎を中心とした3名のエンジニアからなるチームで行われたそうだ。

2014年に発表した「ジェイダイト・クォーター」の開発時と比べて、彼の周辺環境はこの4年間で大きく様変わりしていった。人員が増え、オフィスも移転した。政府主導によるロボット新戦略の委員に選出され、その後設立された「ロボット革命イニシアティブ協議会」では参与を務めるようにもなった。期待される役割や仕事量が年々増えていく数年であったはずだ。

その期待に応えるだけの組織作りもまた、「ジェイダイト・ライド」を開発し続けるために必要なタスクであったのかもしれない。

結果的には、技術面においてもビジネスやプロモーションといったそれ以外の面においても、「社内外に“強力な味方”を増やすことに成功したし、できることも圧倒的に増えた」と、吉崎は語る。

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吉崎 「プロジェクト・ジェイダイト」は、弊社最初期のプロジェクト、その1つです。いまなお“最重要案件”だと思っています。実際、お披露目会には、アスラテックの社員がほとんど現場にいきました。しかも、“賑やかしに来た”のではなく、現場で各々タスクをもって、お披露目会に臨んでいたのです。

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吉崎は時間をかけ、組織として「ジェイダイト・ライド」の開発に向き合うことを選んだのだろう。

一方で驚愕すべきは、全高約3.7メートル、全長約4メートル、重量約1.7トンというあのハードウェアを、石田が一人で作り上げてしまったという事実だ。

自宅の工作機械で部品を作り、関東某所の工場へと持ち込んでは、そこで組み立てていく。
これを一人でひたすら繰り返す日々は、どう考えても“しんどい”はずである。

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石田 結果的に私一人で作ることになりましたが、当初は2、3名のスタッフを採用して、開発する想定でいたのです。ただ……。

浅見 開発費の見積もりが甘かった(笑)。予算もあるし、スケジュールも迫ってくる中で、結局は石田さんが1人でやるしかないという状況に。

石田 「ジェイダイト・クォーター」を発表した時に、勢いで「2017年末には後継機を完成させる」としてしまいました。もちろん、見通しがなかったわけではありません。学生の頃から変形ロボットを作り続けていますし、構造はその頃から発展させてきたもの。これまでの経験から、8・9割は見通しが立っていたので、なんとか間に合わせたいし、間に合うだろうという気持ちではいましたね。

BRAVE ROBOTICSのウェブサイトによれば、石田は2002年から定期的にロボットを作り続けている。2002年には「1/12スケール変形ロボット 1号機」を作り、以降2013年まで“1/12スケール”で7.2号機まで開発し続けた。その中で現在の変形機構を確立し、2014年に「1/4スケール変形ロボット ジェイダイト・クォーター」を発表したわけだ。

彼の中では当然、「ジェイダイト・ライド」も同じ流れにある。だから、形にすることの自負もあったのだろうが、とにかくサイズが違う。あまりにも違う。それは危険と隣り合わせの重量感だ。

一歩間違えれば大事故に

そもそも、ロボットが2足で倒れずに歩くというだけでも凄いことなのは、二足歩行ロボットの組み立て経験がある人なら分かるだろう。きちんと組み立てたつもりでも、動かしてみると倒れてしまう。仮に1日ロボットを操作していたとして、1度も倒れなかったら、それは奇跡だ。

転んだ拍子にサーボの向きが変わってしまえば、また面倒。それに気づかないで操作し続けると、関節がえげつない方向に曲がったまま動いて、状況は悪化する。もし「ジェイダイト・ライド」で同じことが起きたら……。想像するだけでも恐ろしい。

開発者とは言え、乗り込むのに躊躇はなかったのだろうか。少なくとも、最初に座席へ座って操縦した時は、恐ろしさを感じたはずだ。

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石田 開発の時点で、8~9割は見通しが経っていたと答えましたが、逆を言えば、1~2割はやったことのないこと。当然不安も抱えていました。きちんと計算をして組み立てているつもりでも、どこかで何かが間違っていることはありえます。基本的には、1人で作業していますから、いくら見直しても不安は拭えない。仮にその間違いが一桁違う計算であれば、組み立てた瞬間に壊れてしまうでしょう。

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吉崎 何度もテストした上でのこととはいえ、万が一もありますからね。人が乗っての変形は、本当に最後の最後、最終段階でのテストとしました。私と石田さんで乗り込んだわけですけど、勇気のいる行動ではありましたね(笑)。

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2016年11月に、「量産化を視野に人が乗れる人型変形ロボットの開発を行うためのLLPを設立」というリリースが出された後は、なかなか続報が届かなかった。開発は進んでいるのだろうか……と思われた1年後、の2017年11月。とある動画がYouTubeへ唐突に投稿された。

「J-deite-RIDE Coming Soon the end of 2017」と題されたこの動画。筆者はこれを見て、「本当に作っていたんだ」という驚きと安堵を抱いた一方、「あと1カ月で完成するのだろうか?」という疑問も持った。そして実際、完成アナウンスがないまま、2018年を迎えることになる。

“完成”の基準

2017年末には何があったのだろうか? 取材を通して3社共通で事実確認できたのは、「内部でお披露目会があった」ということ。その時点で、変形可能な機体が出来上がっており、外装も仕上がっていたという。そこですぐにお披露目とならなかったのは、様々な面で「準備が足りなかったから」なのだが、この「足りなかった」部分については、見解に相違があった。

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石田 ソフトウェア開発のアスラテックさんと、ハードウェア開発の当社、それぞれの完成物を合わせて動かし始めたのが、2017年末でした。動くには動くし変形もできる。でも、調整したいこともいろいろ出てきた。それで、お披露目を送らせて完成度を上げていくことにしたのです。

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吉崎 一言で言えば「お披露目の準備をしていた」ということになるでしょうか。プロモーション用の動画を撮ったりしたというのもありますし、「人前で安心して変形させたり歩かせたりできるように」調整をしていたということもあります。5月5日に、ツインリンクもてぎで一般公開することが決まっていたので、安全を重視しつつ動かすことに慎重でした。

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BRAVE ROBOTICSとアスラテックの見解はずれていないが、より厳しい目を持っていたのは、「ジェイダイト・ライド」の開発に欠かせなかった三精テクノロジーズだ。同社の多田裕一氏と江部一昭氏(以下、敬称略)はこう語る。

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多田 僕らとしては、2017年末に完成してお披露目できるものだと思っていました。「遊戯機械として、一般の方も乗れるようなクオリティ」での完成です。だから、僕らからしたら「なんでできてへんの」という感じ。でも、アスラテックの羽田さんが、「ロボット開発は永遠に終わらないんですよ」とかうまいことを言うんですよ(笑)。

江部 我々は普段、テーマパーク・遊園地さんから開発を依頼される立場です。当然、「いついつオープンです」と期限が決められた中で、お客さんが実際に乗れるものを納品しないといけない。その感覚では、スケジュール順守が当然なので、なぜできていないのだろうと思いはしましたね。

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2017年末のお披露目が2018年4月に延びた理由。それは、2014年と現在における、石田と吉崎を取り巻く環境の違いにあると感じられた。2014年の時に考えていた“完成”と、いま2人に求められている“完成”では、求められるクオリティが違ったのだ。

「ロボット開発は永遠に終わらないんですよ」というアスラテック 羽田卓生氏(以下、敬称略)の言葉もまた、真実味がある。ロボット電話「ロボホン」やデアゴスティーニから発売された「週刊ロビ」などで知られるロボットクリエイター・高橋智隆氏は、2018年5月にTwitterでこんなツイートをして話題となった。


普通の人が使って「完成品だ」と感じられるロボットはまだ、世界中どこにも存在しないのかもしれない。

ただ、厳しい言葉で語ってくれた三精テクノロジーズも含めて、スケジュールがある中でどう開発を終わらせていくのか、モノとして完成させていくのかという視点は共有されていたように感じる。認識の違いはあれ、皆が“完成”を求めていたわけだ。

そうして、 “試作機の完成” という1つの区切りをもって、我々の前に「ジェイダイト・ライド」は姿を現した。

記者発表会より

「ロボットがそこに存在する意義」を作れるか

世界初の乗用人型変形ロボット「ジェイダイト・ライド」がお披露目されるや否や、日本はもとより、英語/中国語/スペイン語/アラビア語/ロシア語……etc. と、あらゆる言語圏のニュースサイトに、前代未聞の話題として広がっていった。

一方で拭えないのが、「凄いけど、この巨大なおもちゃをどうするつもり?」という見方である。ビジネスモデルはどこにあるのか、何を目的に作ったのかという質問、ツッコミは当然のクエスチョンだろう。

誤解を承知でいえば、現段階の「ジェイダイト・ライド」は、巨大なおもちゃ=遊戯機械になってもいない。当然、車検が通るわけはないので、公道を走ることもできないし、公道を歩く……のに、どのような法律が適用されるか分からないが、こちらも無理だろう。

しかし記者発表で石田が語ったように、今までどこにもなかったものが生まれて、そこで初めて見えてくる世界があるとも思う。また吉崎は、ここから先にも面白味があると考えているようだ。

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吉崎 私は85年生まれ。トランスフォーマー、ガンダムF91、パトレイバーといったロボットアニメがたくさん放送されている時代に少年期を過ごしました。特に影響を受けたのはパトレイバー。パトレイバーって、社会にロボットが存在する理由付けがしっかりなされていますよね。重機の進化系としてレイバーがあって、レイバー犯罪を止めるためにパトレイバーがある。

個人的には、「1台のロボットを作って終わり」ではなくて、たくさんのロボットが社会に存在する状態を作るには、どういう理由付けがあればいいのか、法整備が必要になるのかといった、そういう部分にも興味があるのです。

吉崎は、「社会にロボットを置きたい」という言い方で自身の思いをまとめてくれたが、そこに未解決の問題があればあるほど楽しめるのが、“天才”と呼ばれる人々なのだろう。「ロボット革命イニシアティブ協議会」で参与を務める吉崎にとって、社会でロボットがどう活用されるのかは、“解くのが面白い難問”に見えているのかもしれない。

ならば、「ジェイダイト・ライド」に焦点を絞ると、この難問を解くカギはどこにあるのだろうか?

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吉崎 三精テクノロジーズさんの存在が重要ですね。「ジェイダイト・ライド」はそもそも、“三精テクノロジーズ社による遊戯機械としての発展”を視野に入れて開発したもの。研究用でも“個人の趣味”でも、もちろんないのです。遊戯機械のプロである三精テクノロジーズさんから協力を得て、プロジェクトを進められたのは、本当に大きいと思っています。

今後、遊園地で使えるように量産化を目指すわけですが、そこには課題が非常に多い。当然耐久テストが必要ですし、安全対策も詰めなければならない。仕様も変わるでしょう。もし歩行機能が不要だと判断できるなら、極論、歩かせなくてもいい。

そういう話をしていると、「アミューズメントロボットということは、子どもだましのおもちゃだよね」という人もいます。本当にいるんですよ、そういう方(笑)。私は、子どものために動くロボットって、それだけで社会的に重要な意義があるし、本気で作るとなれば、かなり難しい分野だと思っているのですけどね。

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吉崎が若くして開発したロボット制御ソフトウェア「V-Sido」は、安定した二足歩行を実現できるソフトウェアとして注目を集め、後にアスラテックのコアテクノロジーとなった。

二足歩行に特化した技術ではなく、汎用的にあらゆる形、あらゆるサイズのロボットを操作可能なソフトウェアで、まさにその点が「V-Sido」の凄さである。一方で、筆者は吉崎が二足歩行に対して、並々ならぬこだわりを持っているとも思っていた。どうすれば倒れずに、安定して歩行できるのかを研究するため、自ら格闘技を習得したほどの人なのだから。

その吉崎の口から、「二足歩行にこだわらない」という発言が出たのは驚きだ。同時に、本気度を感じるものでもあった。学術研究ではなく、産業分野における開発であって、製品として販売されるものを作るプロジェクトなのだという、強い意志を感じたのだ。

では、具体的に完成はいつになるのだろうか。我々は、テーマパーク・遊園地で変形ロボットにいつ搭乗できるのだろうか。

この問いに答えるのは、三精テクノロジーズだ。お客さんを乗せて安全に変形できるようなもの、テーマパーク・遊園地で長い年月稼働できる耐久性を備えたものといった、製品としての品質向上を成し遂げられるのは、同社以外にいないのだから。

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江部 「ショーのステージで使えるんじゃないか」など、すでに「複数台欲しい」というお話をいただいています。こうしたお声がけはあるので、後は製品にしていくという部分。これは我々の仕事です。ここから製品として完成させることを目標にしています。

多田 5月5日にツインリンクもてぎで公開した時も、子どもたちから「いつどこで乗れますか」と、たくさん質問をいただきました。1日でも早く、その質問に答えられるようにしたいですね。

ジェイダイト・ライド公開時のプレスリリースに掲載されていたコンセプトイメージ。上は変形するゴーカート。下は園内パレードでの変形デモンストレーション
スケジュールに厳しい同社がこう発言したのだから、期待しないわけにはいかない。「乗用人型変形ロボットに乗れる」日常がやってくるのは、もうすぐだ。

プロジェクトがポシャらなかった理由

インタビューを経てもなお、このとんでもないプロジェクトが途中で頓挫しなかったことに驚く。失礼だが、いくらでも“ポシャる”可能性はあったはずだ。最後に、このぶしつけな質問をそのまま投げかけてみた。

「なぜ、この話はポシャらなかったのですか?」と。

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吉崎 アスラテックの社内でいうと、それは「私がやらせたから」という話になりますね(笑)。プロジェクト・ジェイダイトについては、当初から覚悟を決めて始めたこと。このプロジェクトを通じて、技術や知見を蓄積していくという目的がある。「1年経った。進捗が芳しくない。ここでやめますか?」といった、途中で諦めるような工程を最初から設けていません。会社的にも、このプロジェクトへ文句を言う人はいませんでした。そもそも、最近アスラテックに入ったスタッフは、このプロジェクトを知った上で入社してくるわけで、当然反対しないですよね(笑)。

羽田 対社外でいうと、やはりLLPという座組で取り組めたのが大きいと思います。各社の思惑や利害関係のでこぼこを吸収できる場所、1つの箱を、皆で共有できたという部分。資本の面でも知財的な面でもそうですね。

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石田 質問を事前にいただいたので、いろいろ考えていたのですが……。答えがありません。そもそも、自分の中には「途中でやめる」という発想がなかった。頭の中にないので、選択しようがありません。強いて言えば「運が良かった」ということです。

浅見 潤氏(以下、敬称略) 経営者は運がないといけない。実際、三精テクノロジーズさんとご一緒できたそのきっかけは、石田さんがテレビに出演すると決めたからですし。

石田 あの時出演しなかったら、今はまた違う未来になっていたのかもしれませんが、それでも自分は作り続けていたと思います。私は、学生の頃から変形ロボットの開発を続けているので、“生きていること自体がロボット開発”なのです。

浅見 石田さんの強みはそこですね。ぶれない。同じことをずっと言い続けて、実際形にしてきている。ファンドにいた時感じたことでもありますが、それは信用に繋がると思います。この人なら、本当にやるだろうなと。

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石田と吉崎、2人の意見は驚くほどに一致していた。その“志”は、筆者が2人に初めて出会った2014年から変わっていないし、きっと2人がロボット開発を志した中学生の時から変わっていないのだろう。

もちろん、そういう“志”をただ掲げれば良いというわけでもない。BRAVE ROBOTICSの浅見が語るように、それを言葉に出し続けて、なおかつ形にし続けることが大切だ。

特に後者は、真似しようと思ってもなかなか真似できないこと。それこそ、2、3年前に思いついたアイディアを“志”にした程度では、形にする難しさを前に、方針転換の甘い声が聞こえてくるだろう。そして実際に方針転換した経験を持つ大多数の人たちはこう思う。「ぶれない奴は信じられる」と。

その前提があったからこそ、周囲から見て不思議に映る三精テクノロジーズを巻き込んだLLPの設立が実行されたのだ。もちろん、アスラテックの後ろに見えるソフトバンクグループの看板は大きな役割を果たしているだろうが、そこが根幹であれば、もう少し違ったビジネスモデルになっていたはずであろう。

平たく言えば、「こいつら途中で逃げへんな」という信頼を担保にして、1つの箱を皆で共有できたのだ。つまりは、「逃げちゃダメだ」である。

最後に。今回インタビューに応じてくれた3社に、多大な感謝と尊敬を贈らせていただきたい。こうしたオープンマインドの姿勢もからもまた、このプロジェクトの“らしさ”が現れているように感じた。

株式会社 BRAVE ROBOTICS
左:取締役CFO 浅見 潤氏
右:代表取締役 石田 賢司氏

アスラテック株式会社
左:取締役 チーフロボットクリエイター 吉崎 航氏
右:事業開発部 部長 羽田 卓生氏

三精テクノロジーズ株式会社
左:取締役専務執行役員 江部 一昭氏
右:遊戯機械事業本部 営業部 部長 多田 裕一氏

ノンフィクションのロボットストーリー。次回作は?

中学生の石田と吉崎が抱えた“志”は、2018年4月に1つの形を見せた。石田に言わせれば、「アニメでいうとまだ、1話目が放送されただけ」の「ジェイダイト・ライド」だが、第1話の反応は上々のようだ。

ならば、2話目、3話目にどういう展開が待ち受けるのだろうか? 公表されている情報では、2018年11月にアメリカ フロリダ州で開催される世界最大級のアトラクション関連トレードショー「IAAPA Attractions Expo 2018」に出展予定とのこと。あの大きさのものを海外に輸送するのだから、それだけで新たなストーリーが生まれそうである。

今後、「ジェイダイト・ライド」はどんな展開を見せてくれるのだろうか。それとも続編や、新たなシリーズの始まりはあるのか……。フィクションのようなノンフィクション、このロボットストーリーに、今後も注目したい。


プロジェクト・ジェイダイト
株式会社 BRAVE ROBOTICS
アスラテック株式会社
三精テクノロジーズ株式会社


写真=金子 正嗣 / 鶯巣 大介
取材・文=富山 隆太

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