さて、忙しい、とか言いながらたくさん書いてますけれど。
アメリカの Ph.D. の教育が素晴らしい、と書きましたが、今日はちょっと違う視点からなど。
アメリカの Ph.D. ホルダーが日本のそれと比べて(一般に)桁違いなのは、Ph.D. での教育が素晴らしいのはもちろんなんですが、おそらく一番は、アメリカの大学には第一線の数学者が揃っていること、が原因だと思います。
これは何も、一流の数学者と共同研究するから結果が出せる、とかそういう意味では全くないです。
数学の研究には、まず当然、研究する問題を選ばなくてはいけないですよね。
でもこれ、下手にやってはダメなんですよ!
例えばの話、既にたくさんの人が考えて出来なかった問題などをやっても、もちろん出来れば素晴らしいですが、でも何か特別の advantage でも無い限り普通は解けません。
アメリカでは、一流の数学者が揃っていて最新の研究結果を常に勉強していて、「この問題はあの人とあの人がやってたけれど解けなかった」みたいな情報交換も常にしているので、知らずにそういう問題に着手することなどはあまりないんですが(とは言っても世界は広いので当然そういうことは常に起こっているはずです)、でも第一線の研究者と触れ合う機会がほとんどなければ、間違ってそういう問題に取りかかってしまうかもしれないですよね。そういうことは論文だけ読んでいても分からないわけなので!
更に、第一線の数学者はたくさん色々な問題が見えていて、そして「この問題はこれを使えば多分出来そうだな」とか、「これは相当難しそうだけれど、もしあのめちゃムズカシイ paper を読めればひょっとしたらそのテクニックが使えるかも知れない、ハイリスクハイリターンだけれど」みたいなことを色々と分かっているわけなんですよね。
なので、そういうところにいる Ph.D. の学生もしくは Ph.D. ホルダーは、問題を "wise に" 選ぶことが出来るんです。そりゃあ、結果に大差が出ますよね。
で、これ、「今」第一線でないとダメなんですよ!
「ぼく昔 A 級に何本か出したんだけど最近はもう研究とかほとんどしてないなー」
なんて人では絶対にダメなんです!最先端の、「今」の情報を常にキャッチしている人でないとダメなんですよ!
昔ちょっと調べた限りだと、確かに東大数理には、「昔」(つまり採用されるとき)にそれなりに業績があった人はたくさんいます。でも、理由は分かりませんが、何故か、10年もすると完全に失速してしまうんですよね。
まあ、僕はほとんど何も知らないわけですが、その何も知らない僕から見ると、日本には「今」第一線の数学者が圧倒的に不足しているように見えます。東大数理でいえば20%いくんだろうか、という感じですね(数字は完全にいい加減です、念のため)。
・・・そういえば、昔日本にいたとき、ネットやまたは人づてなどで、
「自分で問題を見つけられないやつはダメだ」
なんてことを結構聞きました。
今ならはっきり分かりますが、こんなことを言う人は数学の研究というものを何一つ分かっていない人です。ただ強がりで言っているだけでしょう。
もし先生がそんなことを言うのであれば、それはつまりは教育に一切の関心がないか、もしくは
「ぼくはもう研究なんて全然してないから最近のことなんてほとんど分からないし、だから appropriate な問題なんて提案してあげられないんだ、ごめんね!」
ということです。
・・・さて、まあ本当に、よくネットに堂々とこんなこと書くよなーという感じですけれど(それも tenure も持っていない人間がですよ、正気の沙汰ではないです)、でも、これは誰かが言わなくてはいけないことなので、だから僕が言います。
今書けば、それは本当に説得力があるのだろうし(相応のリスクを負っているので!)。
ではではー☆
今回も大変参考になりました。
返信削除アメリカが良いとは聞いても、この記事を読むまでアメリカのphdで良い成果を出せる方が多いという意味を理解できてませんでした。