登録会員限定記事 現在はどなたでも閲覧可能です
まず、共有できる理念、尊重できる理念を明らかにする。小さい事のようだが、こうした取り組みが議論の大事な出発点になる。共有・尊重した理念を道標にして、海賊版対策の適否や優先順位について合意しやすくなるからだ。
海賊版サイトへの広告出稿の抑制や、利用者の同意に基づくアクセス遮断(フィルタリング)の推進は、いずれの理念とも深刻な対立をもたらさない。その点で実施の優先順位は高い。
一方でサイトブロッキングは、創作者が大事に思う「知財の保護」に一定の効果が見込める一方、ISPが大事とする「通信への信頼の保護」を損ないかねない。運用を誤れば「検閲の禁止」に穴を空けかねないとの懸念は双方とも感じている。
ブロッキング法制化の適否については引き続き議論の余地があり、今後も対立が続くだろう。ただ「サイトブロッキングは最終手段」という一点については、創作者とISPはほぼ合意できるはずだ。
その前提を共有したうえで両者が知恵を出し合えば、海賊版対策について様々なアイデアを出せるのではないか。
創作者が取り得る施策については「CDN(コンテンツ配信ネットワーク)事業者の提訴」「月額制の読み放題サイトの開設」など、いくつかの案が既に出ている。
そこでISP側で協力できる施策について、ブロッキングと比べて通信の秘密の侵害などによるデメリットが小さいと思われるアイデアを挙げてみた。やや暴論じみているのは、ブレインストーミングということでご容赦いただきたい。
- 半年間フィルタリングのキャンペーンを実施し、青少年向けフィルタリングの実施率を高める(実施率が高まれば、ブロッキング法制化の根拠を弱めることにもつながる)
- 正規配信認証マークを取得した正規電子コミックサイトについては利用に当たりギガが減らない(月当たりデータ通信量を消費しない)、ゼロレーティングの契約形態を用意する(海賊版サイトを利用すればギガが減り、正規サイトは減らない状況を作り出す)
- 海賊版サイトの被害実態を統計的に把握するため、一定のサンプリング期間に限り海賊版サイトへのアクセス頻度(DNS問い合わせ頻度)をカウントできるようにする(正当業務行為と整理する)
- 海賊版サイトへのDNS問い合わせに対し、常にオリジンサーバーのIPアドレスを返すようにして、CDNの分散配信機能を無効化する(正規IPアドレスを返すので「遮断」には当たらないと整理する)
創作者とISPの対立が先鋭化したまま検討会議が終われば、立法政策を含む海賊版対策の検討は国会に「丸投げ」されることになる。それは創作者にとってもISPにとっても、必ずしも良いことではない。双方が冷静に話し合える環境があれば、あとはお互いを納得させるアイデア次第なのではないか。