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【暮らし】

<障害児の放課後は>(下)安心か経営か 悲鳴上げる良心的な施設

障害のある子どもたちが通う「あしたもえがお」。運営するNPO法人は報酬改定で減収となり、放課後デイ2カ所を統合した=名古屋市南区で

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 「二つが統合して通ってくる子が増えたことで、ストレスを感じている子は多い。友達の体を押したり、他の子の物を取ったり。いたずらして自分の存在を職員にアピールする子が増えた」。名古屋市南区の放課後等デイサービス(放課後デイ)「あしたもえがお」の管理者、仲松美咲さん(27)は声を落とす。放課後デイは、障害がある子どもたちが、活動しながら放課後や長期休暇などを過ごす施設だ。

 通ってくるのは、特別支援学校などに通う小学二年から高校三年までの二十五人。しばらく前までは、中学生と高校生の計十一人だったが、運営主体のNPO法人「あした」が市内にもう一カ所開設していた放課後デイを七月に閉鎖。統合により、小学生ら十四人が移ってきた。

 いずれの施設でも、子ども十人を職員七人で見る態勢を取ってきた。国が最低基準とする「十人に対して二人」を大幅に上回る。統合後も同じ態勢だが、それでも「どうしても小さい子に目がいってしまう。学年が上の子には、寂しい思いをさせてしまっている」と、仲松さんは表情を曇らせる。

 統合の要因は、福祉サービス事業者宛ての国の基本報酬が四月に改定されたこと。通ってくる子どもの障害の重さに応じて報酬額が二つに分けられたが、閉鎖された放課後デイは報酬が低い区分となり、法人は年間約二百万円の赤字が見込まれた。職員を減らすことも検討されたが、「安全に見守れる態勢を維持するため、人件費を減らすのではなく二つを統合して家賃負担を減らすことを選んだ」と仲松さんは説明する。

 経営悪化の背景には報酬改定の他、ここ数年、同様の施設が急に増え、競争が激しくなっていたこともある。厚生労働省によると、放課後デイは制度化された二〇一二年度は全国に約三千カ所だったのが、昨年四月時点では一万一千カ所と約四倍に。普及を図って報酬が高めに設定されたことや、利用者の負担が原則一割ですむため、安定的に利用者が見込めるとして、利益を求めて参入する事業者も少なからずいたためだ。

 しかし、質の低下も問題視されるようになった。愛知県では昨年、管理者や保育士らを置かず、利用料の公的負担分や報酬を請求したとして、県内の運営企業が、六カ月間の新規利用者の受け入れ停止となり、約一億二千万円の返還を求められる事例もあった。

 悪質業者も含む新規参入者の増加は、国や自治体の財政も圧迫。公費負担総額は、一二年度の四百七十六億円から一六年度は千九百四十億円に膨らんだ。

 報酬改定で国は、こうしたことへの対応を図った。しかし、適正に運営し、子どもたちに放課後の居場所を提供してきた放課後デイが、あおりを食う状況に、不安を抱く人は多い。「うちの子は、部屋中を走り回って、じっとできない。小さな子にぶつかってけがをさせないかが、一番心配」。知的障害を伴う自閉症の高校二年生の長男(16)を通わせている母親(55)は統合の影響を懸念する。

 「利益追求の事業所が増え、質を担保する必要があるのは分かる。でも放課後デイに支えてもらえなければ生きていけないほどお世話になってきた。安心して預けられるところまでが、追い込まれる状況はおかしいのではないか」と言う。 (細川暁子)

 

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