漆黒の英雄譚 作:焼きプリンにキャラメル水
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モモンが毒の抵抗<レジスト>に成功してから一週間も経たない内に石化の抵抗<レジスト>も出来るようになった。その時ミータッチが言ったのだ。
「そろそろ毒と石化の状態異常を治療してもいいだろう。」
「もう抵抗<レジスト>の修行は終わりですか?」
「モモン。君は毒と石化の抵抗<レジスト>が出来るようになった。ならばこれ以上その修行は必要ない。」
「はい。」
「それに今後の新しい修行には治療が不可欠だと思うよ。」
ミータッチのその言葉にモモンは納得した。毒と石化の抵抗<レジスト>の修行の時ですらそれだけに集中していたんだ。他の修行中に抵抗<レジスト>し続けることは非効率でしかないだろう。
「分かりました。」
「よし。これを飲んでくれ。」
ミータッチが赤いマントを探ると二本のポーションが出てきた。両方とも緑色のポーションで容器が違っていた。片方は丸く、もう片方は四角であったのだ。それぞれ飲み口の部分である突起はあった。
「この丸いのが毒を治療、こっちの四角のが石化を治療する。」
そう言ってモモンに渡す。モモンはその二本を受け取るとすぐに飲み干した。
「不味い・・です。」
「良薬口苦し・・と言うだろう。身体に良い証拠だ。」
そう言ってミータッチは笑った。
「さて・・今後・・モモンに教えることを決める為にも一度私と戦って貰おう。」
「えっ!」
師匠であるミータッチと戦う?
「安心してくれ。最初は手加減する。」
再びミータッチは赤いマントからそれを取り出した。
「この剣を使っていい。」
「この剣は?」
それは漆黒と呼ぶに相応しい大剣であった。剣先は扇状に大きくなっており、剣の刃には二匹の蛇が絡まるような模様が刻まれている。柄は棒のような真っすぐではなく握りやすいように凹みがある。剣全体の印象は『黒い蝋燭』の様な印象を持つ。
「この剣の名前は黒い蝋燭<ブラックキャンドル>。見ての通り大剣<グレートソード>だ。効果は色々あるが・・今はいいだろう。」
モモンは剣を右手に持つと振り回す。かなり重たく綺麗に振り回せない。この剣を扱うにはまだ自分では力不足であることをモモンは自覚する。
「ミータッチさん。この剣はもう一本ありますか?」
「あるのはあるが・・まさか二刀流で挑む気か?」
「はい。」
「・・分かった。」
そう言ってミータッチは黒い蝋燭<ブラックキャンドル>をもう一本取り出した。
モモンはそれを左手に持つと振り回す。やはり綺麗に振り回せない。
(持つことすら難しいのに何故二刀流なんだ?)
「それではこれから戦ってもらう。構えろ。」
ミータッチはそう言ってモモンに構えさせる。
モモンは二つの大剣を自身の左右に広げるようにに構える。
(本能的に大剣の性質を理解しているのか・・・大剣を振り回すことを考えると余計な構えは必要ない。成程・・悪くはない。)
「?」
「安心しろ。今の君には剣も盾も必要ない。」
ミータッチは剣も盾も装備しないままであった。
「よし。どこからでも掛かってこい。」
ミータッチは仁王立ちで立つ。
「行きます!」
モモンが走る。ミータッチに向かって走る。右手に力を込める。
「・・・」
ミータッチはこちらを向いたままだ。
モモンは右手を振り上げる。重たいが持てない程ではない。
モモンはミータッチの左肩に目掛けて剣を振り下ろした。
しかし剣は空を切っただけだった。すでにミータッチはそこにはいなかった。
「その程度か?殺す気で掛かってこい。」
声がした。いつの間にか背後に回られていたのだ。
(!?・・見えなかった!!)
モモンは振り下ろした右手を斜めに振り上げ、そのまま全身を回転させて背後にいるミータッチを斬りつけようとする。
姿を確認・・攻撃範囲内・・イケる!
今度は感触があった。
(やった!!・・・!!?)
モモンが攻撃に成功したと思った瞬間であった。すぐに目の前の光景を理解する。剣が当たったのは床であり、そこには一滴も血痕は無かった。それはつまり・・
「成程・・モモン・・君の戦い方や考え方は大体分かった。」
当然だがダメージ一つ受けていないミータッチの声が聞こえた。
「どこに!?」
「ここだ。」
そう言ってミータッチが姿を現す。
「目の前!?」
「ずっと目の前を左右に跳んでいただけなんだが・・そうか見えなかったか。」
モモンは理解する。ミータッチとの差が大きいことを。
「くっ!」
モモンは姿を現したミータッチに目掛けて左のグレートソードで斬りつけようとする。
攻撃が目前に迫ろうとミータッチは動こうとしなかった。
(さぁ・・どう動く?)
モモンは密かに右手に力を込めた。ミータッチが目の前からいなくなれば右手のグレートソードで背後に向けて回転するように斬ろうと決めていたからだ。
「!!!???」
モモンは驚愕する。ミータッチは足を動かすことが無かったのだ。
「遅い・・止まって見えたぞ。」
ミータッチは『一本』だけで剣を止めたのだ。だが『腕一本』ではなく、『指一本』で止めたのだ。それも小指という指の中で最も小さい指でだ。
「もっと早く!もっと鋭く斬ってこい!」
モモンはその言葉に対して剣を振り回した。
一撃目・・防がれる
二撃目・・防がれる
三撃目・・防がれる
もう何十回剣を振り回したか分からない。左右の腕が疲労で大剣をまともに振り回せない程になっても攻撃はミータッチに当たることは無かった。呼吸が辛く、いつの間にか足腰には力が入らなかった。
「そろそろ頃合いか・・」
そう言うとミータッチは姿を消した。
(後ろか!?それとも前か!?)
モモンは両手に力を込めた。恐らくこれが最後の一撃だ。
「こっちだ。」
声の方向は前後では無かった。それは上だった。
モモンが視線を向けると天井に足を置いていたミータッチがいた。ミータッチが天井を蹴ると・・
いつの間にかモモンの額に小指が当たっていた。
ミータッチがモモンの額から指を離すとモモンの目の前に跳ぶ。
「君の負けだ。モモン。休憩にしよう。」
モモンの額から血が流れ出る。先ほどの攻撃をもし止めていなければ間違いなく死んでいた。
「まだまだ・・」
「実力差は理解しただろう。」
「それでも俺は・・」
「そうか・・君はまだ戦うつもりか。ならば本当の実力差を教えよう。」
「っっ!!!!????」
ミータッチがモモンを見る。途端、モモンは全身が凍てついたように動けなくなった。恐怖なのか何かは分からなったが、圧倒的な何かに圧迫されているような感覚だった。息が出来なかった。
「これで分かったか?君は私に近づくことすら出来ない。」
「!っ・・」
モモンは口内を噛み、痛みで何とか動こうとする。しかし動けない。
「これで終わりだ。」
「!!っ・・」
モモンは自身を圧迫するような何かが消えたのを理解した。左右の手に持っていた剣は落ち、自身の身体が床に倒れこむ。
「はぁはぁはぁ・・」
ミータッチがこちらに向かって歩く。
「さて休憩にしよう。君はそこで休むといい。私は少し用事があるので出かけるよ。」
(ちくしょう・・俺は弱い。もっと強くならなくちゃならないのに・・くそ)
去っていくミータッチをモモンはただ背中を見ることしか出来なかった。