漆黒の英雄譚   作:焼きプリンにキャラメル水
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純銀の聖騎士

「誰かが困っていたら助けるのが当たり前。」

 

そう言って『純銀の聖騎士』は手を伸ばす。

 

あぁ・・そうか・・これが『英雄』か・・

 

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モモンは目を覚ます。

 

(夢か?)

 

辺りを見渡す。そこはギルメン村でも奴隷として入れられた檻でもなかった。よく分からないがタブラスおじさんから聞いた話に出てきた一般的な街に暮らす人の部屋なのだろう。モモンのいるベッドと木で作られたサイドテーブルと棚がある。サイドテーブルには水が入った桶と透明な容器があった。桶からは湯気が出ており、透明な容器からは水滴が汗のように出ている。部屋自体は簡易な作りなんだろう。窓はなくドアが一つあるだけだ。

 

(どうやら再び奴隷として捕らわれた訳ではないようだ。)

 

モモンは身体を起こす。服は脱がされており、顔や身体に包帯を巻かれている。

 

(手当てをしてくれたのか・・)

 

あの『純銀の聖騎士』に助けられたのか。そう思うとモモンは少し安心する。

 

ドアが開く。

 

「目が覚めましたか?ウジムシ」

 

黒髪黒目の女がそこには立っていた。ギルメン村でもいたがあの髪型は確かポニーテールというやつだったかな。女の容姿は非常に整っている。ただしその目つきは鋭く少しばかり威圧感を感じさせる。声からしてあの『純銀の聖騎士』とは違う人物なのはすぐに分かった。その両手には何やら釜のようなものを持っていた。

 

「あぁ。君が手当てしてくれたの?」

 

(ウジムシ?)

 

「えぇ。全身傷だらけでしたので・・服も汚かったので勝手に脱がしましたよ。シロアリ」

 

服を脱がされたのがこの子だと知ると少しだけ羞恥心を覚えた。だけど今はそんなことよりも言わないといけない言葉がある。

 

「手当てしてくれてありがとう。えぇと君の名前は?」

 

「あなたに教える名前はありません。ダンゴムシ」

 

(さっきから虫の名前ばかり言っているが虫が好きなのか?)

 

そう言えばギルメン村にも虫好きな奴がいたな。ルシアか・・懐かしいな。

 

「そっか・・でも手当てしてくれて本当にありがとう。」

 

そう言ってモモンは感謝の言葉を述べる。

 

「俺の名前はモモン。」

 

「聞いていないのですが・・」

 

「・・・」

 

「ではモモン様と呼ばせていただきます。」

 

「それでいいよ。」

 

「モモン様。これをどうぞ。」そう言って少女はサイドテーブルに釜を置く。釜の蓋を開けると湯気が立った。

 

それを見たモモンは自分が空腹であることを自覚した。

 

「これは?」

 

「お粥です。このスプーンを使って食べて下さい。」

 

そう言って少女がモモンにスプーンを手渡してくれる。

 

「ありがとう。」

 

モモンはお粥を勢いよく食べ始めた。

 

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「ではお下げしますね。」

 

「ありがとう。」

 

少女が釜を持ってドアから出ようとした時だった。

 

「すまない・・俺を助けてくれた人はどこにいるんだ?お礼を言いたいんだ。」

 

その言葉に反応して少女が顔をこちらに向ける。

 

「純銀の鎧を着たお方のことですか?そのお方ならばすぐに会えますよ。あぁ・・服をお持ちしますね。」

 

そう言って少女は部屋を出ていった。

 

モモンは自分の腕を全力でつねる。痛い・・

 

「これは夢・・なんかじゃないな。」

 

「俺は助けられて・・生きている・・」

 

ようやく自分が助けられたことを実感したモモンであった。

 

それから少しして少女が着替えを持ってきてくれた。モモンはお礼を言いそれに着替える。

 

村の時の恰好とは違うが、これが街に住む人の恰好なのだろう。

 

モモンが着替え終わった後、ドアがノックされる。

 

「はい。どうぞ。」

 

少女が言う。

 

「失礼するよ。」

 

そう言って現れたのは先程助けてくれた『純銀の聖騎士』だった。ただし兜は脱いでおり、そこには白く染まった髪や眉があった。

 

「助けてくれてありがとうございます。」

 

「気にするな。誰かが困ってたら助けるのが当たり前だからな。」

そう言って男はモモンの頭を撫でながら笑う。

 

「ありがとうございます。」

 

モモンは頭を下げて礼を言う。

 

「俺の名前はモモンです。あなたの名前は?」

 

「あぁ・・私の名前はミータッチ。ナーベラルの父親だよ。」

 

(ナーベラル?あぁ・・先程の少女の名前か・・)

 

この時モモンは初めて先程の少女の名前を知った。あの黒髪のポニーテールの少女がナーベラルか。

 

「もし話せるなら何故追われていたか聞いてもいいかな?」

 

「えぇ。お話します。実は・・」

 

モモンは全てを話した。ギルメン村が滅ぼされたこと、一人だけ生き延びてしまったこと、意識を失っている間に奴隷として売られそうになったこと、そして一人のエルフの助けがあって逃亡できたこと・・

 

「・・よく生きていてくれた。」

 

モモンは過去を話していく中で全てを鮮明に思い出す。全身が悪寒に襲われる。

 

「俺・・オレ・・おれ・・」

 

その様子を見てミータッチが赤いマントを外してモモンの肩に掛ける。そのマントは炎の様に温かく優しかった。

 

「もう大丈夫だ。」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

今まで抑えていた感情が爆発する。悪夢の様な日々・・・地獄の様な光景・・

全てを否定され、全てを奪われた・・・

 

もう・・大丈夫なんだ。『俺』は・・

 

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モモンが落ち着いた所でミータッチが質問する。

 

「所でギガントバジリスクの毒とか石化は大丈夫だったのか?」

 

「分かりませんね。腕は石化されたのを切断して止めましたが、毒はあれから何度か吐血しましたし治っていないでしょうね。」

 

「少しいいか。」

 

そう言ってミータッチはモモンの額に手を置く。

 

「どうしたんですか?」

 

「ふむ・・・成程。」

 

「?」

 

「石化と毒に対して耐性が少し付いている。恐らくだが今の君なら抵抗<レジスト>することも可能だろう。」

 

「抵抗<レジスト>?」

 

「ギガントバジリスクの目は石化の魔眼と言って、その瞳に捉われた者は石化していく。体液・・この場合は唾液や血液といったものだが、これは猛毒を含んでおり触れただけで継続的なダメージを与えるものだ。他にも種類が色々あるが、それらに対して抵抗できることを『抵抗<レジスト>する』と言う。」

 

「・・今の俺ならギガントバジリスクに勝てるということですか?」

 

モモンが真っ先に思ったのはクワイエッセという男と戦うことであった。

 

「いや違う。あくまで耐性があるというだけだ。今の君ならギガントバジリスクを相手にするのは不可能だろうな。」

 

「そうですか・・」

 

モモンが頭を下げて落ち込む。

 

その様子を見たミータッチが口を開く。

 

「もしかして強くなりたいのか?」

 

モモンは顔を上げてミータッチの顔を見る。

 

「はい。俺はもう誰かに守られるだけじゃ嫌だ。今度は俺がみんなを守りたいんだ。」

 

その瞳には覚悟があった。何があってもあきらめない。そんな瞳をしていた。

 

(この少年が・・モモンが強くなる理由を見極めなければならないな・・)

 

「明日から私の知る限りのことを教えよう。それで強くなるかは君次第だ。」

 

「お願いします!」

 

 

 

 

 

 

 








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